4話 あたたかな家族

 秘匿ひとく商談しょうだん終了しゅうりょう。僕は秘匿商談官のエンブレイスさんに、もう一つの話し合いをセッティングしてもらうことにしました。

 そう、家族かぞく会議かいぎ……いいえ、両親りょうしんへの進路しんろ報告ほうこくです。


 秘匿商談室116ごうしつに、お父さんとお母さんをんでもらいました。

 ポーション調合師ちょうごうしの二人は商業しょうぎょうギルドブリッラ支部長しぶちょう直々じきじき尋問じんもんけて、ヘトヘトでした。

 はやいえかえって、んでもらいたい。でも、いまのタイミングをのがせば、いつになるかわからない。

 両親は支部長に命令めいれいされているでしょうね。両親の貧血ひんけつなおる一かげつ程度ていど。そのあいだは、僕に「テンピもりでの薬草やくそう採集さいしゅう自宅じたくでのポーション調合」をまかせるはずです。


 秘匿商談官のエンブレイスさんも同席どうせきしたまま。部外者ぶがいしゃの同席に対し、お父さんは早速さっそく文句もんくがあるようですが、発言はつげんさきゆるすわけにはいきません。

 こちらから、まずまったことをつたえなければなりません。


「お父さん、お母さん。貧血で大変たいへんでしょうけれど、おはなしがあります」


「僕はポーション調合師にはなりません」

「それは御前おまえめることじゃない」

残念ざんねんながら、イーツ君は商業ギルド会員かいいんであり、この秘匿商談室にて秘匿商談をませています」

「ここが秘匿商談室なの?

 しんじられない」と言いながら、お母さんが116号室内をキョロキョロ。座ったまま藤棚ふじだな見上みあげたり、くさっていないウィステリアみきながめています。

「僕は商業ギルドで、秘匿登録をいろいろ済ませて……今はスライムの保護活動家であり、抜歯屋ばっしやでもあります」


「ポーション調合師になるんじゃなかったのか?」


 お父さんは自分たちとおなみちすすんでくれない息子むすこにショックをけています。

「いいえ、なりません。

 スライムが絶滅ぜつめつすれば、今度こんどは、お父さんたちのポーションも需要じゅようたかまります」

「……そんなこと、いわよ。子どもがポーションの需要なんか、気にすることじゃ無いの」

 お母さんはらした目元めもとに、ハンカチをてました。

「お父さんとお母さんの薬草園がはげらかされているじゃないですか」

「テンペ森に入れば、大丈夫よ」

「その森に入って、密猟者みつりょうしゃどもに殺されかけたのはどちらさまです?

 かるはずみな言葉ことばを私の秘匿依頼人にかけないでいただきたい」と秘匿商談官らしくエンブレイスさんがはなちました。

「「……ごめんなさい」」

隣町となりまちのオンブラ支部しぶ所属しょぞくのポーション調合師一家が白状はくじょうしました。商業ギルドオンブラ支部には、薬草の在庫ざいこがあるあるとうそをついていました。

 フォーリア家の薬草畑はらかっていますが、薬草のくきは傷つけられていませんでした。

 同業者のぬすみをかくそうとするなど、どうかしていますよ。おかげで、ブリッラはますますポーション供給きょうきゅういつかなくなりました」

 エンブレイス秘匿商談官が両親にピシャリと指導を続けます。

「今後はポーションや薬草の在庫・備蓄びちくをきちんとお知らせします。毎週末まいしゅうまつかならず。

 同業者の窃盗せっとうもきちんと被害届ひがいとどけします。

 ブリッラ支部長と約束やくそくしました」

 お父さんとお母さんはペコペコあたまげてばかりです。それだけでは反省はんせいしているようにはおもえませんよね。

「ポーション調合師の口約束くちやくそく価値かちはありません。

 我々われわれ商業ギルドは契約けいやくおもんじます」

 エンブレイス秘匿商談官はだからこそ、情報をリークしてみせました。

「貴方の同業者一家はオンブラ支部の看板かんばんどろりました。

 窃盗一家はオンブラ町からは追放ついほうされました。

 ブリッラ町役場も盗みをはたらいた調合師一家の転入てんにゅうみとめませんでした」


 頭をペコペコ下げるのをやめた両親は、自分たちが目をかけていたポーション調合師がもうどこの町でも開業・居住きょじゅうするのがむずかしいのだと痛感つうかんしていました。

 良いかおつきです。これなら、僕の話もまともに聞いてくれるでしょう。

「僕はお父さんとお母さんのわりに薬草をりにきません。

 テンペ森の一部はもう僕の私有地しゆうちです。お金は商業ギルドにはらいました」


保護区ほごくに僕の拠点きょてんも作ったので」

駄目だめだ。イーツは私たちの家でくらす。

 はなれて暮らすなんてゆるさない。

 結婚けっこんするまで、そとには出さない!」

「……結婚しないまま、ずっとここにいろってことですか?」

「家族は一緒いっしょにごはんべて、一つの家で暮して、るんだ」


「それでは、スライムたちはどうなるんです?」

「スライムにはスライムのれがある。御前はスライムの家族にはなれない。

 スライムと結婚も出来ない。

 御前はスライム保護活動家になったんだろ?」

「密猟者が来て、保護区をっ取られたら?

