2・香奈→楡井⑭

 家族で夕飯を食べながら、わたしは笙子の塾について母に尋ねた。


「あぁ、塾ね。塾はね」母の視線は父へと移った。

「笙子はね、やめたのよ。前に通っていたところを」

「え、やめたの?」


 笙子が? 

 塾を?


「笙子ね、もっと小論文に力を入れた授業がある塾に移りたいって。それがね、本当に突然だったのよ」

「お母さん。それ、いつか覚えている?」

「……事故の前、かな」

「それで、笙子は、新しい塾を決めていたの?」

「ううん、まだよ。夏休み前までには、決めたいなぁって言っていたけど」


 その前に、事故がおきたのだ。

 あれっと思い、母に見せようと思っていた塾の講座のパンフレットを取りに行く。

 ぱらぱらとめくり、和可奈が折ってくれたページを開く。

 その中の一つに、あったのだ。

「小論文を書こう」という講座が。


「香奈、どうしたの?」

 母の声に促されるように見せる。

「実はね、学校で笙子と同じ塾に通っていた子からこの講座に誘われて」

「あら。ここでも、小論文をやっているのねぇ」


 そうなのだ。

 しかも、その講座の説明には、

 ――小論文の授業を体験してみませんか――

 違和感の原因はこれだった。


「この講座に申し込もうと思ったけど、笙子が塾をやめたのなら、無理だね」

 母にそう言いながら、ふと楡井の言葉を思い出した。

 ――これ、塾生じゃなくても参加できる講座だしね

 楡井は、そう言った。


 ――「そういえば楡井君も、わたしと同じ塾なんだよね」

 ――「まぁ」

 ――「……楡井君とわたしは、同じ校舎?」

 ――「うん。俺と朝倉は、同じだった」


 もやもやが頭の中に溜まって来た。

 前髪を上げる。

 考えろ。楡井との会話の意味を。

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