第13話 フォックス・レオルガード

 キスレチンの首都ミラニールから馬車で北上すること半日。

 山間ののどかな道をのんびりと進みながら、アインは嬉しそうに一つ背伸びをした。


「いやぁ、やはり田舎のほうが落ち着くものだね。人々の喧騒がないというのは、実に素晴らしいものさ」

「ミラニールにおられた時も、護衛の際以外はほとんど屋敷内に引きこもっておられた気がしますが?」

 アインの発言を耳にして、馬車に同乗させられたフェルムは、思わずそう口にする。

 だが彼の眼前の男は、とんでもないとばかりにブンブンと首を左右に振った。


「いやいや、何を言っているんだい。ほら、少しは自然に耳を傾けてみたまえ。野鳥のさえずる音、そして小川のせせらぎ。それに比べれば、例え屋敷の中にいたとしても、極めてひどい騒音環境の中にいたも同然さ」

「はぁ……しかし護衛の仕事を放り出してきて本当に良かったんですか?」

 どうにも納得はいかなかったが、これまでの付き合いからこの手の話題で抗弁しても無駄なことを理解していたフェルムは、溜め息を吐き出すとともに話題を転じる。


「カイラの護衛かい? 基本的にはマルフェスさんにまかせておけば大丈夫さ」

「もちろん僕も、マルフェス将軍の護衛に問題があるとは思いません。ですが、その……先生がいらっしゃった方が、会議でも色々と都合が良いのじゃないかと思いまして」

「はは、なんとなく何を言いたいのかはわかるけど、私はアドバイザーではなく、ただの護衛の一人だよ」

「表向きはでしょ」

 建前を口にしたアインに向かって、既に眼前の男の正体とその能力を正しく理解しているフェルムは、呆れたようにそう指摘する。

 すると、アインは頭を掻きながら、もはや彼の言葉を否定はしなかった。


「まあね。でも今現在、各国の官僚たちが中心となって行われている議論は、主に商取引や住民の移動がらみの利害調整さ。実はその辺りのところは、元々今回の会議が始まる前にした交渉で終わっている。まあその程度には、どの国の外交官も優秀なものさ」

「じゃあ、西方会議での議論は無用の長物と?」

「そんなことはないさ。世の中、形式とか箔付けっていうのは大事なものだからね。それに何より、最終日には協定案の策定がある。あれに関しては、どこぞの国がすんなりと話をまとめたいと企んでいることだろう。となれば、おそらくこの時期に無用なトラブルは避けようとするだろうね」

 西方会議の最終日に行われる協定案の策定。

 これこそがまさに西方会議の肝と呼べるイベントである。


 この西方会議は基本的には発足時から対帝国がその主題であり、彼の国に対して各国の責任と方針を明確化する協定の意義は非常に大きいものがあった。

 そしてこれまで協定に関しては、多数決と言う名の数の暴力によって、旧キエメルテ共和国の三カ国の考えが反映され続けている。


 もっともそこに含まれぬクラリス王国も、単独では帝国と戦い得ぬことから、これまで一度たりとも実質的な西方会議の支配者であるキスレチンの意向に対し、反対を示したことはない。

 ましてやラインドルは帝国と隣接していないこともあり、各国が重要視する協定案には、元よりそれほど関心を示してこなかった。


「なるほど。しかし今回の協定案ですが、例年通り対帝国がやはり重要視されるのでしょうか?」

「まあ、基本的には対帝国のための会議であり協定案だからね。もともと彼の国を封じ込め、そしていつか打倒することがキスレチンの悲願さ。だから、以前より国力の衰えた帝国を前にして、彼らが強硬論を主張するのも無理の無いところだろうね。何しろ次の選挙も控えているしさ」

「選挙……ですか」

 王政国家に生まれたこともあり、比較的馴染みのない単語ではあったが、フェルムはあまりいい印象をその政治的手法に持たなかった。

 すると、そんな彼の内心を見透かしてか、アインは軽く肩をすくめて見せる。


「まあ、民主主義っていうものは、人気取りが大事だからね。皆の共通の敵を作ることが、円滑な政権運営には欠かせないのさ。そしてそれ自体は別に良いことでも悪いことでもない」

