第1話 非日常の始まり

 時間は少し遡る。


 高校最初の夏休みを終え始業式も終えた私は憂鬱な心持ちであった。また授業が始まる。


 勉強もそこそこやればまぁまぁできていたので偏差値も高めの地元の公立高校に入学した。そこで待ち受けていたのは予習と復習だった。


 いやまぁ、青春のど真ん中を期待して入学したあたいが馬鹿でした。


「キ・ツ・イ♡。ぐふぅ…」

 

 そんなことを考えていたらやる気がからだから少し逃げて行った。

 一ヶ月でやっと馴れたものの、趣味の読書とゲームは控えて丁度である。さらに陸上部に入って自らの首を絞めることになった。


「あーちゃん何変な声だしてるの?前半まではよかったのにー」

 

 と私の髪の毛をもさもさしているのは小学校からの友達のゆいゆいこと桶結結衣おけゆいゆいである。かわいい。中学で身長を抜かされたあたりから私のことを小動物のように扱ってくる。鬱陶しいと思うことはあまりないが、あったとしてもうまく宥めさせられてしまう。昔から器量も顔も良くてちゃんとしてるけど少し天然で。もちろん人気もあるけれど私の一番の親友だ。


 もさもさされるのが少し癪だったのでこちらも負けじと頬を引っ張って変顔を作ってやる。


「ゔぅぅ。ばあじゃんびゃべべつjkvんbvh」


 顔面だけ藻掻もがくゆいゆい、かわいい。もっとつねる。かわいい。


「ぷはっ、ひどいなぁ」


「可愛くてつい。そういえば今日の数Ⅰ分かった?なんで2つの二次関数の大小関係もとめなアカンのや。別々のグラフでいいじゃん」


 これ以上ちょっかいを出しても上手く言い返されるだけなので、話題を変える。


「ちょっと難しよね。後で教えてあげる。今日暇?暇ならうちおいでよ」


「佐藤有守、暇であります」


「分かった。じゃあ五時に校門集合ね」


 ヨシッ!思わずガッツポーズ。今日は週に一度の部活のない日だった。ということで久しぶりにゆいゆいのお家にお邪魔することになった。憂鬱な気持ちはもう消え去っていた。


 ―四時五十分―


 校門についたが、ゆいゆいはまだ居ない。英単語帳を開こうとしたがやる気が起きないのでやめた。かわりに有守は人間観察を始めた。


 高校生。部活に行く人、帰路につく人。伸びきった前髪を鬱陶しがる人、セットしたてのような前髪を整える人。眠そうな瞼。夏休みにノリで開けたピアスの穴。


 その時目の前を小柄な白髪の少女がよぎった。制服でもない、灰色のパーカー。黒いズボンにスニーカー。下校する生徒も見られるこの時間帯では場違いな格好だが、道行く人はだれも彼女を見ていない。まるでそこになにもないかのように過ごしている。


 有守はその少女を食い入るように見つめ、何故か呼ばれているような気がしてその後を追って行った。


 基本無気力で好奇心などあまり縁のない有守は自分のその行動に驚いていた。気になるものがあっても、目で追うだけで追いかけたことはなかった。


 校門から大通りに一旦出て、また脇道へ。なんとなくどこにいるかはわかるけどその感覚も怪しくなっていくる。


 一体どこへ行くんだろう。中学生かな?でも高校にあんな格好でいたら絶対目立つし…。幽霊!?、流石にないか。


 そんなことを考えながらしばらく歩いていたら曲がり角で少女を見失っていた。


 いない。いやでも絶対曲がったよな。


 そこは行き止まりの路地で目の前の工事現場らしきスペースの前には進入禁止の看板が立っていた。それ以外にはなにもない。


 しかし、「進まなければならない」という衝動に有守は駆られ、進入禁止を示すコーンをこえた。


 何もないじゃん。


 さあ帰ろうと一歩踏み出した時、突如地面が陥没した。


 落ちる 落ちる 落ちる。


 ああぁあぁァァァァァァあああ


 怖いこわいこわい。ジェットコースターの安全バーが欲しい。自分の体だけが落ちるのってこんなに怖いんだ。暗いし。まだ地につかないの、いくらなんでも深すぎるでしょっ!


 ああぁあぁァァァァァァあああ


 ここで有守の意識が途切れたあとも、深く深く落ちて行った。


 

 DOWN


 

 Down


 

 down





・・・・

良ければ☆や♡お願いします。私が喜んで跳ねます。










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