2話 何かを甘噛みする森番の従魔ペルッキ

 隠遁者いんとんしゃダリオ・グラーノと魔術まじゅつ契約けいやくわし、魔術遺産いさんとして苔屋敷こけやしきとその周辺しゅうへんぎました。これにより、森の中にスライム保護区ほごくぼくの保護活動拠点かつどうきょてんられました。

 保護区ない整備せいび本格的ほんかくてきな保護活動をはじめるまえに、「僕は保護活動家で、ここは保護区です」という証明しょうめいをしなければなりませんね。

 ポーション調合師ちょうごうし両親りょうしんしゅう一度いちど程度ていど商業しょうぎょうギルドというオフィスにかおして、つくったポーションを納品のうひんしていました。

 商業しょうぎょうギルドをとおして活動したほうがしばりは出来ますが、安全面あんぜんめんでも心強こころづよいようです。(ただし、森には密猟者みつりょうしゃ続々ぞくぞくとやってきているので、その対策たいさくもおいおいかんがえねばなりませんね……。)



 苔屋敷こけやしき隙間すきまかくれたスライムとわかれ、森番もりばんのケイトさんとも森番の小屋こやで別れました。

 森からかえ途中とちゅうに、何となく僕の目は風変ふうがわりな薬草やくそうっていました。

 そうして、自宅じたくの自分の部屋にもどると。

 僕は早速さっそく以前いぜんのイーツがのこしていた薬品やくひんだなあさることにしました。

 薬草などの保存状態ほぞんじょうたい良好りょうこうで、どれもれたてのときから高品質こうひんしつのまま。

 スライム保護活動を維持いじするのも、両親がポーション調合に復帰ふっき出来るまでの一か月をるにも、お金が必要ひつようです。

 薬草ばたけを持つポーション調合師が無理むりして危険きけんな森に入るくらいですから、経済的けいざいてき困窮こんきゅうしているのでしょう。

 そうなると、スライム保護活動の資金しきんりと、商業しょうぎょうギルドでいろいろな「操作そうさ」をしなければなりませんかね……。


 両親は一か月自宅療養りょうよう必要ひつようなほどの貧血ひんけつ

 薬草畑ははげらかし放題ほうだい

 森の薬草摘やくそうつみでは、日中にっちゅうでもスライム密猟者に襲撃しゅうげきける。


 一か月かそこら、ポーション調合を休業きゅうぎょうしても、僕が両親のわりに薬草摘みに出かけなくても、商業ギルドから文句もんくを言われないように、しなければなりません。


 そこで、ポーションについてを調しらべてみました。

 ポーション分類ぶんるいは、三つ。ハイポーション・ミドルポーション・ボトムポーション。

 ポーション調合師は国にみとめられていて、品質を安定あんていさせているんですね。ふむふむ……。

 王立ポーション研究所が発行はっこうしているパンフレットには、「ポーション調合師はより良いポーションの開発かいはつ研究けんきゅう」もおこなわねばならないと書かれていますね。

 こちらの世界の薬草は僕がもといた世界とはちがい、薬草にも不思議ふしぎな力や性質せいしつがありますね。たかが薬草から死にかけの人間を回復かいふくさせるハイポーションを作れるんですからね。

 僕も作ってみましょうか。


 かみ頭皮とうひうるおいには、透明トウメイ水草ミズクサ一束ひとたば

 眠気覚ねむけざましに独特どくとくにおいの、月光樹ゲッコウジュ樹皮じゅひひとめくり。

 清潔せいけちさをたもつ、クロスフラワーの花汁かじゅう…スプーン一杯いっぱい

 リラックス効果こうか、グラスフラワーの花汁…スプーン二分にぶんの一杯。

 産毛うぶげがものすごい、中身はあんずもものような果実かじつっぽさ、グレコットの果汁かじゅう…スプーン二杯にはい

 太陽光たいようこう刺激しげきからかみ頭皮とうひを守るには、テベのたね六粒ろくつぶ

 清涼せいりょうさは、フリルアンの三枚さんまい

 発砲感はっぽうかんを出すには、ガスじお(発砲するだけで塩味しおあじはしない)…一摘ひとつまみ。


 用意よういした材料ざいりょうなべでコトコト煮詰につめて、シロップのように濃厚のうこう液剤えきざい完成かんせい

 あとは希釈水きしゃくすいぜて、瓶詰びんづめ。

 ふふふふ。

 まあ、即席そくせきとしては良いブツが出来ました。

 ブツの評価を見たいですね。液剤いっぱいの鍋に手をかざしてみましょう。


薬剤やくざいめい健康けんこう維持いじ薬剤エナジアの希釈水きしゃくすい/ピュアエナジア]

