この世界が終わる時あなたは誰といますか?

金木犀

最終話

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《登場人物》

末永 咲(すえなが さき)

荒垣 唯斗(あらがき ゆいと)

――――――――――――――――――――



「ねー、今日は何する?」


部屋に響くまだ夢の中にいるような間の抜けた声。


「そうだなーま、最後だし何かやろうにも何にもできないだろ。いつも通りでいいんじゃないか?」

「まぁ、それもそうだね.....」


そう言った声はどこか悲しそうだった。



▼▽▼▽▼▽


1ヶ月前、世界中で流れたあるニュースが人々を混乱に陥れた。




――今から1ヶ月後、地球に隕石が落ちて来てこの世界は終わる




そんな小学生が考えた漫画のような話を最初のうちは全員が笑い飛ばして、本気にしようとしなかった。

だが、ニュースで説明をした人が世界的に有名な宇宙調査機関の人だったことでその話は信憑性を持ってしまった。

人々は恐れ混乱し、地球から脱出しようとした。

しかし、地球から出られたのは莫大な資産を持つお金持ちだったり、それぞれの国のリーダーばかりだった。

結局、地球から出られたのは全人口の4割に満たなかった。

この部屋で話をしている2人も結局は地球から出られなかった。



▼▽▼▽▼▽


そして――


とうとう、今夜地球は終わる。


「それにしても、この1ヶ月ホントに短かったわー」

「......そうだな。まだ、信じられないな今日でこの世界が終わるなんて」

「あー!!しみったれるのは性にあわないわ!最後くらい明るくいこ?明るく!来世なんて話もあるくらいだし、そっちの方に思いを馳せよう!」

「お前はホント、ポジティブだな」

「当たり前!これが私だからね!」


そう言って笑うのは、「末永 咲」 今年で25歳の長い黒髪を持った女性である。

少しネガティブな発言をしたのは、「荒垣

唯斗」 今年で27歳の背が高くてスラリとした体躯を持つ男性だ。

この、一見性格が反対に見える2人だが仲は悪くなくむしろ、お互いを信頼しあっているのが空気で分かる。




――この2人が出会ったのはある神社だった。



▽▼▽▼▽▼


(出来れば隕石落ちませんように....)


3週間程前のこと、唯斗は願いが叶うことで有名な神社に来ていた。

無駄だとは心のどこかで思っていたが、神頼みせずにはいられなかったのだ。


その時、隣でお賽銭を投げる音が聞こえた。

お祈りを終えて隣を見てみると、長い黒髪を持った女性が目をつぶってお祈りをしていた。


「来世はハイスペックな彼氏が出来ますように!!」


(........は?)


そのあまりにもな願いにしばし放心してしまった。

すると、女性はこちらを向いて、


「あ、こんにちはー貴方も願い事しに来たんですね。何願ったんですか?」

「.......えと、隕石が落ちませんように、と」


突然声を掛けられたから、驚いてしまった。それにしても、この女性はだいぶ明るい。これから隕石が落ちてくるのに何も気にした風ではないのだ。


「確かに隕石が落ちてくるのは困りますよね。まだまだこれからだったんですけど」

「はあ.....」

「あ、すいません。名乗りもしないで私は末永 咲と言います。貴方は?」

「俺は、荒垣 唯斗と言います....」

「へえー、唯斗さんって言うんですね!あ、そうだこれからは私と一緒に行動しませんか?」


(......え?)


