8・香奈→対決①
講座は、和可奈の校舎で行われるため、最寄り駅で待ち合わせをして二人で向かった。
「笙子ジーンズなんて珍しいね
えへへ、と笑いながら、動きやすい服を選びました、といったコメントは黙っていた。
校舎の一階で受付をすると、そのすぐ後ろにあるエレベーターで教室のある三階まで行った。
教室の前には、楡井がいた。
楡井はわたしが和可奈と一緒なのを確認すると、一人教室に入っていった。
席は自由のようだったので、前から三列目に座った。
楡井が、わたしの後ろに座る気配がした。
期待してます、騎士殿。
和可奈から聞いた村沢先生のことは、そのまま楡井にも伝えていた。
楡井の話だと、たしかに村沢先生は、笙子がいた校舎と和可奈がいる校舎で授業を持っているということだった。
教科は英語なので、楡井先生と同じだ。
弟の楡井から見て、二人は特別な関係には見えないって話だけど、それはあまりあてにもならないだろうと思う。
だって、わたしの恋愛について、妹である笙子がいったいどれほどのことを知っているというのか。
楡井兄弟は、わたしと笙子よりも年が離れているようだから、それはもう推して知るべしだ。
生憎、村沢先生の写真はなかったので、はっきりとした顔は、わからなかった。
楡井の話だと、身長は笙子より少し高めで、髪の毛は肩くらいまで伸びた、すらりとした人らしい。
果たして、村沢先生が和可奈経由で、笙子を講座に誘ったのは、偶然か。
それとも、意図があってのことなのか……。
塾のチャイムと同時に、一人の男の人が教室へと入って来た。
「にっ、れぇ~!」
女の子たちの掛け声に、びくっとした。
振り向くと、後ろの席の女の子たちが「にっ、れぇ~」に手を振っている。
思わず、後ろに座る楡井に視線を送ると、楡井はまいったなぁといった顔をしていた。
なるほど、楡井先生は、掛け声がさまになるほどにカッコイイ。
楡井を思いっきり派手にしたような顔に、すらりと伸びた背はまるでどこかの俳優さんだ。
それに、教え方だって、手際がいい。
緩急もあり、時折、生徒たちに向けて話を振ったり、それは授業というよりも、まるで一種のパフォーマンスのようだった。
――生徒個人に関しては超ドライで、あまり真剣に受け取っていなくて。無神経なところがあって。
楡井の言葉を思い出す。
まぁ、そうじゃないとこれだけのイケメン先生は、やっていけないわな。
これで、熱血が入ったら、過労になるわ。
生徒も、そんな先生だと受け入れて、授業を楽しんでいるんだろう。
――でも。
この中に、この先生に、真剣になる人がいたら?
または、笙子のことを好きな子がいたら?
ミス・堅実だって言われるほどの笙子と、人気者の楡井先生の接近は、面白くないのかもしれない。
気になる人は、気になるかもしれない。
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