6・香奈&楡井→推理③
「兄の字じゃない」
「そうなの?」
「うん。兄は、ちょっと癖があるというか」
「誰かに頼んで書いてもらった、とか?」
「可能性としては、あるかも」
うーんと唸ると、お腹の音もぐぅと鳴った。
「お姉さん、ちょっと、一休みしようか」
「……はい」
なんだか立場が逆転だぞと思いつつ、わたしと楡井は、すっかりぬるんでしまったジュースをごくりと飲んだ。
「笙子は、この手紙に反応した」
「
捻挫とか、擦りキズとか、病院にはいかないギリギリのラインで。
「手紙には、楡井先生の授業時間が書かれていた」
「その手紙は、当日でなく、少し前に朝倉に渡された」
楡井が補足してくれる。
「つまり、この手紙は塾に関係する誰かから笙子に渡されたもの。そして、その手紙を書いた人にとっての関心は、楡井先生の授業ってことね」
楡井が自分のスケジュール帳を開き、一つ一つの日時をあたり始めた。
「兄の授業が、すべてこの紙に書かれているってわけでもないようだ。これは、俺たちの学年に兄が教えていた時間だ。つまり、朝倉が受けていた兄の授業の時間だと思う」
「そうなのね。だったら、楡井先生が『俺の授業を受けろ』って線は消えるわね。むしろ笙子が、楡井先生の授業を受けるのが気に入らない人がいたって意味かしら?」
「俺もそう思う」
楡井が頷く。
「手紙の主は、楡井先生の授業の予定を書いたものを笙子に渡す。その授業は欠席しろって意味で」
「けれど、授業に出た朝倉は、結果、怪我をした」
こうして言葉にすると、とんでもない話だ。
「あなたのお兄さん、もてたの?」
「まぁ、うん」
また煮え切らない答えだ。
「この手紙を出したのって、どんな人物だろう」
「……朝倉を好きな奴、とか」
笙子を好きな奴、ねぇ。
「まさか、あなたじゃないでしょうね」
「え、俺? なんで?」
「だってわたし、あなたしか知らないもん。同じ塾で、笙子のことを好きな男の子って」
楡井が、ジュースを吹いた。
ごめん、と言いながら楡井は側にあったティッシュを出すと、床を拭きだす。
「なんで、俺が朝倉が好きだと……」
「なんでって。かなり早い段階で、そう思っていたけど」
「まじか。……待って。これ、朝倉にも聞こえてる?」
「どうかな? 聞こちゃダメな想いなの?」
楡井がハッとした表情になる。
「ダメじゃないけど。保留にして。ちゃんと言いたいから」
「そうだね。この話はもうしないよ」
そう言いつつ、にやにや顔で楡井を見る。
「うー、やりにくいな。ともかく、手紙を出したのは俺じゃないけど、俺じゃないって証明、できないもんな。だから、お姉さんがそう思いたいなら、そうでもいいよ。お姉さんの立場ならそう思うのわかるし」
「可能性でいえばそうだけど。あなたじゃないって、わたしは思う」
楡井の顔がぱっと明るくなる。
「理由はないけどね」
その言葉に、楡井が苦笑いをした。
楡井に、
「これ、お兄さんも出るよね」
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「わたし、これに申し込もうと思う。この状況では、謎を解くのは、これしかないよ」
「俺も申し込む」
楡井は、真っ直ぐな目で「笙子」に言った。
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