第18話 褒美

 ラインドル建国以来、初となる内乱が終演を迎えて早七日。

 一時は混乱の極みにあった王都セーブルも、アルミム国王の病の完治と、内乱の終結宣言が行われてより、急速な秩序の回復を認めていた。


 それは取りも直さず、ムラシーン体制への不満が国内に充満していたことと、国王への信頼が厚かったことを如実に示している。

 このように急速に光が差し込み始めたラインドルのとある場所で、クラリスの外交大使であるユイは、一つの書状を手にしながら深い溜め息を吐き出していた。


「昔から苦手なんだよ、貴族とか、王族とかってさ。誰か代わってくれないかな」


 ラインドル国王であるアルミムより、クラリスの大使に向けて面談を要請する親書。

 そこに記されていた期日を迎えた今日、国王の指定した謁見室へと続く長い廊下を、ユイは憂鬱気な表情でトボトボと歩いていた。


 朝から数えるともう何度目かわからない愚痴をこぼしたユイに対し、隣を歩くクレイリーは呆れたように口を開く。


「いい加減、諦めやしょうよ。リュートの旦那もアレックスの旦那も、既にクラリスへ帰っちまいやしたから、旦那に代わる人間なんざ他にいやせんぜ」


 親書が届いてから数えるともう何十度目だろうかと思いながら、クレイリーは隣を歩く上官を窘める。

 一方、クレイリーのそんな発言を耳にしたユイは、頬を一度ふくらませた後に、再び愚痴を吐き出した。


「それはそうだけど……でも、あいつらも友達甲斐のない奴らだと思わないか? 後始末を全部私に押し付けて、自分たちはさっさとクラリスに帰ってしまうなんてさ」

「あのねぇ、旦那。あのお二方に関しては、どうしても人材が足りないからって、忙しい中を無理やり借りだしただけじゃないでやすか。あの方たちがあまり長期間抜けると、きっと親衛隊長の髪は薄くなっちまいやすぜ」