「敵を作ることがですか?」

「ああ。正しいことだけを行う政治。そんなものはただの机上の空論、いや、それ以下かもしれない。だって人の数だけ、正しいものは存在するんだからね。となれば、比較的大多数の人にとって不利益でない方向に国を進めることが、政治を司る者の使命さ。それも出来る限り円滑にね」

 アインの説明に対し、フェルムは余りピンとこなかったものの、その主張したいことだけはどうにか理解する。


「円滑に進められなかった場合、つまり政治が淀んでしまった場合は、国が停滞して大多数の人が不利益を被ると?」

「おおまかに言えばそんなところかな。ただ劇的に、そしてドラスティックに物事を進めるのが正しいとは限らない。もしそうなのだとしたら、ラインドルやクラリス、そして帝国のような王政や帝政国家が完璧な政治体制であるはずさ。だけどラインドルで例えるなら、ムラシーンの政治体制が良かったのかといえば、現実的には決してそうではない」

「ええ、それは確かにその通りです」

 アインの喩えを受けて、暗黒期とも言えるムラシーン時代を思い出したフェルムは、すぐに賛意を示す。


「まあ政治形態がどうであろうと、その下で暮らす人が幸せであればいいのさ。そして一研究者である私のところに、予算がたくさん回って来れば言うことはないね」

「それを言わなければ、素直に良い話だと言えたんですが、なんだかなぁ……ともかく、どんな体制でも民衆の支持を得ることができれば、上手く国が回るということはわかりました」

「ああ。そして出来る限り国家内部での争いを起こさず、国民の意思統一を図る。その為に、仮想敵国を作ることは極めて有効な手段さ。もっとも、これは民主主義国家に限らず、ラインドルでも同じだね。例えばかつての宰相であるムラシーンを悪と断じることで、国家の統合を図る。これもまた、極めて重要で有益な手段さ。それが真実かどうかは別にしてね」

 人差し指を一本突き立てながら、アインはそう口にする。

 すると、すぐにフェルムが怪訝そうな表情を浮かべた。


「あの……真実も何も、ムラシーンが悪であることは極めて当然のことじゃないんですか?」

「良いとか悪いとかっていうのは、極めて相対的なものだからね。当時の大多数のラインドルの民衆にとって、彼は確かに悪だった。でも、彼の部下たちにしてみれば、そうではなかったかもしれない。つまるところ、視点の置き方の問題だよ」

「ムラシーンを実際に打倒された方の発言とはとてもお思えないのですが……」

 目の前の人物の正体を理解しているがゆえに、フェルムはその説明に違和感を覚える。

 しかし眼前の男は、そんな彼の発言に苦笑を浮かべた。


「それは一体誰のことかな? 今の私はアイン・ゴッチだからね。宰相殿とは会ったことがないことになっている。少なくとも、今はそういう設定さ」

「設定って……」

「はは、でもまあ本題に戻すと、彼がいなければ生活がままならなかった彼の子飼いの兵士たちもいる。その中には、彼が雇い入れたからこそ、子供にミルクを飲ませてやることが出来た者もいるかもしれない。もちろん、そうではないものも多数いただろうし、ムラシーンを肯定するつもりは全くないよ。だけど、視点の置きどころによって、ものの見方なんて容易に変わる。このことは、覚えておいて損はないかもね」

