第11話 魔法戦
「エインス、エリーゼ様はどうした?」
距離を取り治癒魔法を自らへと唱える敵をその目にしながら、リュートは状況を把握すべくエインスにそう問いかける。
すると、すぐさまエインスの申し訳なさげな言葉が返された。
「それが奴らの手に……」
「……そうか。ならば、まず奴らを突破して追いかけるしかないな。その火を扱うネズミはまかせるぞ!」
言葉を発するや否や、リュートは隻腕となった風の魔法士に踊りかかる。
一方、リュートの言葉に頷いたエインスは、炎の魔法士に向かい合う。
「さて、二回戦といきましょう」
言葉とともに開いた距離を急速に縮めにかかるエインス。
そしてまさに剣の間合いへと入り込んだ瞬間、再度敵の魔法士の手に炎が宿る。
「ふん、愚か者め!」
「それは僕のセリフです……フリーズオン!」
敵の魔法が放たれる刹那、エインスは振るわんとする剣の腹に右手を添えそう叫ぶ。
途端、彼の剣の周りには冷気が覆わりついた。
数少ない術者しか存在せぬ付与魔法。
それを目の当たりにし、炎の魔法士は動揺する。
だがもはや発火魔法を取り消すことなどできず、彼はそのままエインスに向けて放つ。
炎と冷気。
それらは交わり、重なり、結果として蒼白い冷気が炎を真っ二つに切断する。
そう、対峙している帝国の魔法士の体ごと。
「『シュタイフェ・ブリーゼ』」
「『ゲイル』」
風の魔法士と対峙するリュート。
彼は徹底した魔法戦を展開していた。
双方の眼前に空気の歪が生まれ、彼らの中間点で破裂音を生み出し消失する。
「……あなたも魔法士だったのですか?」
「剣で切られたからといって、勝手に剣士だと解釈したのか? ふん、愚かだな」
「ちっ、不意打ちで私を傷つけたからといって、あまり調子に乗らないことですね。ヴィルベルヴィント!」
魔法士がその呪文を唱えると、先ほどの倍ほどになる空気の圧が変動し、魔法士の前に風の束が生まれる。
「ふん、魔法の構築が些か甘いな。ホワールウインド!」
不敵な笑みを浮かべたリュートは、またたく間に敵の魔法士の二倍程の風の束を生み出す。
そして二人の魔法が交錯した瞬間、帝国の風魔法士は後ろにそびえ立っていた燃える巨木へと叩きつけられた。
「遊びは終わりだ。エリーゼ様が待ってるのでな」
「なるほど……確かにあなたの魔法は、私より上のようですね。ですが勝負は最後に立っていたものが、勝者となるのです!」
魔法士が左手を掲げると、リュートの四方に潜んでいたタリムの私兵たちが一斉に躍りかかる。
「チッ、小癪な。ゲイル!」
大きく後ろに飛び下がると、リュートは左手に空気の歪を生み出し、左方の私兵を吹き飛ばす。
しかし吹き飛ばした私兵の後ろから、次々と新たな兵士が現れいつの間にかそこにはリュートに対する包囲網が構築されていた。
「いくらあなたが強くても、さてこの人数差ではどうでしょうか」
十名に膨れ上がった私兵たちの包囲網。
それをリュートが憎々しげに見回すのを見て、魔法士は勝者の笑みを浮かべる。
多勢に無勢。
この否定し難き状況を前に、リュートは一つの決意を定めかける。
しかしその瞬間、彼の右肩が突然叩かれた。
「では、そこに一人参加しましょうか」
そこに存在したのは、まさに満身創痍で立ち向かおうとするエインスの姿。
「……エインス、お前は十分働いた。おとなしくそこで休んでいろ」
「いえいえ、最後まで諦めるなって先輩が先ほど言ったばかりじゃないですか」
エインスらしいその返事に、リュートはその険しい表情をわずかに緩める。
一方、そんな彼らのやりを目の当たりにした敵の魔法士は、苦笑交じりに最後の宣告をその口にした。
「さて、最後の会話は楽しみましたか? では、終わりにしましょう」
魔法士の言葉が発せられると、私兵たちは一斉に飛びかかる。
次々と迫る敵兵。
二人は十名の私兵を相手に、どうにかその数の半数を減らす事ができた。
だがそれは焼け石に水というべき行為。
なぜならば、次々と新たな敵兵がこの場へ駆けつけ、動きが鈍りつつある彼らは、いつしか十五名もの敵に囲まれていたのだから。
「さて、いくらあなたたちが強くても、もう限界でしょう。そろそろ諦めなさい」
その言葉が空間に響くなり、二人は小さく息を吐き出す。
覆しようのない状況、覆しようのない敗北。
それが彼らの眼前に広がっていた。
だが次の瞬間、包囲網を築いていた一人の兵士の側頭部に突然矢が突き刺さる。
そしてそのままその兵士は、沈み込むように前のめりに倒れていった。
突然の事態に困惑する反乱兵たち。
だが直後、彼らの頭上から無数の炎の矢が降り注ぎ、動揺の中で次々と兵士たちは四肢を炎の矢に貫かれ崩れ落ちていった。
「いやぁ、山登るの大変で遅れちゃったよ。ごめんね、二人とも」
張り詰めた空間に似合わぬやる気なさげな声。
それは響き渡った瞬間、私兵も、風の魔法士も、そしてエインスとリュートも、その声の発せられた方向へとその視線を走らせる。
そんな彼らの瞳が映し出したもの。
それは予定外の山登りのため、肩で息することとなった黒髪の男と、そしてその部下たちの姿であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます