7・香奈→合服②

 母は振り向くと、わたしに商店街の福引券を見せてきた。

 ピンク色の券が5枚。


「あぁ、いいところに居合わせたわね。これから福引をするの。ちょうど1回分が貯まったのよ」

「お母さん、がんばって」

「香奈、ひきなさい」

「え、わたし? でも、わたしこういうのって、あんまり当たったことないけど」

「あら。わたしだって、当てたことないわよ」


 うちの家族は、総じてくじ運が悪い。


「あのさ。はずれても、文句はなしね」

「あら、なにを言い出すの? 文句なんて、言いませんよ」


 母の笑い声に背中を押され、商店街の真ん中にできた、小さなテントに向かった。


 一等は、なんとあの有名な勝手に床の掃除をしてくれるという掃除機だ。

 二等はポット型の浄水器で、三等は新米だ。

 頑張ったな、商店街。

 今日の福引の係は、あの文房具屋のおばさんだ。


 おばさんと目が合う。

 おばさんが、にたりと笑う。

 なんとなく、縁起が悪い。


 わたしはおばさんに券を渡した。

 そして、母が見守る中、ぎゅっとハンドルを握り、えいやぁと抽選機を回した。

 抽選機がのそりと回る動きと、少しずれたような重そうな玉の音がじゃらんと響いた後、一個の白い玉が出た。


 その場がしーんとなった。

 そして、鐘が鳴り響く。


「おめでとうございます~」


 わたしと母は目を丸くし、そして顔を見合わせた。





「いやぁ、当たるんだね」

 家までの帰り道、おばさんから渡された目録『三等賞 新米』を、しみじみと見た。

 後日、産地から自宅に送られてくるそうだ。


「当たるのねぇ」

 母も感心したような声を出す。

「そういえば、香奈。以前、相談があるって言っていたけど、どうなったかしら?」

「あのね、ほら、少し前になるけど、和可奈ちゃんから塾の講座に誘われたって言ったでしょ。あれに、行こうと思って。相談しようと思ったけど、ごめん、もう申し込んじゃった」

「無理しなくていいのに」

「わたしもね、少しは賢くなりたいし」


 わたしの嘘に、母は困ったような顔をしつつも、了承してくれた。

 手紙のことは、母には言わないことにした。


 以前は、おびただしい量の手紙について、なにかしらの目安がついたら母に話そうと思っていた。

 あの時、わたしは孤独だった。

 一人で考え、動くしかなかった。だから、誰かに相談したかったのだ。

 けれど、今は楡井がいる。


 それに、手紙や怪我の話を母にしてしまうと、わたしは、あの塾に近づくことができなくなるだろう。

 それは、困る。

 あの手紙には、笙子をもとにもどす鍵がある。


 これは、危ない橋かもしれない。

 そういった自覚は、あった。


 そんなところに「笙子」を行かせていいのか、とも思う。

 でも、行かないと、動かない。

 変わらない。


 このままでいいと、香奈でいいんだと思う両親には、わたしのしようとすることは、きっと受け入れられない。

 知られたら、止められてしまう。

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