6・香奈&楡井→推理①
楡井に、彼が見たのと同じような手紙が、家にたくさんあることを伝えた。
楡井は、驚きながらもそれを見たいと言ってくれた。
よって、勉強は切り上げ、楡井を我が家につれて行くことにした。
すると楡井は急に恥ずかしがり、腹も減ったしなんて言いだすので、口に「元気の源」だよ、と言って飴を放り込んだ。
足早に駅へと向かう。
一刻も早く、あの手紙を楡井に見てもらいたかったのだ。
券売機の前に立つ。
「交通費も、わたしが払うからね」
「そんな、そんなことは別にいいんだけど」
焦ったように楡井が言う。
「でも、ちょっとこれは、止めてほしい」
がしりと楡井の腕を掴むわたしに、楡井の視線が泳ぐ。
「……もしかして、わたし、ずっとこうだった?」
「いや、ずっとじゃない。駅の近くにきたら、突然、こう、がしっと」
楡井を逃がすもんか、といった思いが、つい行動となって出てしまったようだ。
ぱっと、離れる。
「誰かに、見られたかなぁ」
「あぁ、どうかなぁ」
楡井は、ぐるんと駅の周りを見渡す。
中途半端な時間帯だったので、生徒の姿はあまりなく……。
「宗田先生がいた」
「うぞっ」
「そ」が濁音になるほど驚きながら、楡井の視線の先を追うと、確かに宗田がいた。
宗田っ!
もっと学校に残って、仕事をしててよぉ!
「帰りか?」
宗田が、切符を買う楡井とわたしの側に立つと、そう訊いてきた。
「帰り、デス」
デスにちょっと色気が入ってしまい、自分でも恥ずかしい。
宗田は頷くと、リュックの中から「元気の源だ」と言って、わたしと楡井に飴をくれた。
パイナップル味の飴。
楡井の動きが、一瞬止まる。
そしてその頭が、ゆーっくりとわたしに向くのがわかる。
もう、わたしの顔は赤いどころの騒ぎじゃない。
あぁ、ロケット花火のように、どこかに飛んで行ってしまいたい。
「――宗田先生。飴っていつも持ってるんですか?」
うわぁ、楡井、なんてことを聞くんだよ、おまえさんは。
すると宗田は、あはは、と笑うと少し困った顔をした。
「高校時代、いつも飴を持っている……友だちがいて」
宗田のことが見られずに、俯く。
「明るくて、すごく気持ちのいい奴で、男女問わずにみなから好かれていたんだ」
耳から火が出る。
「面倒見がよくて、お人よしで、その子がいつも鞄に飴を入れててね。みんな彼女としゃべりたいもんだから、それにかこつけて『飴くれ、飴くれ』って、たかってさ」
懐かしいなぁと、宗田か言う。
うん、懐かしいね、宗田。
「彼女がね、飴をくれるときに『元気の源だよ』って言ってさ。単なる飴なんだけど、陸上の試合でいいタイムがでないときなんかもさ、彼女のその一言で、すごく助けられたっていうか」
え、そうなの? と宗田を見る。
わたしも、少しは宗田の役に立っていたの?
「友だちなんて言ったけど、実は、宗田先生の彼女だった、とか?」
楡井がそんなことを聞く。
「……そんなことは、ガキには教えん」
宗田はそう言うと、ポケットから定期券を出した。
「あんまり寄り道するなよ」
そう言うと、宗田は一人改札を入っていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます