第14話初戦 大イノシシ


「ホネ子や短い間であったがなかなか楽しいときを過ごせたのじゃ」

『私もあなたのような面白い生き物に出会えたことは幸運でした』


 義輝ちゃんが両手にホネ子ちゃんを乗せて最後のお別れをしている。


「義輝ちゃん俺との楽しいときは?」

「・・・っ!死ねっ」


 顔を真っ赤にして問題発言する義輝ちゃん。中身は男でも恥ずかしいのか、これは脳内にメモしておこう。次の時の参考にできるな。


「よーしそろそろ倒すか」

「ホネ子やサクの頭は本当におかしくなっておらぬのか?」

『残念ながらあれがいつものご主人様です。雨乞い2.14システムからの干渉も一応私が防御してますから不可能ですし』

「ひっでー言われようだな」


 倒すの止めるぞ。一緒に死ぬか?


 今の俺達のいる安全領域の周囲には軽自動車並みの大イノシシが徘徊している。一歩踏み込むだけで振動が伝わって来た。目の前にいると視界が全て大イノシシの巨体で埋まってしまう。

 安全領域がなかったらこんな間近で見ることは出来なかっただろうな。


「この大きさだと山の神とか言われそうだな」

「山の神はもっとでかいのじゃ」

『このイノシシの数倍は大きいと情報にはありますね。おそらく大型トラックぐらいでしょうか』


 マジいるのか~、そこまでいくとさすがに対処できなかった。


 義輝ちゃんが頭にホネ子ちゃんを乗せて俺の服の袖を引っ張る。その顔は真剣で少し赤くなっていた。


「のうサクよ。意地を張らんでも良いのじゃ。最後くらいは余が慰めてやるから、な?」

『私部屋に戻ってますよ。ギリギリまで海外ドラマ見てますから』

「お前らそんなに俺の言っていることが信じられんのか」

「だってクズじゃしなぁ」

『しれっとやっぱ嘘でしたと言いそうですし』


 マイナスに信頼が高い男サクです。

 覚えとけよ義輝ちゃん、あとで凄いことしてやるからな。


 別に難しくないと思うんだがな。無限村Pがあって制限があってコンビニやホームセンターぐらいで用意出来るものしかなくてもな。



 そのイノシシは苛立っていた。

 夜の間に自分の縄張りを探索して寝床に戻ろうとした時に不快な匂いを感じたのだ。眠気も吹き飛びその漂ってきた匂いを追いかける。たどり着いた場所には大イノシシ嫌う人いう生き物の排泄したものが木に根本にかけられいた。

それは大イノシシの頭を怒りにに十分だった。

周囲を探すが見つからない。苛立たせる相手の匂いは周囲にしか漂っていなかった。というこは近くにいるはずなのだ。なのに見つからない。


 匂いの元の木から周囲を探していく。それが大イノシシにとって確実な方法だった。匂いさえわかって音さえ聞こえれば、あとは見えにくい目でも相手を捉えられて突進すればいいのだ。

 そしてその時はやってきた。


「おおおーいっ、こっちだぞおぉ!」


 匂いの元があった気の反対側、そこに不快な姿を発見する。二本足で立つ気持ち悪い生き物、それが二匹いた。

 一匹は白く背が低く。ガタガタと震えている。気にくわないのはもう一匹のほう、背が白いのより高くこちらを見てニヤニヤ笑っている。

気にくわない。この周辺のヌシである大イノシシとってなんとなくであるが自分が侮られていることはわかる。


前脚で地面をかく。突進の前準備だ。大抵の調子に乗った連中はこれで弱腰になるのだ。


「なんだそりゃ、もしかして威嚇のつもり?馬鹿だなそんなことしてたら普通逃げられるだろうに。俺は逃げてやらんからこいよ、ほら全力で」

「ば、馬鹿はお前じゃっ!早く逃げるのじゃっ」


 だが白いほうは慌てているが背の高い方は完全に大イノシシを挑発していたのである。


「プギイイィィィッ!」


 大イノシシは一歩目から全力で駆けた。五歩目にはほぼ最高速度に近い速さになる。少し開けた場所にいる二匹にはすぐに気に隠れることもできない。そしてもう大イノシシから逃れられることはないのだ。

 もし突進を躱せても匂いがある限り大イノシシは追い続ける。完全な詰みの状況、このまま殺されるのが一番ましな死に方だった。


 大イノシシは地面を揺らしながらかなりの速度で二人に突進する。普通のサイズのイノシシなら牙は太ももに突き刺さり大量出血を起こすが大イノシシの牙は腹部のあたりに当たる。