[薬剤評価ひょうか:評価不可ふか(※希釈によって若干じゃっかん依存性いぞんせいは消えていますが、ご注意ください。)]

効果こうか:健康維持。髪質かみしつ改善かいぜん。]

生産者せいさんしゃ非公開ひこうかい(※かくしたいのでしょうね。)]

頭皮とうひにふりかけるさい注意ちゅうい:発砲のしびれといきおいに注意すること。回復維持・魔力量維持・状態じょうたい異常いじょう無効むこう維持いじの効果はし。]


 みんな期待きたいするような「回復維持・魔力量維持・状態異常無効維持」のポーションは出来ませんでした。

 失敗作しっぱいさくでしょう。ただ、これはこれでヘアトラブルをかかえるそうには需要じゅようがありますね。


 町の中で薬瓶くすりびん発注はっちゅうすると、あやしまれますね。

 薬瓶を六十瓶を自力じりき(魔術)で用意よういしましょう。

 硝子片がらすへんをかきあつめ、選別せんべつ脱色だっしょくを瓶づくりの準備じゅんびとしておこないましょう。

 僕には瓶をいきなりつくる「瓶製造グラスメイク」の詠唱えいしょう魔術が使つかえません。

 だから、詠唱を「硝子片選別」・「硝子片脱色」・「鋳型いがた」・「小瓶こびん製造」の四段階にこまかくけて、一つ一つ段階だんかいなければなりません。

 これも、スライム保護のため。スライム保護のため。


 深緑ふかみどり色にかがやく六十瓶のき瓶を造ることが出来ました。

 薬剤の瓶詰め作業は作業。最後に不純物ふじゅんぶつじっていないか、手をかざして評価確認。

「髪質改善……薬剤名の変更をしたいですね。

 魔術は想像そうぞう現実化げんじつかするのですから、強い思いを大切にしましょう」

 良いことを思いつきました。

「ピュアエナジアの名称めいしょう変更をもとむ!」

 強くねんじると、評価が変化へんかしました。


[薬剤名:毛生けはり薬エンゼル]


 これを商業ギルドへれば、スライム保護活動の資金しきんりは上手くいきそうですね。



 両親が襲われて、一週間がちました。

 ようやく、外出がいしゅつ出来るようになった両親は朝も昼も商業ギルドへ顔を出しています。

 今後、このブリッラ町のギルド支部しぶ縮小しゅくしょうするか、それとも隣町となりのオンブラ支部と合併がっぺいして、こちらがわのオフィスを出張所しゅっちょうじょにするか。

 出張所にすれば、隣町のオンブラ支部からポーションを融通ゆうづうしてもらいやすくなるでしょう。しかし、支部から出張所へ降格こうかくとなれば、この町の経済けいざいそのものが縮小され、ブリッラ町の人口じんこうっていき、そのすきに町の治安ちあん悪化あっかしていくだろうと予想よそうっています。

 僕は家に両親が貧血ひんけつ無理むりが出来ないことを良いことに、森に出かけ、スライムの保護区の掃除そうじやスライムの生態せいたい観察かんさつしています。


 保護区のスライムたちは魔物や人間におそわれずに、のびのび森林浴しんりんよくを楽しんでいたり、擬態ぎたいごっこやいかけっこなどの簡単かんたんあそびをし始めたりして、自由じゆうごしています。


 スライムの食事はそのへんえている朝露あさつゆ湿しめった草花くさばなや、ムシ樹液じゅえきつちみず吸収きゅうしゅうして、養分ようぶんっています。魔物の肉はどうでしょう?今度、試してみなければ。

 森のどこかから、保護区へうつるという環境変化かんきょうがあっても、生きていく力はあるようです。


 僕がスライムの排泄物はいせつぶつ透明とうめいなとろみで無臭むしゅう)を観察しているときに、このテンペ森の森番もりばんのケイトさんと従魔じゅうまが保護区を見回みまわりに来ました。

「スライムは元気そうだが……えていないか?」

別種べっしゅ粘体ねんたいじっているのかと思ったんですが、どうやらとおくからスライムが遊びに来て、そのままとどまっているみたいです」

 密猟者に追いかけまわされず、ほぼ廃墟はいきょ同然どうぜんの苔屋敷とその周辺をふくめた保護区。

 居心地いごこちが良いのでしょう。

「あたしの従魔じゅうまにもおびえないな」

 ケイトさんの従魔はスライムのれと追いかけっこを始めました。何故か、従魔がスライムに追われています。遊んであげるなんて、ケイトさんの従魔は優しいですね。

「そうだ。御前にも報告ほうこくしたかったことがある。

 わるさをしない魔物たちが日中、森の中を徘徊はいかいして、木や骨をんでいるんだ」

 僕はスライムに興味きょうみがあるだけで、魔物には興味が無いのですが。スライムに何か関係かんけいがありそうですね。

「テンペ森からスライムがいなくなったからな。

 スライムの中には魔物の歯垢しこうや食べかすを吸収きゅうしゅうするのもいる」

 魔物がスライムを使って歯磨はみがきをしているなんて、すごい文明ぶんめいかんじます。この世界の人間は歯磨き習慣しゅうかんはあるものの、歯科医しかいがおらず、抜歯屋ばっしやだよりだそうですよ。

