3・香奈→芦田①

 翌朝、少し警戒しながら両親と顔を合わせた。

 けれど、二人ともいつも通りで、何もなかったかのように、わたしに接してきた。

 父は、わたしを「香奈」と呼ぶことに、決めたようだった。

 それは、昨晩のことについて、わたし達は考えを変える気はないんだよ、といった意思表示に思えた。




 学校に着くなり、和可奈をつかまえ、小論文云々の理由は言わずに、笙子が塾をやめていたことを伝えた。


「嘘でしょう? 笙子は一時的に休んでいるだけかと思った」

「少し前にやめたんだって。昨日、母に聞いたのよ」

「……なんか、おかしいな」

「なにか気になることがある?」

「うーん。確かめてから答えるよ」


 和可奈は思案顔で言った。


「あのさ、その、塾のことだけど。和可奈ちゃんに相談しなかったのかな?」

 笙子に関する手持ちの駒が少ない分、少しでもひっかかりのあるところは攻めて行く。

 すると、和可奈が瞬きをした。


「笙子から相談なんてないよ」

「そうなの? なんか、ほんと、わたし、友達がいのないやつで」


 笙子はよく言えば自立しているけれど、自分でなんでも解決しようとしているけれど。

 一人じゃ見つけられない答えだったあるはずなのだ。

 事実、和可奈はとても親身になってくれている。


「ごめんね、相談しなくて」

 思わず、そんな言葉が出た。

「やだ、笙子、なに言い出すのよ」

 いい友だちだな、と思う。

 和可奈は、事故に遭った笙子に対して、特別視せずに、そのままで接してくれる。

 わたしが気が付かないだけで、気を遣ってくれていることだって、想像する以上に多いだろうと思う。


 笙子、あなたにはいい友だちがいるね。

 あなたはもっと彼女に頼っていいんだよ。

 ひとりで頑張らなくてもいいんだよ。

 いつもと違う場所に身を置くことで、見えてくる景色もあるんだから。



 だから笙子。

 戻っておいでよ。

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