その突進力で死ぬか腹を突き破られて死ぬか大イノシシは心の中で笑った。

 そしてその牙が当たる寸前


「引っかかたなばぁーか」


 背の高い方の声が横から聞こえ


 肉を貫く感触が大イノシシには伝わらずに、ガシャンと音が聞こえて硬いものに当たる感触があって顔にキラキラしたモノが降りかかり目に激痛が走った。

 痛みがあってもその巨体はすぐには止まることが出来ない。

 だが何かが身体の前面にまとわりつき、痛みと目が見えない混乱中の大イノシシは簡単に転倒した。

 そして転倒するときに踏み間違えた右前脚はその巨体の重さと突進力を全て受け止めあっさりと折れる。


 目が見えず。何かがまとわりついて右前脚が折れた大イノシシはその場で残った足を空中で動かすだけの存在になり果てた。


 俺は転倒した大イノシシがその場から動けないのを確認してから横から出てくる。

 遠回りして頭部の方に近づく、横倒しになっていても軽自動車並みの体格なのでその暴れている足が掠っただけで致命傷だ。

 

「あーうるせえな」


 鳴き声がうるさい。耳を塞ぎたいが万が一があるからそれも出来ない。

 頭部の方に回ると大イノシシの目にはガラスが刺さって潰れていた。片方だけで見えなくなれば幸運と思っていたが両方とも完全に潰れていた。

 右前脚は折れ、その体には大量の透明なテープと俺達が過ごしたテントが絡みついていた。


 別に大したことはしていないのだ。

 大きめの姿見を用意して大イノシシが位置に配置、斜めにして俺達を写すようにしたのだ。

 鏡の後ろには木の間に粘着力の強い透明のテープを緩く張って、鏡に突進してきたらテープがまとわりつくようにした。ついでに緑のフィルムを先端テープに付けて幾つかおいておいた。テントもいらないから巻き添えにするよう配置。そして大イノシシがいい位置にいるときに安全領域を解除して姿を現しただけである。

 結果は今も暴れる大イノシシの脚にどんどん絡みついていっている。こいつは俺達が助けない限りこの場から動けずに餓死することになる。


『ご主人様は悪魔ですか』

「安全に倒せる方法がこれしか思いつかなかったんだよ」


 この異世界のイノシシだから簡単だった。義輝ちゃんが身をもって体験してくれたのを教えてくれたから、狂ったかのように突進してきて吹き飛ばされるか牙に突かれると。ただ突進方向を限定して罠を仕掛ければ簡単に倒せてしまう。まあ物品交換で現代日本の物があるのが大きいアドバンテージになっているけど。


 すでに物品交換していたあるものを大イノシシの頭部にかけていく。それはジェル状の着火剤、それを二本分全てかける。動けなくなってもなんの技術もないひ弱な令和の日本人には大イノシシを切ったり刺したりして殺すことは難しい。安いジッポライターに火をつける。


「じゃあな」


 大イノシシの顔にジッポライターを投げる。一気に火が顔全体に広がった。この巨体なら火傷だけで済むかもしれないが、火が付いた場所は口と鼻がある顔。一呼吸するだけで呼吸器官がダメになる。

 義輝ちゃんもホネ子ちゃんも武器にこだわり過ぎだ。武器が効かないのなら生き物として致命的になる方法を考えればいい。

 大イノシシは短時間で動かなくなった。


「あ~疲れた」


 肩を回して強張りをほぐす。思っていたより生き物を殺すのは負担になったようである。


『お疲れ様です。ご主人様は凄いですねこれだけの大イノシシを倒せる人はそういませんよ』

「いやいや、この世界が雨乞い2.14というゲームを準拠にしているからそう難しくなかっただけ。いくら強くても突進しかしてこないのはなあ」


 体の感覚はリアルなのは昨晩義輝ちゃんとのハッスルで確認済み。けれど大イノシシの行動パターンでゲームなのを実感する。

 この世界はホネ子ちゃんが前に言ったゲームから作られた異世界が濃厚のようだ。はてさてどこがリアルでどこがゲームなのか少しずつ調べていかないとけないな。


「そういや義輝ちゃんは?」


 一緒に大イノシシへの挑発していたが。


『え~とですね。大イノシシの突進は義輝に死を覚悟させていたみたいでですね』

「うん」

『生き残った安堵とご主人様の容赦のなさにそのシャーッと出まして、今はそちらの木の裏側で処理中です』


 あ~まあそうなるかもね。勝てると思っていた俺でもやはり怖かったもの、何も知らない義輝ちゃんはどのくらい怖かっただろうか。

 でもね今そういうこと聞くとちょっと勝利の興奮が結構俺にはあってですね。


「すぐにここを離れようと思ったけどさ時間は取れる?」

『まだ早朝なので一時間ぐらいなら安全領域を展開していれば取れますけど』

「なるほどなるほど、では安全領域を展開後ホネ子ちゃんはゴールーム」

『・・・最長二時間です。終わったらこのボタンを押してくださいね』

「はーい」


 さすが出来る子ホネ子ちゃんだ。

 さてと


【性欲無効を解除しますか?】


今後このコマンドを何回見ることになるのかな。はいと。


「うう、酷いのじゃ。教えてくれていたらこんなことにならなかった・・・な、なんじゃ!?お、乙女が隠れているのに来るなのじゃあっ!あ、木に押さえつけるなのじゃっ」


 勝利の興奮で少し激しいかもしれないけど。

 いただきまーす。


「あーっなのじゃーっ」


 のじゃは付くんだな。

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