 僕は子どもで、よるの森は走り回れない。出来るだけ、スライムのちかくにいなければなりません」

 言い過ぎたようです。お母さんが泣きだしました。

「どうして、わかってくれないの?

 いざというとき、貴方あなたけられないじゃない!」

「お母さんの言うとおりだ。何でも、御前一人でやろうとするな!お父さんがいるじゃないか!

 御前はだまって、ポーション調合師になれば済む話なんだ」

「……」

「良し。

 おたがい、言いたいことは言い合ったな?」


「イーツは真面目まじめ独立どくりつしたい。

 エンブレイスさんはイーツがやりたい、保護活動も抜歯屋も反対はんたいじゃない。

 私たちは家族として一緒に暮したい。

 ポーション調合師の私たちが保護区にちかづけば、わる目立めだちする。

 ならば、イーツが拠点きょてんと自宅をコソコソ出来できれば良い話だ。

 レイラ、イーツに三つの選択肢を説明してやってくれ」


時間じかんをかけずに移動いどうするにはイーツの体力たおりょく上昇じょうしょうさせる。

 魔術道具まじゅつどうぐ使つかう。

 魔術を習得しゅうとくする。

 三つの選択肢せんたくしのどれかね。

 だから、ガッソ。イーツのため。

 あれをオンブラ支部からの見舞金みまいきん購入こうにゅうしましょう」

「あれって、何です?」

 窃盗犯を追放しても、遺恨いこんは残ります。

 ブリッラ町とオンブラ町の二町にちょうかん摩擦まさつくすため、ポーション調合師のフォーリア夫妻に見舞金がわたされたのだということは推測すいそく出来ますが……。


「ポータル・ドアを設置せっちしよう」


「保護区の拠点と、自宅を行き来できるイーツ専用せんようポータルだ。家族も利用りようしない。

 そうすれば、この家にながら、スライムの様子ようすをうかがえるだろ?ひるご飯も一緒にべられるぞ」


「エンブレイスさん。

 ポータル・ドアを秘匿購入・秘匿設置出来ませんか?

 息子むすこあいつよぎるおっとが変わらないうちに、ぜひおねがいします。

 設置のさい工事こうじ費用ひよう分割ぶんかつで」

可能かのうですよ。

 そうですね。スライム保護区の実態じったい把握はあくのための秘匿ひとく視察しさつをさせていただけるのであれば、工事費用を無償むしょうにしましょう。スライムに不安ふあんあたえたくはありませんので、今回一度きりの秘匿視察にいたしましょう」

 僕がスライム保護活動家兼抜歯屋でいる問題もんだいは、万事ばんじ解決かいけつですね。しかも、移動いどう手段しゅだん格段かくだんらくになりますね。ふむふむ、僕専用のポータル・ドアですか。


「お待ちください。

 レイラ・フォーリアおよびガッソ・フォーリアご夫妻には、秘匿商談室116号室をご利用りようになりました。

 私の依頼人であるイーツ君に対する守秘しゅひ義務ぎむ契約が発生はっせいします。

 こちらの守秘義務契約書にサインなさってください」

 エンブレイス秘匿商談官にうながされて、両親は書類にサインをしました。



 取り寄せに十日もかかりましたが、無事にポータル・ドアはエンブレイス秘匿商談官によって、「自宅地下室・テンピ森内スライム保護区内苔屋敷の地下室」間に設置してもらいました。

 エンブレイスさんは苔屋敷の玄関前からじーっと自由に過ごしているスライムを観察しています。

「あれは何ですか?」

「スライムの遊戯です。

 幼体の頃から、好奇心旺盛で。

 小石並べ、小石積み。もう少し大きくなれば、擬態ごっこや追いかけっこの輪に加わります」


「あの模型もけいは?」

「あれは歯列しれつ模型です。

 ポータル・ドアの取り寄せに一週間以上かかるというので、抜歯屋の道具を自分なりに作っていました。

 抜歯屋として歯の模型で抜歯の練習をしていたんですが、スライムたちにとられてしまったんです」

 歯茎はぐきから歯を全部抜いて、また歯を歯茎にわったスライムはぷにゅぷにゅとした全身ぜんしんねさせて、エンブレイスさんに近づいてきました。

人好ひとずきなスライムもいて、でられたがるんです」

「撫でても、よろしいんですか?

 その、私の子ども時代じだいはまだ生息数せいそくすうおおくて、よくスライムたちと遊んでいたんです。なつかしいですね」

「スライムがのぞんでいますから、どうぞ」

 秘匿視察に来たというわりには、人好きスライムにまとわりつかれて、エンブレイスさんもまんざらでは無さそうでした。

「おーい。そろそろ、夕食の時間だよー」

ポータル・ドアのほうからお父さんのこえこえます。熱々あつあつのジャガイモのスープの香りもして来ます。

 さあ、夕食の時間です。貧血が少し改善かいぜんされたお父さんとお母さんが待っています。

 エンブレイスさんをれて、ポータル・ドアでもどりましょう。

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