11・笙子→未来へ(最終章)③

 季節は、穏やかに過ぎていった。


 冬が来て雪が降り、大学受験に向けての模試も増えた。

 わたしは、少し遠くの塾へ通うことになった。


 春が来て、高校三年生になった。

 進路を見据え、ひたすら勉強をした。


 でも、一人じゃなかった。

 周りには、和可奈をはじめ、友だちがいた。


 段々とそれぞれの得意分野もはっきりしてきたので、お互い頼り合い、助け合って勉強に励んだ。

 楡井君もその仲間だった。

 楡井君とは、わたしが勉強の遅れを取り戻したあとも、一緒に勉強をする仲になっていた。



 そして、春。

 わたしは、無事に大学に合格した。

 法学部だ。

 楡井君も一緒だった。


 大学の発表を見た足で、わたしは姉に報告に行こうとした。

 姉のお墓は、自宅から二駅離れたお寺にある。姉がさみしくないようにと、近場を両親が探したのだ。

 その話をすると、楡井君の顔色が変わった。


「あのさ、俺も行ってもいいかな」

「姉のところって、あの、お墓なんだけど。よければ、ええと。……どうぞ」

「やった」


 楡井君はそう言うと小さくガッツポーズをとった。

 姉のお墓に、わたしは毎月行っている。

 掃除して、花を供えてお線香をたいて。

 そして、姉と話すのだ。

 学校のこと、家のこと、そしてわたしのこと。

 義務とかそんなんじゃなくて、わたしがそれで安心できるから。

 行かないと逆に落ち着かない。




 楡井君は、大学のそばにあるホームセンターに寄りたいと言った。

 わたしは、園芸のコーナーに切り花が売っているのを見つけたので、待ち合わせはここにした。

 あたたかくなり花の種類が増えてきた。わたしは、スイートピーの花を買った。


 10分くらいだろうか。大きな紙袋を持った楡井君が戻って来た。

 楡井君は、わたしが持つ花を見て、一瞬、泣きそうな顔になった。でも、すぐに、にかっと笑う。


「花、持ちたい。持ってもいいかな」


 わたしが頷くと、嬉しそうに愛しそうに花束を持ってくれた。



 晴れた日だった。

 お寺の周りには高い建物が少なく、空が高く見えた。

 姉のお墓に着くと、誰かがお参りしてくれたのか、季節外れの向日葵の花が供えられていた。


 お墓も、綺麗だった。


 このお墓に、家族以外の人が、こうして花を供えてくれることは、よくある。

 姉は友だちが多かったので、きっと今も会いに来てくれているのだろうと、家族で話している。


 ありがたいね、と。


 供えてくれる花も、チューリップにマーガレットにガーベラと、花束にするような可愛いお花を選んでくれていた。


 その中でも、多いのが向日葵だった。


 向日葵は、夏だけにしかないと思っていたわたしは、冬にこの花が供えられているのを見て驚いた。

 厚く暗い冬雲の下で、そこだけがあたたかな日だまりに見えた。




 姉は、太陽のような人だった。




 わたしは、向日葵を見ると、姉を思い出す。

 姉はもういないけれど、……いないけれど。

 わたしと同じように、そんな思いの人がいるんだと知った。




 25年の姉の人生。




 けれど、姉が生きていたこと、姉の明るさが周りの人の元気の源になっていた事実は、その死とは関係ないのだと、日が経つにつれわたしは強く感じていた。


 そして、知ったのだ。

 死は、終わりではないのだと。


 目の前にいなくても、姉は心の中にいるのだから。

 家族の心に、そして姉と親しかった人の心にも。

 姉の優しさ、勇気は、死を持って終わることはないと。



 それは、ずっと、ずっとわたし達の心の中に、光となり灯っているのだから。

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