6・香奈&楡井→推理②
楡井とわたしは、一言も話さなかった。
楡井は宗田と話した時とはうってかわって静かで、大人しく家までついて来た。
母は、楡井を見て、心底驚いた顔をした。
メールで知らせていればよかったと反省した。
わたしは、台所で仕入れたおせんべいやジュースを楡井に持たせ、香奈の部屋へ行った。
楡井にこの部屋で待つように言うと、今度は、笙子の部屋へと向かった。
そして、机の引き出しごと引き抜くと、それを持って自室へ戻った。
楡井は、部屋の隅にあった小さなテーブルを真ん中まで運んで、お菓子を広げていた。
気が利く子である。
そんな楡井であるので、わたしが引き出しごと持ってきて、それを床にごんと置くと、ぎょっとした顔をした。
「がさつだ。朝倉とは、似てない。朝倉なのに、朝倉じゃない」
「あのね、楡井君。あなたね、少し笙子に幻想を抱いているんじゃないの? そりゃ、笙子はわたしと違って繊細だけど」
「お姉さんだって、高校の頃は宗田に幻想を抱いていたんじゃないの?」
「なに、生意気言ってんのよ」
「宗田先生の言った『友だち』って、お姉さんのことでしょ。元気の源ってなに? 俺、心臓が止まりそうになったよ」
「さっきまでは一言も話さなかったくせに、勢いにのってべらべらと」
「そりゃ、公の場で、こんな話はできないでしょう」
その通りでございます。
「俺、宗田の話聞いて、なんていうか、じーんときた。それに、お姉さんの顔が赤くなる理由もわかったし」
「そんなん、わからなくてもいい」
「告白、しなかったの? あれは、宗田も脈ありだと思う」
「ふられたの」
「え?」
「だから、告白しましたよ。でも、ふられましたよ。そして宗田は、他の女の子と付き合いましたよ。可愛い子でした。以上。質問は、受け付けません」
わたしの言葉に、その場が凍る。
「――ってことで、わたしのことはいいから。笙子のことね」
わたしはそう言うと、引き出しの中の手紙をさす。
楡井がじっと見る。
「こんなにたくさんの手紙を、朝倉は受け取っていたのか」
「うん。気持ち悪いでしょ」
引き出しから、一通の手紙を取り、その中身を見せた。
日にちと時間しかないその手紙に、楡井が、暗い色のため息をつく。
「お姉さん、ホチキス持ってる?」
そう言うと楡井は、どんどん手紙を開け始める。
「これ全部開けて、便せんが見えるように、封筒とセットしよう」
わたしは楡井にホチキスを渡すと、わたしも楡井と同じ作業をすべく、笙子の部屋にホチキスを取りに行った。
あれほど、腹がすいたと言っていた楡井が、何も飲み食いせずにひたすら手紙を開封して留めていた。
どんどんと手紙は開封され、それがまるで、このことの解決にもつながるような希望にも思えた。
「お姉さん、この手紙を日付で揃えて」
楡井の指示に従い、月ごとの山をつくり、そしてその中で日付順にした。
手紙は、「7月」から始まっていた。
量としては、7、8月と12、1月。
そして、3月が他の月よりも多かった。
しかも、複数の時間も、それらの月にみられた。
手紙の山を見て、楡井が考え込む。
「俺、朝倉の日時しかない手紙を見た時、『あぁ、こんな時間を書かれても朝倉には行けないのにな』って思ったんだよなぁ」
なんでだっけ、と楡井がぶつぶつと言う。
「それで、ちょっとザマァミロって思ったんだ」
楡井、気が付かないかもしれないけど、それ告白だから。
あっ、と楡井が叫ぶ。
そして、自分のスケジュール帳を出すと、ぱらぱらと捲りだした。
「これ、塾の授業の時間だ!」
「塾の? え?」
えええ?
授業の?
「しかも、兄の」
「お兄さんの?」
英語の講師である楡井のお兄さんは、夏休みや冬休みに春休みといった長い休みになると、違ったテーマで2コマ、3コマ授業をすることは、少なくないと言った。
「手紙は、楡井のお兄さんからってこと?」
俺の授業を受けろ、とか?
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