 両手を左右に広げながら、アインはそう口にする。

 するとフェルムは、頷きつつも一つの疑問点を口にした。


「おっしゃられたいことはわかります。ただその上で、あなたはムラシーンを打倒されたわけですよね」

「だからさ……まあいいか。ともかく何のことかわからないけど、あの時の私にとってはそれが必要だったし、それが正しかった。ただそれだけの話さ」

 アインはそう口にすると、もうこの話は終わりだとばかりに視線を外の景色へと移す。


 ミラニールの北に位置するサルヴァツァ。

 それが今回の目指すべき目的地であり、彼等が面会する人物の住む土地でもあった。


「もうそろそろのはずですけどね」

「ああ。無粋な人達が立っているから、多分あの集落がそうかな」

 フェルムの声を受けて、アインは前方に見える小さな農村を指さす。

 そこには十数軒程度の小さな家屋が等間隔で密集しており、少なからぬ兵士が村の外縁を取り囲むようにして警備にあたっていた。


「さすがにフォックス師の住む村ということですね。しかし、彼らの目があるかもしれないのに、堂々とそれを持ち出してきて本当に良かったんですか?」

「それ?」

 フェルムが何を指しているのかわからず、アインは軽く首を傾げる。

 すると、目の前の青年はその視線を馬車の片隅に立てかけた長い包みへと移した。


「もちろん先生の刀ですよ」

「なるほど……こいつのことね。いや、こいつを持ってくることが目的の一つだったからさ。他に理由がないわけでもないけど、持ってこなければ話にならないからね」

「話にならない?」

 アインの口にした言葉の意味がわからなかったフェルムは、怪訝そうな表情を浮かべる。


「ああ、せっかくフォックスの爺さんに会うんだ。多少の準備くらいはしないとね」

「準備ですか。というか、あのフォックス師を爺さんって……先生、本当にわかっていますか? この村にいるのは、あの四大賢者の一人なんですよ!」

 これから会う人物の重要性を理解していないかのようなアインの素振り。それを目の当たりにして、フェルムは思わず声を荒らげた。


 フォックス・レオルガード。

 復元師とも呼ばれるかの人物は、現在唯一その存在が公に確認されている大陸四賢者の一人であった。


 彼を表す際に必ずついて回る大陸四賢者という称号は、ノルトレーベンの悲劇とも呼ばれるブルグント王国消失事変において、悲劇の拡大を防いだ四名の魔法士たちに贈られたものである。


 一人は事件後にその存在をくらまし、別の一人である先々代の魔法王は病によってこの世を去った。またもう一人の男は古き名を用いて、クラリス王国のとある一室で世俗から離れ研究を続けている。


 それ故に、首都ではなく愛する故郷で生活してはいるものの、現在も変わらずその姿を公に晒しているのはフォックス・レオルガードただ一人であった。


「フォックスの爺さんがねぇ……まあ、偉い人なのかと言われればそうなんだろうけどさ、正直言ってただの変人だしなぁ」

「ああもう、これだから先生は。大陸四賢者の一人をなんだと思っているんですか!」

 目の前の人物が普通では無いことは十分に理解できていた。そしてその人脈もである。

 だが、夢や憧れを潰すかのような発言を前にして、フェルムは憤りを見せずにはいられなかった。


「いや四大って言っても、生きているのは二人だけだし。亡くなったフィラメントのカーラ・マイスムさんがどんな人だったかは知らないけど、今残っている二人は、どちらも相当な変わり者さ。ま、つべこべ言うよりも、フォックスの爺さんは会えばすぐにわかるさ」

