3・香奈→芦田②

 デジャヴ、とは、このことか。


 和可奈について図書室に行く途中の渡り廊下に、またもや芦田が立っていた

 渡り廊下の上のアッシー。

 今日は、楡井との勉強会はない。

 なのに、なんでここにいるのか。

 どうやって、笙子がここを通ると情報をキャッチしたのか。

 恐るべし、アッシー。


 アッシーはわたしに近づくと、一冊の小冊子を差しだしてきた。

 差しだしたものの、わたしが手を伸ばさないものだがら、アッシーは作戦を変え、それを和可奈へぐいっと押しつけた。

 迫力負けしたのか、和可奈は、思わずといった感じで、その冊子をキャッチした。


「えっ、なんで? わたし受け取っちゃった! なんか、キモチ悪い」

 巻き込まれた和可奈は、わけもわからぬといった具合だ。

 けれどアッシーは、どこ吹く風だ。

「よくよく考えたら、朝倉さんは事故にあって、忘れたのかもしれないって思ったんだ。だから、もう一度読んでもらおうと思って、特別に届けに来たんだよ」

 アッシーは、きりっとした表情でわたしを見た。

「朝倉さん、これを読んで、また僕にレターをくれるね?」


 レター?

 手紙?


 なんでいきなりそこだけ英語、なんて突っ込んでいる場合じゃない。

「あなたが読んでほしいのって、手紙じゃなくて、この冊子だったの?」

「そうだよ。朝倉さん、思い出してくれたの?」

「覚えてないけど。……もしかして、以前も、わたしはあなたから、これを受け取ったの?」

「高校1年の時にね。朝倉さんはぼくの感性にいたく感動して、手紙までくれたんだ」


 つまり、笙子の部屋で見つけた手紙の主は、彼ではない。

 それなら、もう、芦田には用はない。


「わたし、勉強がすごく忙しくて、それを読む暇はないのよ。悪いけど、返すわ」

「返品は受け付けないよ」

「だったら、捨てようかしら」

「捨てられたら、また届けるまでだ。いずれにしろ、紙は有限だ。失われていくもの。しかし、言葉は無限。それは生き続ける。そうだよねぇ、朝倉さん」

 アッシーは言いたいことを言うと、帰っていった。



 アッシーの言うことは、まぁ、そうだ。

 紙は有限だけど、言葉は無限。

 だけど、なぁんか、感じが悪い。


 前も思ったけど、この感じの悪さが、アッシーの個性でもあるんだろな。


 ――ってなことも、この子が自分よりも八つ下だと知るから、思えるのだ。


 もし同じ年だったら、わたしだって、アッシーをどう受け止めていいかわからないだろうし。


 だから、和可奈が、きもち悪いと思う気持ちも、わかる。

 要は、バランスの問題なんだろうな。

 もう少し、なんというか、世間との距離とか接し方とかを学べば、そんな悪くはないんじゃないかって思うし。


 ――なんて、しなくてもいい考察をしてしまった……。


「笙子、これどうする?」

「一応、見てみるわ」

 和可奈から冊子を受けとる。

 表紙には、森の絵をバックに熊や兎が踊っていた。


 ちょっと、和んだ。

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