 クレイリーは自らの禿げ上がった頭を撫でながら、二人が借り出された際のエインスの表情を想像し、その心労に思いを馳せる。

 しかし、そんな彼の先輩であった男は、情け容赦のないことを口にした。


「そんなものかなぁ……若いうちは苦労を買ってでもしろって、昔の人は言っていたものだけどねえ」

「あのね。それを言うなら旦那だって、あっしよりだいぶ若いんですぜ。もう少しくらいは苦労を買ってくださいよ」

「ん、私かい? 私はいいんだ、心が老成しているからさ」

「それ、言い訳としてどうなんでやすかね……」


 相変わらずな上官の発言に、クレイリーは首を左右に振ると溜め息を一つ吐き出した。

 そうして、何の益にもならぬくだらない会話を交わしながら、二人はようやく指定された謁見室の前へと辿り着く。

 彼らが目の当たりにした部屋は、王宮内で国王が使用する事を前提にした部屋だけに、明らかに周囲とは異なる空気を発していた。


「よう、久しぶりだな」


 突然前方から掛けられた好意的な声を耳にすると、ユイはその声の主を視線で追う。

 すると、そこには部屋を守る二名の近衛を従えた、マルフェスの姿があった。


「マルフェスさん。その姿は……近衛に戻られたんですね」


 レジスタンスで見せていたやや着崩した格好ではなく、上から下まで指定された近衛の服装を身に纏うマルフェスの姿を目にして、ユイは彼に向かい笑いかけた。


「まぁな。二年ほど王宮の外に出てみて、今後は市中で生きていくのも悪く無いかと考えていたんだが……ただ、陛下に頼まれてしまってな。結局は元の鞘さ」


 近衛を率いる立場に戻ったことを暗に示しながらも、マルフェスは両手を左右に広げ苦笑する。

 そんなレジスタンス時代と変わらぬフランクな態度を目にしたユイは、思わず彼に釣られると苦笑を浮かべた。


「元の鞘と言うことは、近衛兵長に戻られたんですね。さて、おめでとうございますと言うべきなんでしょうか?」

「はは、どうだろうな」


 ユイの問いかけを受けて、マルフェスは軽い笑い声を上げる。そして彼は自らの果たすべき仕事を思い出すと、部下に向かって視線を移した。

 彼の部下はそのマルフェスの視線を受け、準備はできていますとばかりに一つ頷く。


 その反応を確認したマルフェスは、ユイたちに向かって軽い口調で言葉を発する。


「まぁ、俺のことはどちらでもいいさ。それより既に陛下が中でお待ちだ、さっさと中に入っちまえ」


 そう口にしたマルフェスは、部屋の扉の前を遮っていた自らの身体をどかす。そして彼は部下たちに部屋の扉を開けさせた。

 謁見室の扉を開かれたユイは、室内へと一歩入り込む。


 そして彼がそこで目にしたもの、それは直立したままユイを出迎えるカイルと、ソファーに腰掛けたアルミムの姿であった。


「ユイさん。お久しぶりです」


 ユイが到着するのを今か今かと待ちわびていたカイルは、やや驚きの表情を浮かべる彼に向かい満面の笑みを浮かべる。

 一方、ボロボロのフード姿とは似ても似つかぬカイルの正装姿を目の当たりにして、ユイは改めて彼がこの国の王子であったことを再確認した。


「お久しぶり、カイル……じゃなくて、お久しぶりです、カイラ様」

「はは、敬語は止めてください。公式の場ではともかく、普段は今までどおりカイルと呼び捨てにしてもらった方が、僕は嬉しいんです」


 あわてて畏まった態度を示そうとするユイに向かい、カイルは首を左右に振りながらそう告げる。

 しかし、そんな彼の言葉の中に含まれていたある単語に気が付くと、ユイは訝しげな表情を浮かべるとともに、思わず首をひねった。


「公式の場では……って、今回はクラリスの外交大使としてのお招きと伺いましたが?」


 現在この空間を覆っている和やかな空気と、当初想定していた会談の空気との間に大きなズレがあることに気づくと、ユイはアルミムに向かってへ率直にそう問いかけた。

 そんな彼の問いかけに対し、この国の王から返された言葉は、彼のまったく予期せぬものであった。


「ああ、申し訳ないがあれは嘘じゃ。いろんな者に聞いたのじゃが、その方は面倒事を回避する癖があると誰もが言うておってのう。だから大使としての業務と言えば、嫌でもここに顔を出すだろうと思ってのことじゃよ」

「それはまた……でもアルミム様のお招きでしたら、そんなことされなくても当然馳せ参じましたよ」


 思わぬアルミムの発言に、ユイは弱ったような表情を浮かべながら返答する。

 するとその回答に、彼の後ろに控えていたクレイリーは思わずツッコミを入れたくなった。


 しかしユイがすぐに視線で釘を差してきたため、彼はやむなく黙りこむ。

 そんな二人の仕草を目にして、アルミムはおかしそうに笑うと、再び口を開いた。


「はは、それは申し訳なかった。何もその方を騙すつもりではなかったんじゃ。わしはただ、此度のことのお礼を言おうと思ってな。イスターツ殿。此度のこと、このアルミム、心より感謝しておる」


 アルミムはユイに向かってそう述べ終えると、あろうことか彼に対し深々と頭を下げる。そしてそんな彼に続くかのように、息子であるカイルも慌ててユイに向かって頭を下げた。


 予想だにしない王族の反応に、ユイは一瞬その場に硬直する。

 そして恐縮のあまり二歩後ずさると、彼は閉じられた入口のドアに自らの背中をぶつけた。


「や、やめてください。アルミム様、それとかい……カイルも。すぐ外には、近衛の兵士たちもいるんですよ」


 慌てて両手を体の前に突き出すと、ユイは二人に向かって頭を下げるのを止めるよう懇願する。

 そんなユイの動揺を目にして、アルミムは苦笑を浮かべると、彼に向かって改めて感謝の意を口にした。


「構わんじゃろ。その方は既にただのクラリスの英雄ではない、このラインドルの英雄でもあるんじゃ。我が国を救った英雄に対し、国王が感謝の意を示したところで何の問題であろうか。ましてやその方は、このわしの臣下というわけではないんじゃからな」