「……魔物はスライムを追いかけ回しますよ?天敵てんてきですよ」

「嗚呼。そういう魔物は、スライムに不人気ふにんきの魔物だな。

 スライムと共生きょうせいしている魔物は多かったはずだ。

 ここにも、そのうち、魔物が歯磨はみがきがてらかようようになるかもしれないな」

 前世でそういう行動をする生物がいましたね。

 大きな海洋かいよう生物のお口の中をせっせと掃除そうじしつつ食事をたのしんでいた海老エビ小魚こざかなが、頭の中にさきかびました。


「ケイトさん、いいえ、ケイトさんの従魔さん。

 僕のスライム研究に協力きょうりょくしてください」

 あれ?

 スライムが追いかけ回し過ぎたのでしょうか?どこへ行ったのか、心配ですね。


 あっ。

 従魔は何かを口にくわえて、ハムハム甘噛あまがみしています。

「すまない。あたしの従魔のペルッキが何かを夢中むちゅうで噛んでいるんだ。

 もしかしたら、スライムの死骸しがいかもしれない。捕食ほしょくはしていないと思うんだが……」

 夢中になって、目をギラギラさせて、ペルッキがスライムのようなものをやさしくモギュモギュハムハムしています。

 ケイトさんにとがめられて、ペルッキがもうわけなさそうに、何かをしました。

 吐き出したのは、ぷるんぷるんのスライムのかわですね。排泄物のようにくずれず、弾力だんりょくがあって、とろみは無し。ペルッキの大きな上下の歯列しれついつくくらいの大きさのままひろがっています。

「これは、スライムの脱皮だっぴです。ふんのような排泄物はいせつぶつかと思ったんですが、スライムのかわあるいは外層がいそうです」


「おかしいな。ペルッキの歯が良くなっている。

 竜手袋ドラゴングローブ一撫ひとなでで、歯が悪くなったんだぞ。

 かたにくはもちろん、生涯しょうがい何でも上手うまく噛めないはずなんだが」

 ペルッキの口の状態じょうたいを思い返すと、今でもかなしくなります。痛々いたいたしい傷口きずぐちだったという印象いんしょうです。あれが人間がすることか、と。ショックでした。

 異変いへんがあるペルッキの口の中を森番のケイトさんと一緒に、観察してみます。

「ペルッキのきば、明らかにおかしいですよ。僕がいた牙一本分、りないんです。足りないはずなんですが……歯茎はぐきから牙が生えて、元に戻ったみたい……信じられません」


「……最適化さいてきか


 僕の口からポロリと言葉が出ました。

 ですが、前世ぜんせの子どもたちがプレイしていたゲームや、読んでいたライトノベルにはそんなスライムが登場していたのでしょうか?

 大げさかもしれませんが、スライムを甘噛みすると口腔こうくうケアになるのは間違いないようです。

「だから、スライムと共生きょうせい出来る魔物はスライムを食べずに甘噛みするんですね。

 そういう魔物だけがテンピ森で残っていったということは……」

 ひらめきました!

「スライムは生存するために、空間くうかんを最適化する。

 最適化能力を発揮はっきするスライム研究なんて、どうでしょう?」

「おいおい、そんな研究をしたら、もっとスライムの需要じゅようが高まるぞ。

 密猟者がこの森に押し寄せたら、どうするんだ?」

 森番のケイトさんがずいぶん心配してくれます。

「スライムの副産物研究は商業ギルドで登録を予定していますから、心配しんぱい無用むようです。

 ケイトさん、内緒なしょにしてくださいね」

 それでも、ケイトさんは賛成さんせいしてくれません。

 そこで、ケイトさんは「助言アドバイス」をくださいました。

「それじゃあ、駄目だ。

 通常つうじょう登録とうろくだと、悪用あくようされかねない。

 秘匿ひとく商談官しょうだんかんと秘匿商談して、秘匿商談手数料てすうりょうはらうんだ。

 秘匿商談の金をケチると、あとそんをする」

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