第8話 俺のスキルだけなんか違う
何発か弾丸がいいところに命中したらしい。明らかにひるんだコカトリスは、金属的な長鳴きを一声振り絞ると、空中へ羽ばたいて飛び上がった。
「逃がすものか!」
怪物は離れた場所に着地して走り出した。追撃しようとカイトスが再び短銃を掲げたが、彼女は次の瞬間「ぢっ!!」というような悲鳴を上げて、武器を取り落とした。コカトリスはその隙に短銃の射程を脱して、村の外に拡がる林へ逃げ込んでしまった。
「どうした!?」
馬を降りてカイトスに駆け寄る。気丈に振る舞ってはいても、十四歳の女の子なのだ。
「熱っつぅ……!」
彼女は涙目になって、手首から先をぷるぷると振っていた。地面に落ちた短銃からは、うっすらと白い煙が上がっている。なるほど、短時間に撃ちすぎて銃身や金属部分が過熱したらしい。
「惜しかったなあ」
デネブが馬から降りて、辺りを見回した。
「僕の借りた馬、あれははもう駄目だ。学院に戻ったら始末書を書かなきゃ……まあでも、見たまえ二人とも」
そう言って少し離れた地面の上を指さした。人間のものよりも薄い感じのする赤い血液が、小道のへりに生えた草を濡らしている。
「これは……それなりの深手を負わせたかな?」
「良かった。手ごたえはあったと思ったんだ……長くは生きてないかも知れないし、少なくともすぐには戻ってこないだろう」
そういうものか、と思うが、デネブも同意見のようだった。これで調査が始められる、とうなずき合う二人だったが、俺はさっき見たものがいまだに納得いっていなかった。
「ところでカイトス殿下、今のはどういう……? その、どう見ても短銃は単発なのに」
「ああ。これは僕の『神授スキル』ってやつだよ。『
「二連発?」
「意地悪い条件だよね。そういう銃もないわけじゃないが、おいそれとは手に入らない。僕は二丁同時に使うことで、条件を無理やり突破してるんだ……思いつくまでは『とんでもないゴミスキルを授かった』と、本気で恨んでた」
いや待て、いろいろとおかしいだろう。第一、装填を省略ってどうなってるんだ。それと――
「あの、すみません。神授スキルってのは? 初耳なんですが……」
デネブが不思議そうな顔で口を挟んできた。
「え、シュバルツ君は知らんのか? 十歳になると寺院に行って授けてもらうやつだ、やったろ?」
「えぇ……」
脇をつつかれてそっちを見ると、カイトスが何か訊きたそうな様子で俺の顔を見ている。おおよそ言いたいことが分かった気がしたので、俺はぶんぶんと首を横に振った。
(ひ、ひよこの雌雄鑑定は、それとは違います!)
言葉にはしていないが、言いたいことは伝わったようだ。彼女はデネブに視線を移して、もっともらしく首をかしげて見せた。
「シュバルツは本当に知らないらしいな……デネブ卿はどんなスキルを?」
「あー、僕はあんまり教えたく……教えない方がいいんだろうが、まあさっき見せたから同じことか。僕のスキルは『
「……暗殺者泣かせですね、それは」
「切り札ともいえるね。父上のあとを継いで軍の元帥になるつもりだから、ピッタリさ」
お互いにこのメンツ以外には内緒にしよう――そんな会話で盛り上がる二人を他所に、俺はひどい疎外感を味わっていた。
「神授スキルってのは……寺院で授けてもらえるんですか」
十歳になったら寺院でスキルを授かる? そんな儀式のことは聞いてなかった。
「……ミロンヌには確か大きな寺院とかはなかったな。もしかすると、旅費とか、儀式のお布施とかを」
カイトスが気の毒そうな目で俺を見ながら、おずおずと推測を口にしかけた。
いやな結論になりそうだ。貧乏貴族の三男坊ともなると、その辺は省略されてしまったのかもしれない。酷いじゃないか、ほんの幼児のころからひよこの雌雄を見分けて領地の産業を助けてきたってのに。
「あ、ああいや、とりあえず今はいいですから! 調査だ、調査をしましょう!!」
馬のいななきや俺たちの話し声に気づいて、何人かの村人が家から外へ出てくるのが見えた。どうやら、彼らはコカトリスを恐れて家に逃げ込んでいたらしい。もしや、卵の件もそれが原因なのか?
「王立学院から調査に来ました……卵の出荷が滞ってる件でお尋ねしたい。ご協力ください」
三三五五と集まって来る彼らを見ながら、俺は心の中でちょっとだけ泣いていた。
今からでも金を握って寺院に行けば、いい感じのスキルを貰えるんだろうか?
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