「普通なら信じられないところですが、その口ぶりからみるに……やはりお知り合いなのですか……」

「私が小さかった頃の話だけどね。でも、たぶんまったく変わっていないだろうな」

 そう口にすると、アインはゆっくりと頭を掻いた。すると、その行為によって金髪のかつらがずれ、彼は慌ててセットし直す。

 その情けない一連の行動を目の当たりにして、フェルムは深々と溜め息を吐き出した。


「なんというか、先生といると、次々と僕の憧れが崩れていきますよ」

「憧れ?」

「はい、マルフェス将軍があんな豪快な人とは知りませんでしたし、国王陛下が学生のふりをして声をかけてくるような方だとも思っていませんでした。それに何より……」

 フェルムはそこで言葉を止めると、眼前の男に視線を向ける。

 だがその視線を浴びせられた当人は、全く気にする素振りも見せず、馬車が止まったことにだけ反応を見せた。


「おっと、どうやら着いたようだよ。さて降りるとしようか」

 そう口にすると、アインは扉を開けて馬車からスルリと降りていく。そして馬車の御者にこの場で留まっていてくれるよう頼んだ後に、彼は一つ大きく伸びをした。


「ふぅ、やっぱり田舎道はこたえるなぁ。体が辛いよ」

「歳だからじゃないんですか、先生?」

 自らの手で肩をもみほぐし始めたアインをその目にして、フェルムは呆れ混じりにそう口にする。

 すると、アインの手の動きはピタリと止まった。


「歳って……私はまだ言われるほどの年齢じゃないよ」

「……もしかして、お気にされているんですか?」

 普段ならば滅多なことで動揺を見せぬ男が、明らかに声を上ずらせたことにフェルムは気づいた。それ故に、彼はさすがに言い過ぎたと反省する。

 一方、そんな彼に向かい、アインは頬を引き攣らせながら、すぐに否定を口にした。


「はは、そんなことはないさ。でもまあ、君よりはほんの少しだけ歳を食っているから、少し疲れたのは事実だ。というわけで、若い君がフォックス爺さんの家を探してきてくれ給え」

「え……まあ、もちろんいいですけど」

 ちょっとした用事を頼まれることは、自身の立場から当然のことだと思っている。

 しかし先ほどのアインの口ぶりはいつになく平坦なものであり、それ故に僅かな引っ掛かりをフェルムは覚えた。

 だが、確たる理由の見当たらなかった彼は、そのまま小さな農村の中央に止められた馬車から歩き出す。


「すいません、誰かいらっしゃいませんか?」

 フェルムの声が周囲へと響く。


 この村を警備していた兵士は、かなり遠くに点々と配置されており、そこまで聞きに行くならば馬車に戻って向かう方が早い。だから彼は、この村に住む住民にフォックスの居場所を訪ねようとしたのである。


