就職支援会社アザー

零文

入社

1-1

 人材派遣会社アザー。

 今日から俺が働く会社である。

 つか、アザーなんて会社、全然聞いたことないんだけど。

 まぁ、Fラン大学出の俺にはこれぐらいのとこしか入れなかったのも確かだ。

「あー、働きたくねぇ」

 入社初日からこのモチベーションよ。我ながらダメな人間だ。

 あー、帰ってゲームの続きやりてぇ。

 そう思いながらも、会社の入っているビルに足を踏み入れる俺エラい。

 東京都心のビルの地下に本社を構えるアザー。

 中小企業のはずなのに、こんな都会にビル借りられるものなのか。

 そして、本社とはいっても他に支社があるわけではない。ここ一つだけだ。

 このビルは他の会社も入っている総合ビルで、エントランスには、朝の通勤時間ということもあって大勢の人が慌ただしく行き交う。

 その多くの人がエレベーターに向かう中、俺は隅の方にある扉へと向かう。

 あの扉の奥に階段があって、そこから地下に降りて行く。

 ギーッと金属の扉独特の音を立てながら、下に降る階段……電気すらついてねぇ!

 手探りで電気のスイッチをつけ、階段を降りる。

 ここ、非常階段以外の用途で使われてないんじゃないのか、というほど人の使っている形跡があまりない。

 俺も選考でここにきた時は、入っていいものかと迷ったものだ。

「おはようございます」

 階段を降りきった先の扉が一つ。その扉を開いたらそこが今日からの俺の職場だ。

「おはようございます」

「おはよう、向井君。あぁ、姫野さんは向井君はじめましてだよね。紹介しておくね。こちら向井君。今日から、うちに入ってもらうことになった新人君だ。こちらは姫野さん、うちで受付を担当してくれている」

「はじめまして、向井です」

「姫野です。よろしくお願いね」

「そして、改めて。僕は伊勢です。立場的に君の上司になるので、分からないことがあったら僕に聞いてね」

 向井君のデスクはあちら。と、スチールのデスクを指差す伊勢さん。

 伊勢さんとは、選考の際にも会ったことがある。

 物腰の優しい、身なりも整った紳士だ。年齢は30歳ぐらいだろうか、いつもにこやかな笑顔を浮かべている。

 そして、こちらは初めて会った、姫野さん。滅茶苦茶に美人だ。

 何かモデルとかされてましたか? っていうぐらいにスラッとした体型に海外の女優さんのような日本人離れした顔立ち。

 外国人? ハーフ? 分からないけど、見るのをためらうぐらいの美人。

「とりあえず、今日は9時30分から一人、求職者の方が来られるから、さっそく僕についてもらえる? どんな感じか見てもらいたいから」

「分かりました」

 どうやら、伊勢さんにつく形で研修をやっていくということらしい。

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