 ニンマリとした笑みを浮かべながらアルミムがそう口にすると、ユイは弱ったように頭を二度掻いた。


「それはそうですが……って、英雄なんかじゃないですよ、私は。今回は教え子を連れ戻しにきただけの、ただの引率の先生にすぎません」

「引率の先生……か。たしかそれが、その方がこの国に赴任してきた理由じゃったかな。ムラシーン相手には、ただの人事異動と言っておったみたいじゃがのう」


 笑いながらそう告げたアルミムは、ユイたちに向かい、自らの対面のソファーを勧める。

 着席を進められたユイは、ムラシーンと会談した際の内容を復帰したばかりのアルミムが掴んでいることに感心しながら、ソファーに腰を下ろした。


 そして彼は順調にアルミムの下へ情報が集まりつつあり、この国の統制が国王を中心に回復し始めていることを理解すると、言葉を選びながら返答を行う。


「既にそんなことまでお耳に入ったのですか? まぁ、私はクラリスで士官学校の校長をしておりましたので、誘拐された魔法科の学生を連れ戻すために、この地に来させて頂いたのはまぎれもない事実ですよ」


 弱ったように頭を掻きながらそう述べたユイは、自らの瞳を見つめるアルミムの視線がわずかに強くなったことに気がついた。


「なるほどのう。しかし其方は嘘を言っているわけではなさそうじゃが、わしが思うにそれ以外にも狙いがあったのではないか?」

「……といいますと?」


 意味ありげな表情を浮かべるアルミムに対し、ユイは内心の動揺を表情に表すこと無く、そのまま聞き返す。

 すると、アルミムはわずかに微笑んでみせた後に、自らの見解を口にした。


「おそらくその方の真の狙いは、クラリスにとっての北の脅威を防ぐことにあったのではないか? より正確に言えば、国力の落ちているクラリスに対し、強硬派のムラシーン率いるラインドル軍が侵攻してくる可能性を未然に潰しておきたかったのじゃろう。そうでなければ、いくら誘拐された学生たちを連れ戻しに行きたいなどと主張したところで、その方ほどの者を上層部が国外に送り出すとは考えにくいからのう」


 一瞬感心した表情を浮かべ、そして後にユイは苦笑する。

 それは今回の旅の副産物として考えていた狙いを、国政に復帰したばかりのアルミムが正確に読み取っていたことと、そして自らに対するある種の誤解が存在していることに気がついた為であった。


 それ故に、ユイはどう返答したものか迷うと、頭を掻きながら隣に座るクレイリーへと視線を送る。

 そのユイの視線の内に含まれる意味を理解したクレイリーは、両手を左右に広げると肩をすくめてみせた。


「旦那もここでは評価されてやすね」

「全くだよ。我が国のお偉方には、散々なのにねぇ……」


 クレイリーの言葉を受けて、弱った表情のまま溜め息混じりにユイはそう呟いた。


「ん、一体どういうことじゃ?」


 予期せぬ反応を目にしたアルミムは、怪訝そうな表情を浮かべると、ユイに向かって疑問を口にする。

 その疑問に対し回答を行ったのは、ユイたちではなく、彼の隣りに座るカイルであった。


「僕も噂で聞いただけなのですが、どうもユイさんはクラリスの中であまり良い扱いを受けていないようです。こう言っては失礼かもしれませんが、その……ユイさんは貴族ではありませんので」


