第73話 ジャンケンは全てを解決する
盗撮カメラマンの相手は今、ライカさんと早乙女先輩がしている。
ポイ捨てギャル達の襲撃に対応できるのは、近くにいる俺がしないといけないんだろうな、これは……。
「はい。これ。ゴミ。いいでしょ? どうせ捨ててくれるんだから」
「そうそう。ゴミを持って帰らないといけないかも知れないと思ってたから助かるぅ~」
「ゴミって……」
ツユが不満そうに呟くのも無理ない。
ギャル達が俺達の前にポイ捨てしたのは、ビニール袋にパンパンに入ったビールの缶だった。
中身が微妙に入っているのか、袋の中がビールでちょっと浸されている。
せめて中身を水洗いしてからビニールの袋に入れて欲しいものだ。
「あの……別に俺達は清掃業者でもなんでもないんですよ」
「でも、さっきは受け取ったじゃん」
「そうそう。何で今回は駄目なの?」
「…………」
こういう輩には一度でも譲歩してしまうと、増長してしまう。
あの時は金輪際合わないつもりだったから、ゴミの回収をしたけど結果的には最悪だったんじゃないだろうか。
「お前ら何を……あっ……」
郡山先生がトイレから帰って来た。
父親が寝ている以上、今一番頼りになりそうな大人ではあるけど、一度このギャル達には屈している。
今更彼にできることなんて何もない。
「あっ、丁度良かったおっさん。ゴミだよ、ゴミ。捨てておいてくれる?」
「……あのですね。いい加減にしてもらっていいですか?」
「はあ? 何が?」
「そのぐらいのゴミ持って帰って下さいよ」
「そのぐらいって言うんだったら、アンタらが回収すればいいでしょ?」
「さっきは特別に回収したんです。こんなこと続けていたらキリがないでしょう」
流石に二回目となると郡山先生も毅然とした態度で対応してくれている。
このままいつものようにパワハラ全開でギャル達を黙らせてくれればいいのだが……。
「っていうかさ、このおっさん。顔ヤバくない? うわーよく見たらきも。こいつマジゴリラみたいな顔してなーい?」
「うわっ、本当だ。ゴリラだー。バナナとか好きそー」
……それは本当に同意しちゃうんだけど。
散々な言われようだ。
郡山先生が引かないと見るや、ただの悪口に切り替えて来た。
「そ、それは関係ないだろ!!」
心なしかいつもよりも歯切れが悪い。
この人、前に生徒会の人達に言い包められた時もだったけど、もしかして女子に弱いんだろうか。
男の俺相手だったらいくらでもパワハラしまくって、自分の意見を押し通すことができるんだろうけど、今はいつもの怖さが全くない。
「こいつ、マジウザイんですけど? いいですよー? SNSに上げますよー」
「そうそう。私達のフォロワー数合わせたら数万いくよね? 拡散したら私達の味方をみんなしてくれるからー」
「そうそう。ゴリラよりも私達人間の味方をしてくれるんじゃない?」
「ハハハ、うけるー」
「くっ……」
郡山先生は怒りのあまり唇をブルブル震えている。
そして一方で、盗撮カメラマンとライカさんと早乙女先輩もヒートアップしていた。
「いいからそのカメラを寄越せ」
「誰か警察を呼んで下さーい! 暴力を振るわれます!」
「本当に殴って前歯折ってやろうか?」
「止めて! 烈火!」
このままじゃ業を煮やした早乙女先輩が盗撮カメラマンに暴行を働くのも時間の問題だ。
他の生徒会メンバーはオロオロしている。
「ど、どうします? 兄さん」
「どうしますって……俺達だけじゃ収拾つかないだろ、これ」
盗撮カメラマン一人だけでもどうしようもなかったのだ。
俺一人が加勢にしたってどうしようもない。
誰か他に大人とかの助けを呼んでこの事態を収拾してもらう他ない。
「ジャンケンでこっちが正しいみたいになりませんかね?」
「……ジャンケンで言う事を聴いてくれるような相手じゃないだろ」
現実逃避的な突飛なツユの発言に俺は呆れてしまう。
ジャンケンで勝ったらここから退散してくれるように言うんだろうか。
まず、言う事は聴いてくれないだろうし、仮にジャンケンを承諾しても問題がある。
ジャンケンをして負けた時は更に要求が大きくなりそうだ。
ジャンケンを提案するメリットなんてどこにも……。
いや、アリ、か。
ジャンケン。
ジャンケン、か。
そうか。
ジャンケンさえすれば、この事態を収拾できるかもしれない。
「ジャンケンだ。ジャンケンで全てを解決する」
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