第53話 元ボーイスカウトの寄り添い
「それ、兄さんじゃ何もできないんじゃないですか?」
夕餉の時間。
今回のことを妹と姉に相談してみた。
だが、妹は最初からそう結論づけた。
「箸で人を刺すな」
「そうだよ、ツユちゃん。お行儀悪い」
「……ごめんなさい」
箸で遊んでいたツユは素直に頭を下げる。
ライカさんを怒らせると後が怖いからな。
「でもそれは兄さんじゃ何も解決できないっていうか、解決しなくていいことですよ。傍から聴いてたら、どう考えてもそのミゾレって言う部長が悪いんじゃないんですか? その人が妥協しないなら、部室潰れてもいいでしょ」
「それでも何とかしたいから、私達に相談したんでしょ。ちゃんと話を聞いてあげないと」
はい、どうぞ、とライカさんは、ツユにご飯を盛り付ける。
おかわりぐらい、自分で持ってくればいいのに。
ライカさんもツユを甘やかし過ぎだ。
「そうなんだよ。俺だって何とかしてやりたいんだよ」
「とりあえず、さっきの話を聴いている限りだと、その部長さんにアドバイスできなくて悩んでるんですよね?」
「ああ」
「じゃあ。自分の経験を生かしたアドバイスとかどうですか? 部活とか習い事の塾で潰れそうだった時、どうしましたか?」
「いやいや、そんな簡単に潰れそうな場面に出くわすことないから」
過去を振り返ってみる。
部活とか習い事よりもバイトの方を頑張っている気がする。
ただ、一番最初に思いついたのは、アレだ。
「習い事って、ボーイスカウトとかか?」
「え? 兄さんってボーイスカウトとかしてたんですか? ……初耳です!」
「私も。ソラくん、そんなことしてたの?」
思いの外、二人が興味を示したので居心地が悪い。
ボーイスカウトはやっていたが、特に語ることもないのだ。
「ま、まあすぐ辞めたから。他人に習い事してましたなんて言えないよ」
「……ボーイスカウトって何するんですか?」
うん。
ボーイスカウトをやっていたと言いたくない理由を思い出した。
こんな風に一々内容について訊かれるからだ。
説明するのが面倒だな。
「バザーとか募金活動とか。キャンプ地で釣りや火おこしなんかもしたな」
「募金? キャンプ? 似合わないですね」
「……俺だって似合わないと思ったよ」
ただ習い事っていうのは、親が決めるものだ。
親の教育方針に従って、ボーイスカウトをしていただけだ。
普通の習い事をしていたら、違う人生を歩めていたかも知れないな。
「私はもう少し部長さんとその新入生の人に寄り添ってみた方がいいんじゃないかって思うけど」
からかうようなことしか言わないツユとは違って、ライカさんはまともにアドバイスをくれる。
でも。
「……結構寄り添ってみたつもりなんだけど」
「もっとだよ、ソラくん」
今のライカさんは姉というよりかは、生徒会長としての顔をしていた。
「もっと話を聴いて理解してあげることが大切なんじゃないかな。きっと、彼女達のことをもっと知れたら、解決策が思いつく――かもしれないね」
「かも、なんだ」
「こればっかりは私にも分からない。でも、何も思いつかなかったら文芸同好会は廃部にするしかないから、覚悟だけはしておいてね」
クラスメイトのやりたいことを潰してしまう。
その瀬戸際だ。
なのに、ツユは俺が揚げた唐揚げを頬張りながら、美味しい、と言っていた。
ほんわかし過ぎて、それを見ていた俺の心は少しだけ和んだ。
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