 申し訳なさそうな表情を浮かべながら、カイルは遠慮がちにアルミムへとそう説明する。

 その説明を受けたアルミムは呆れたような表情を浮かべると、首を左右に振りながら思わず苦言をこぼした。


「はぁ……全く愚かな話じゃ」

「僕もそう思います。ですが、その御蔭でこうしてユイさんが我が国に来てくださったわけです。大変申し訳無いのですが、彼らに感謝を覚えずに入られません」


 やや皮肉交じりの言葉をカイルが吐き出すと、アルミムは苦笑しながら大きく頷いてみせる。そして彼はわずかに黙り込んだ後、何かを思いついたようにユイへと視線を向けた。


「そうじゃ、イスターツ殿。もしその方が良ければ、いっそ我が国に仕えんか? その方が望むなら、その能力に見合うだけの待遇も用意しよう」


 アルミムからの思わぬ突然の申し出に、ユイは一瞬虚を突かれた表情となる。しかし、すぐに気を取り直すと、頭を掻きながら口を開いた。


「そうですね、三食昼寝付きで良ければ……わかっているよ、クレイリー。そんな目で見ないでくれ」


 隣から厳しい視線を感じたユイは、あわてて部屋に備え付けられた窓の方向へと視線をそらす。

 一方、そんな冗談を口にしたくなる気持ちを理解してはいたが、それでもなおクレイリーは彼の上官に向かって窘めるような発言を口にした。


「まったく……旦那のことですから、油断するとひょいひょい引き抜かれる気がしてこまりやす」

「だから冗談だって、あまり本気にしないでくれよ。アルミム様、非常にありがたいお申し出なのですが、申し訳ありません」


 改めてアルミムへ視線を向け直すと、ユイは申し訳無さそうな表情を浮かべながら、拒否の意を彼へと示した。

 すると、彼のクラリスでの扱いを耳にしたアルミムは、意外そうな表情を浮かべる。


「なぜじゃ? カイラやその方の部下の反応が正しければ、その方は正しく評価されているとは言いがたいと思うのじゃが?」

「確かにそうかもしれません。でも、私一人が生活するには困らない程度のものは頂いておりますし、友人や部下たちもクラリスにおります。そしてなにより、私の両親があの地に眠っておりますので」


 ユイのはっきりとした断りの言葉。

 それを耳にしたカイルは、隠し様のない落胆の表情を見せた。


「ユイさん……ダメですか、やっぱり」

「ごめんね。でもフィラメント育ちの魔法士を重用して、国内の混乱が生じたばかりさ。だからこの時期に、クラリス出身の者を抱え込むのは少しまずいんじゃないかな。下手をすると、更なる混乱を引き起こしかねない」


 申し訳無さそうな表情を浮かべながら、ユイは彼なりの見解を述べる。

 一方、そんな彼の発言を聞いたアルミムは、顎に手をやりながらしぶしぶといった表情で口を開いた。


「むぅ……そうか。ならば今はその方のこと、一時諦めることとしよう。できれば、来月にも発表される新国王の右腕として、その傍らで働いてもらいたかったのじゃがな」

「「えっ!」」


 アルミムが何気なく発したその一言に、その空間に居たものは一様に驚きの声を上げる。

 そんな周囲の反応を目の当たりにして、アルミムはしてやったりとばかりにニヤリと笑った。


「当然じゃろ。ワシは二年も国政を空けてしまっておるし、体調も万全とは言えん。ならば、レジスタンスを率いてこの国の立て直しを担った息子に、国政を任せると言う選択肢も、そう驚くべきことではあるまいて」

「陛下……」


 やや不安そうな表情を浮かべながら、カイルは父であるアルミムを見つめる。

 その反応を目にして、アルミムは柔らかい笑みを浮かべると、自らの息子に向かって諭すように語りかけた。


「カイラよ。お前はまだ若い。しかし、その分だけ可能性があると考えよ。そして苦境の中でそなたを支えてくれた者たちを信頼し、この国を立て直してくれ。そう、目の前の男が、喜んでお前に仕えに来るような国にな」

