7・香奈→合服①

 翌朝、学校に行くと田辺和可奈に声をかけられた。


「笙子、あの塾の特別講座、塾生じゃなくても受けられるんだって」

「調べてくれたの? ありがとう」

「このあいだ、わたし感じ悪かったよね。『おかしい』なんて言って」


「そういえば、あれは、なんだったの?」

「実は、あのパンフレットは、村沢先生に渡されたの。朝倉さんに勧めてって」

「村沢先生? どんな先生なの?」


「村沢愛美先生。すごく優しくて人気あるの。わたしの校舎と笙子の校舎で英語を教えているのよ。笙子のこと、塾の先生も知ってて。で、わたしと笙子が同じ学校って知って、気分転換に誘ってみてって」

「そうなんだ。村沢先生かぁ。……わたし、その先生に習っていたのかなぁ」

「多分、そうじゃないかなぁ。笙子を知っていたから」


 村沢先生がどんな人物か、楡井に聞いてみよう。


「それで、わたしが確認したかったことって、このことだったんだ。村沢先生に勧められたから、この講座には、塾生しか申し込めないって思っていたのよ。だから笙子から、塾をやめたって聞いて。そんなことは、先生なら知っているはずなのに、なんで講座に誘うんだろうって。間違えたのかなって。でね、塾の事務の人に聞いたら、一般でも受けられるって言われたの。つまり、わたしの勝手な思い込みだったの。ごめんね」


 わたしが首を振った後にこりと笑うと、和可奈も笑った。

 後日、わたしと和可奈は一緒に塾へ行き、その講座の申し込みをした。





 ついに来てしまったといった思いで、わたしは夏服を脱いだ。

 そして、冬服の少し手前に着る合服に袖を通した。


 夕焼けのなか、一人歩く。

 わたしが暮らす町の商店街を。


 駅前にある、入り口の狭い本屋さん。

 小学生の頃は、ここで少女漫画雑誌を買った。

 わたしは、付録の好みにより買う雑誌を変えてしまう子どもだった。そのため、連載漫画の続きが読めない、と友だちから怒られたものだ。


 文房具屋さんでは、はじめて履歴書なるものを買った。

 失敗ばかりで、何度も買いに足を運んだら、お店のおばちゃんに笑われながらも励まされた。


 この間まであった、八百屋さんはコンビニになった。

 便利にはなったけど、なんとなく淋しい。


 この町は、おしゃれ雑誌に取り上げられることも、これといった名物があるわけでもない。

 けれど、わたしが昔から知る、ただ一つの大事な思い出付の商店街なのだ。


 笙子に想いを馳せる。

 あの本屋さんで、笙子はこれからどんな本を買うのかな。

 履歴書も、笙子なら失敗はしないんだろうな。

 あのコンビニには、笙子の好きなお菓子が置いてあるかな。


 そんなことを思いつつ歩いていたら、よく知る背中を見つけた。

「お母さん!」

 笙子の声で、母を呼ぶ。

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