1・25才会社員→高校生③
放課後、わたしのもとに、隣のクラスの女子生徒がやってきた。彼女は須田
「朝倉さん、これから委員会だけど。どう、出られそう?」
「うん、大丈夫だよ」
「じゃあ、行こうか」
委員会のたびに、佐知はこうやって誘いに来てくれる。
笙子の周りには、穏やかで優しい友だちが多い。
それはひとえに、笙子がそうだからだろう。
わたしの友だちが、優しくないというわけではない。ただ、中学校でも、高等学校でも陸上競技を続けてきた関係か「男女関係なくみな友だち」といった、大雑把な雰囲気の子が多かった。
友人関係も、しっとりとかほっこりとは言い難く、ガサガサとかバサバサとか、音にするとそんな擬音の間柄だった。
高校のときの陸上部のモットーは「悩むなら走ろ!」だった。
わたしも例にもれず、
あぁ、思い出しても恥ずかしい。わたしの高校時代って、どうしてこんなにイタイのだろう。
だから余計に、笙子としての生活は、戸惑いも多いけれど新鮮だ。
そして、思うのだ。
姉妹とはいえ、わたしは笙子のことを何も知らなかったのだと。
わたしと笙子は、仲が悪かったわけではない。
良いか悪いかと聞かれれば、関係は良好だった。
喧嘩だってした覚えがない。
でも、それはわたしの言い分だ。
笙子がどう思っていたのかは、わからない。
家での話題の中心は、いつもわたしだった。
友だちのバカ話を披露したり、自分の失敗をおもしろおかしく話したりした。そんなとき笙子は、にこにこしながらわたしの話を聞いては、ころころと笑ってくれていた。
「お姉ちゃんって、おもしろいね」
笙子にそう言われるのが快感で、なお一層おもしろい話を仕入れては、家族に披露した。それが、わたしだった。
笙子は、わたしの話を聞くばかりだった。
わたしから彼女の生活や友人について尋ねたことは、おそらくない。
笙子は、そのことをどう思っていたのだろう。
自分の話ばかりする姉を、うっとおしく感じていなかっただろうか。
わたしは、ちっとも妹思いの姉ではなかったのだ。
委員会は、3階の空き教室で行われた。
図書委員の面々は、本好きが多いようだ。夏休みに貸し出した本が去年と比べて少なかったらしく、どうやったら学校の本をみんなが読んでくれるだろうかと、真剣に悩んでいた。
そんなの簡単だ。
漫画を置けばいい。
できたら、シリーズものを全巻、どんとお願いします。
古本屋で買えば、安く買えますよ。
もしくは、ネットで流行りの恋愛小説はどうでしょうか?
わたしの通勤のおともとして愛読していた、とびきり切ない物語がこのたび出版されましたが。
そんな案が喉まで出かかったけど、我慢した。あんまりな発言は、笙子の今後に支障をきたす。彼女たちが、みんなに読んでもらいたいのは、志賀直哉とか夏目漱石なのだそうだ。なので、わたしは笙子らしく、時折まつ毛をふせながら、とにかく頷いていた。
そんなわたしに、出席者の一人の男の子が、かなりぶしつけな視線を送ってきている。
そっと口元や鼻の下を、手で触る。
ご飯粒とか、鼻水とか。
笙子の顔についていてはいけないモノがないかを、さりげなくチェックした。
うん、大丈夫。たぶん。
女子として、問題視される事態は起きていないようだ。
と、いうことは。
この男の子は笙子に、興味があるのだろう。
あれ?
もしかして、笙子の彼?
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