展開に着いていけない。どこから一緒に行動などという言葉が出てきたのだろうか。

しかし、


(まあ、最期に1人っていうのもな)


唯斗にはもう家族がいない。早くに亡くなってしまったからだ。友達はあのニュースがあって以降、奥さんと日本中を回っていると聞く。

断る理由がなかった。


「いいですよ、最期ですしね」

「お、やったー!私も1人で死ぬのは寂しかったんですよ。じゃあ、これからよろしくお願いします!」



これが咲と唯斗の出会いだった。



▽▼▽▼▽▼


それから2人は色んな所に出掛けた。

浜辺だったり、唯斗が好きな漫画の聖地だったり、咲が行きたがっていた絶景スポットだったり。


3週間はあっという間に過ぎていった。


そして、2人は何日か前から唯斗の家にいた。最後は落ち着いて過ごしたいという理由からだ。


因みに、2人は既にお互いに口調を崩している。そっちの方が気を遣わなくて良かったからだ。



「なあ、ベランダに出ないか?」

「........いいよ」


時刻は17時をまわったところだろうか。



―隕石が落ちるまで後、数時間。


「後、ちょっとだねー」

「そうだな....」


咲の声からはいつもある元気が感じられなかった。


「あのさ、言おうと思ってたんだけど」

「ん?何?」


唯斗は今日、この気持ちを咲に言おうと決めていた。といっても、それがいつからだったかは分からない。出会ってから1ヶ月にも満たないのだ。普通に考えたら誰もが早すぎると言うだろう。


――その気持ちは誰しもが1度は抱いたことがあるだろう感情。言葉で正確に言い表すことは難しい。

ただ、どこまでも愛おしくて、ずっと隣にいたい、触れてみたい、一緒にいたい


――人はその気持ちを「恋」または、「愛」という。






「好きだよ」

「............!!」



唯斗はこの気持ちを言わないでおこうと思っていた。伝わってもすぐに永遠に会えなくなるのだ。だったら、余計な未練は残さない方がいい。

だが――


「.......っ」


耳まで真っ赤に染まっている顔、俯きながら赤い顔を隠そうとしている仕草、潤んだ瞳。

あれだけ元気があって、どちらかというと男寄りに見える咲が唯斗の一言で照れているのだ。その事だけでも、言って良かったと思えた。

しばらく俯いていた咲だったが、落ち着いたのか顔を上げる。


「今言うんだ.......うん、私も好きだよ」


涙が頬を伝っていた。しかし、咲が浮かべていたのは、泣き顔ではなく笑顔だった。


空が明るい。もうとっくに夕暮れの時間は過ぎているはずだ。


――後、すこしで


「こんなんじゃ、未練しか残らないな」

「アハハ...そうだねー」

「でも、来世とやらがあるんだろ?咲が言ってたようなハイスペックな彼氏には、今更なれないけど、来世に期待でもするか?」

「うんん、そのままでいいって。だって唯斗には良い所がいっぱいあるんだからさ!」


死ぬのは怖い。だが、世界で1番大事な人が死ぬまで目の前にいてくれるのだ。これ以上、何を望むことがあるのだろう。


「じゃあ、来世では私の方から先に告白してあげる!」

「ああ、待ってるよ。世界が終わるまで」


告白だけだったのはそれ以上をしたら、この世界が恨めしく思ってしまうからだ。ギリギリでしか出会わせてくれなかったこの世界を。

お互いにそれは分かっていた。




――だから、唇に感じるこの感触もきっと幻で、この温かさも一瞬で消えるはず



――でも、幻というにはあまりにもリアルで温かさは消えなくて、いつまでもこうしていたいという想いも消えてくれなかった


顔が離れると同時に銀の糸もプツリと切れる。


「やっちゃったね」

「ああ、そうだな」


お互いに悲しそうな顔をしない。最期まで笑い合う。


だって、この世界が終わってもまた会える。ギリギリでしか出会わせてくれなかった神様だ。少しくらいは自分達の願いも聞いてくれるはず。




――次に出会う時は、最後からではなく最初から、ずっと隣に居て欲しい





そんな少し我儘な願いを








《~完~》







――――――――――――――――――――


最後まで読んでいただきありがとうございました!!

もっと話を広げたかったのですが、この話はこれで終わりとさせて頂きます。

本当にありがとうございましたm(_ _)m


























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この世界が終わる時あなたは誰といますか? 金木犀 @misaki3113

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