第74話 いともたやすく行われるうらやまけしからん行為

 生徒会の人達も、それから先生も決して無能という訳ではない。

 相手が悪いだけなんだ。


 この状況を打破する為の方法は一つしかない。


「郡山先生! こっちです!」

「お、おい! なんだ、遠藤!?」


 郡山先生の腕を無理やり引っ張って場所を移動させる。


「な、なに?」


 ゴミのポイ捨てギャルが驚きの声を上げるが固まっている。

 突然の俺の行動に戸惑っているようだ。


 郡山先生をポイ捨てギャルから引き離すと、ライカさん達のところまで連れてくる。

 ここまできたら、後はライカさん達の移動もなるべく迅速に行わなければならない。


「ライカさん! 早乙女先輩! あっちの人達が先輩達を呼んでます!!」

「は?」

「え? でも?」

「お願いします! あっちの人達が先輩達の対応を待ってますから!!」


 俺の行動に疑問を感じながらも、切羽詰まった声にライカさん達は従ってくれる。


 郡山先生は盗撮カメラマンを、そしてライカさんと早乙女先輩はポイ捨てギャル達の相手をすることになった。


 これで準備は完了した。


「な、なんだよ……。よく分からないオッサン連れてきやがってよお!! 俺はただカメラで写真を撮ろうとしてただけだ!!」


 盗撮カメラマンの人は鼻息を荒くして反論してくる。

 郡山先生はさっききたばかりで状況をイマイチ理解できていない。

 だから郡山先生がやる気を出すような言葉を俺が捻りだす。


「この人、先輩達の写真を撮っています」

「な、なに!? そんなうらやま――最低な行為をしているのか!! おい!! カメラを渡せ!!」


 本音が飛び出しそうになったが、郡山先生はいつものように大声を出す。

 隣にいる俺が思わず耳を塞ぐぐらいの大声だ。


「そ、そんなこと……カメラで景色を撮るのは、俺が持ちうる権利――」

「犯罪だぞ!! さっさと渡せ!!」

「……うっ、お、横暴だ」


 盗撮カメラマンのさっきまでの勢いはどこかへ消えてしまった。

 郡山先生の声にたじろいでいるようだった。


 郡山先生は人の話を聴かない。

 自分の意見をパワハラで貫き通す力強さがある。


 だけど、女に弱い。

 生徒会の人達に言い負かされたことがあったけど、あの時みたいに今回もポイ捨てギャル達にはいつものように強く出られなかった。


 だから相手を交換してやれば、いつも通りのパワハラができる。

 そして、


「何? ゴミを引き取って欲しいだけなんだけど」


 ライカさんと早乙女先輩とポイ捨てギャル達との対峙に目を移す。


「申し訳ありませんが、持って帰ってもらっていいですか? 持って帰ってもらえるものは持って帰って欲しいんですよ」

「え? なんで? あなた達ゴミ回収している人なんでしょ? だったら持って帰ってくれんでしょ?」

「ゴミ回収業者ですら、分別して指定の場所に置かないと回収してくれません。缶なら中身を洗わないと放置されたままですよ? いい大人なんですからそのぐらい知っていますよね?」

「な、何よ!! 高校生の癖に生意気なのよ!!」

「高校生にゴミを押し付ける大人の方に言われる言葉じゃありませんね。生意気なのはどっちですか?」


 いつもは物腰が柔らかなライカさんだったけど、今回ばかりは淡々と正論を述べている。

 こういうのを見ると頼れる生徒会長なんだって実感がある。


「な、なんかいきなりどっちもうまくいってませんか?」


 ツユが驚きの声を上げているが、そこまでのことじゃない。


 普通のことだ。


 郡山先生やライカさんの事を知っているならば、あの二人の事態を解決する能力は尋常じゃない。

 それでも二人が解決できなかったのは単純にジャンケンで負けていたからだ。


「相性の問題だったんだよ」


 郡山先生もライカさんも自分の持ち味が出せていなかった。


「郡山先生は女子相手には強く出られない。そしてライカさんは論理的に話ができるけど、そもそも話が通じない相手は苦手だからな」


 盗撮カメラマンは独りよがりの理屈になっていない理屈を述べるタイプで、話を全然きかないタイプだった。

 だからこそもっと話を聴かないタイプである郡山先生をぶつけた。


 そしてポイ捨てギャル達は盗撮カメラマンに比べたらまだ話を聴くタイプだったからな。

 それに、郡山先生相手だと強く出られた。

 ゴリラだし、相手はおっさんだ。

 いくらでも馬鹿にできる。


 でも、ライカさんは綺麗で利発的で若い。

 だからこそポイ捨てギャル達のコンプレックスが刺激されて、口が重くなってしまっているのだろう。

 そして、


「いいか! 分かったか! 返事は!!」

「す、すいませんでした……。撮った写真は全部消します……」

「それが謝罪か!? もっと大きな声で謝れ!!」

「すいませんでした!! もう、もうしません!!」


 大人の盗撮カメラマンが、まるで学校の生徒のように謝って写真を消している。

 かなりシュールな光景だな。


「わ、わかった、分かったから! ゴミ捨てちゃ駄目なんでしょ!?」

「分かっていただければいいです。ありがとうございました」

「……くっ。も、もういいから行くよ!!」

「う、うん……」


 青ざめた表情で逃げるようにして去って行く。

 手には勿論自分が持っていたゴミだ。


「か、解決しましたね? あっさりと」

「まあ、あの二人のスペックを考えればこのぐらい普通なんだよ」


 学校の代表となる生徒会長と、それから曲りなりにも教育指導の先生だ。

 自分達の実力を発揮できるってなったらこのぐらいのトラブル解決できるのは当然ってことだ。

 流石は――


「流石はソラ君だね!」

「え?」


 ライカさんが手を叩いて満面の笑みになる。


「ソラ君が咄嗟の判断で選手交代してくれたから、なんとかなったね! 流石は私のソラ君だね!」

「ちょ、ちょちょ!」


 ライカさんが抱き着いて来る。

 喜びの表現なんだろうけど、もう少し時と場所を考えて欲しい。


「ね、姉さん? みんな観てますから」

「あっ、ごめんね、ソラ君」


 生徒会のメンバーが見ている中で自分の姉が恥を晒したと思ったのか、怒りの表情を浮かべるツユ。


「フン……」


 郡山先生は自分の功績を盗られたと勘違いしたのか、鼻を鳴らして不満気だった。

 それはまだいい。

 だけど、


「…………」


 早乙女先輩が終始無言で真顔のまま俺のことをジッと見つめていたのが、少しだけ怖かった。


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