「ですが……」


 カイルは突然のことに戸惑い、ユイの方へと視線を向ける。

 自信なさげなカイルの表情を見て取ったユイは、彼の背中を優しく押すかのようにゆっくりと一つ頷いてみせた。


 そのユイの反応を目にして、カイルはしばしの間黙りこみ、そして一つの決意を固める。


「……分かりました。浅学非才の身ではありますが、僕の力の及ぶ限り、この国を守って参ります」


 やや言葉をつまらせながらも、カイルはアルミムに向かいはっきりとそう言い切った。

 その覚悟を目の当たりにして、アルミムは満面の笑みを浮かべると、息子を自慢する親の表情でユイに笑い掛ける。


「そうか、よう言うた。ふふ、これでワシも安心して余生が過ごせるわい。どうじゃ、イスターツ。羨ましいじゃろう」

「ええ、本当に限りなく」


 二つの意味を込めてユイは簡潔にそう述べると、アルミムに向かって笑みを返した。

 ユイの意図するところを正確に把握したアルミムは、それではとばかりに今回ユイを呼び出したもう一つの目的を切り出す。


「それではわしの最後の仕事をするとしようかの。さて最初に申したように、今回ここへ出向いてもらったのは、その方に礼を言うためじゃ。それでのう、わしとしてはその方になにか褒美を与えたいと思っておる」

「褒美……ですか」


 まるでオウム返しのようにユイが返事をすると、アルミムは笑みを浮かべながら大きく一度頷いた。


「ああ、褒美じゃ。目的が誘拐された学生を助けることであれ、クラリスを守るためであれ、結果としてその方は、この国に多大な貢献をしてくれたわけじゃ。その方の望みがあれば、わしに可能な範囲で、出来る限り叶えてやりたいと思うておる。さて、何か希望はあるかのう?」


 思わぬアルミムの申し出に、ユイは思わず黙りこむ。

 そして僅かな逡巡の後、彼は頭を掻きながらその申し出に対する返答を口にした。


「いえ、私は他国の者ですから、そんなご好意に甘えるわけには……」

「構わん、構わん。むしろ他国の者だからこそじゃ。国の恩人である英雄に対し、ラインドルは何一つ褒美を与えぬ忘恩の国などとは呼ばれたくないからのう」


 辞退しようとするユイの言動を耳にするなり、アルミムは豪快に笑いながら、再度ユイの希望を尋ねる。

 一方、改めてのアルミムの提案に、ユイは困惑の表情を浮かべた。


「いや、直接何かを頂きましたら、他国から賄賂を頂いておるようなものですし……あ、ちょっと待って下さい。もしよろしければ、お言葉に甘えて一つだけお願いが」


 なんとか理由をつけて辞退しようとしていたが、不意にあるものの存在が脳裏をよぎると、ユイは途端に方針転換を図る。

 そのユイの反応に興味を惹かれたアルミムは、彼が何を言い出すのか期待しながら、続きを述べるよう促した。


「なんじゃ、遠慮せずになんでも言ってみよ」

「はい。実は今回のレジスタンスの活動を協力する中で、不可抗力にもひとつの失われてしまったものがありまして……それでですね、もし可能でありましたら、それを再び使用出来る形にして頂ければと」


 失われたものと言うユイの言動から、アルミムは自らを助けるために使用され、破損してしまった一つの鏡の存在を脳裏に浮かべた。


「失われてしまったものか。わしのために使ってもらって申し訳ないのじゃが、あの過去写しの鏡は我が国の技術では……」


 アルミムが申し訳無さそうな口調でそう言いかけると、ユイは首を左右に振って、彼の言葉を遮る。


「いや、あんなものはどうでもいいんです。実はそれではなくてですね、もう少し大きな別のものをお願いしたいのですが」

「別のものか。ふむ、あれ以外のものであれば、なんとでもなるじゃろう。あいわかった。其方の望むものを修復することを約束しよう。それで一体なにを直せばいいんじゃ?」


 過去写しの鏡ではないとわかると、アルミムは途端に笑顔を浮かべ直し、ユイに向かって再度希望を問いかける。

 すると、頭を掻きながら苦笑いを浮かべ、一呼吸間をおいた後に、ユイはその場の誰もが予想しなかったものを口にした。


「いやぁ、その……うちの大使館をですね……ちょこっと修復して頂けたりなんかすれば……非常にありがたいのですが」

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