 しかしながら残念なことに、彼の声に対して、反応するものは周囲に誰も存在しなかった。


「おかしいな。家もあるし、生活している様子もあるのに、どうして人が見当たらないんだろう」

 馬車から少し離れたところまで見回ったところで、フェルムは思わず首を傾げる。

 そしていくつかの角を曲がり、馬車から離れてほぼ集落の外れに近い場所まで来てしまったところで、突然背後から若い青年の声が彼の鼓膜を叩いた。


「そこのお兄さん。この辺りでは見かけない顔だね。一体どこのどなたかな?」

 周囲を見回しながら歩いていたこともあり、まさか誰かに声を掛けられるなどと思っていなかったフェルムは、思わず腰を抜かしそうになった。


 だが寸前のところで、どうにか気を落ち着かせた彼は、慌てて後ろを振り返る。

 すると、こんな農村には似つかわしくない美青年が、白銀の髪を掻き上げながら立っている光景を、彼は視界に捉えた。


「えっと、お兄さんっていうのは僕のことかな?」

 十代後半といった年頃の自らより若く見える青年に向かい、フェルムは確認するように、自分を指さしながらそう問かけた。


「ああ、そうさ。さっき村に入ってきた馬車に乗っていた人でしょ。この村に外から人が来るのは珍しくてね。一体どこから来たのかと思ってさ」

「えっと、僕自身はラインドルから。と言っても、今はミラニールに滞在しているんだけど……」

「へぇ、それは遠くから来たものだね。しかし、なんでわざわざこんな片田舎に?」

 未だ戸惑いを隠せぬフェルムに向かい、身なりの良い美青年は矢継ぎ早に問い掛けを続ける。


「うちの先生がどうしても大賢者にお会いしたいって言ってさ。そういえば、この国の政府から、村に何か連絡が来ていたりしないかな?」

「いや、特にそんな連絡が来たなんて聞いたことないな。しかし先生って言うのは、一体誰のことかな?」

 フェルムの口にした一つの言葉に、青年はこれまで以上の興味を示す。

 すると、説明不足だと思い、フェルムはすぐに説明を追加した。


「ああ。僕の大学の先生でね。一緒にこの村に来た人なんだけど……それで君、フォックス師の居場所を知らないかな?」

「ふむ、教えてあげてもいいけど……その前に一つ。君の先生は、さっきの馬車に一緒に乗ってきた仮面のおじさんで間違いないかい?」

「おじさん……先生が聞いたらまたショックを受けるだろうな」

 先ほどのアインの反応を踏まえ、フェルムは彼が年齢を気にしていることは間違いないと確信していた。それ故に彼は、青年の言葉に対して思わず苦笑を浮かべる。


「はは、あの年頃の大人はデリケートだからね。しかし彼が訪ねてきたとなると、相手をしてあげなきゃいけないか……いいだろう、彼の元に案内してくれたまえ」

「え……えっと」

 突然の青年の言葉に、フェルムは戸惑いを見せる。

 すると、彼を安心させるかの様に、青年はニコリと微笑んでみせた。


「いや、お二人を案内しようと思いますので。このまま村の中をウロウロしているわけにもいかないでしょ」

「うん。それは確かにそうだけど……」

 青年の微笑みの奥に、何か言い知れぬ違和感をフェルムは覚えた。

 しかし、現状において他の選択肢がないこともまた事実であり、彼は青年を先導する形でゆっくりと馬車のある村の中心に向かって歩みだす。

 そうして、村の中心にたどり着くための最後の曲がり角を曲がる直前で、フェルムの脳裏には一つの疑問が浮かび上がった。


「そういえば、君。さっき先生の事をおじさんって言ったよね」

「ああ。僕らから見れば、おじさんって言われてもおかしくないと思うけど」

「なんで、そう思ったんだい?」

「え?」

 突然足を止めたフェルムの問いかけに対し、青年は軽く首を傾げる。

 すると、フェルムは青年へと向き直り、そして腰に差した剣へと手を伸ばした。


「君自身が言ったはずさ。仮面のおじさんって。なぜ顔の半分以上を隠している先生に対して、僕らから見ればおじさんなんて言葉が出てくるのかな?」

「はは、それは君が彼のことを先生と呼ぶからさ」

 急に嫌疑を向けられた青年は、両手を左右に広げながら、そう反論する。

 だが、フェルムの表情と疑念がその言葉で晴れることはなかった。


「確かに、その可能性は否定しない。でも、先生ならもっと年上の人物かも知れないはずさ。でも君の口ぶりでは、明らかに中の人物に対する確信があった」

「ふむ……六十点かな。母親よりは、人に物事を教えることができるようだ」

「……君は何者だ? 何の目的で、僕を先生のところに案内させようとしている」

 目の前の人間は、決して信用に足る人物ではない。

 そうフェルムは結論づけた。だからこそ彼は、問いかけと同時に剣を抜き放ち正眼に構える。


「おやおや、これは減点かな。ともあれ、物騒なものは仕舞いたまえ。少なくとも君に危害を加えるつもりはないからさ」

 青年はそう口にすると、フェルムに向かってニコリと微笑みかける。

 その笑みを目にしたフェルムは、何一つ根拠となるものは存在しなかったものの、直感的に一つの危険性を理解した。

 つまり眼前の青年は、ラインドルにおいては同年代において右に出る者はいないと自負する己より、遥か高みにあるのではないかということを。


「ほう、どうやら僕に関して見た目で判断しようとはしていないようだ。素晴らしいね、君の評価を五点程加点してあげるとしよう」

「おやおや、何処で道草を食っているのかと思えば……そうなるんじゃないかとは思っていましたが、案の定ですか。若者をからかって遊ぶのは、あまりいい趣味とは言えませんよ」

 青年の言葉に呼応するかのように、フェルムの後方から放たれたややくたびれたかのような声。

 それを耳にした瞬間、青年は嬉しそうに右の口角を吊り上げた。


「ふふ、君こそ僕が彼にちょっかいをかけると思って、送り出したんだろ? ともあれ、久し振りだね。ユイ」

「ええ、こちらこそ。しかし見事に昔と変わりませんね。フォックスの爺さん」

 溜め息を一つ吐き出しながら、アインはそう口にする。


 彼の視界に映し出された人物。

 それは、幼き頃に目にした時とかけらも変わらぬ、青年のような若々しさを保ったままのフォックス・レオルガードその人であった。

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