第52話 同級生と痴話喧嘩
放課後。
生徒会には今日手伝いに行くのは遅れると連絡済みだ。
なので、用事を済ませようと思う。
「ミゾレ、ちょっといいか?」
「……うん」
こっちが何について話したいのかおおよそ把握しているようで、簡単に着いてきた。
階段近くの廊下の隅。
ここなら誰も寄り付かない。
話し合いにはピッタリだ。
「このままじゃ、同好会は潰れるぞ」
「分かってる。私だって先輩達が守ってきた文芸同好会を潰したくない」
「だったらやる事は一つ。あの子を認める事だ」
「…………」
ミゾレはダンマリを決め込む。
このままじゃ埒が開かない。
「そんなに文学作品じゃないとダメなのか?」
「そうじゃない。……でも、ナナクサさんの作品はあまりにも低次元」
「それでも小説は小説だろ?」
「……でも、あんなに欲望が丸出しの作品は下品」
「げ、下品って、そんなにか?」
「うん。何の努力もなしにお金持ちになって、生まれ変わったら何でも上手くいような作品は小説じゃなくて、中学2年生が書いた妄想丸出し黒歴史ノートだよ」
「……酷い言われようだな」
ライノベルの底まで詳しくないので、言い返すこともできない。
ここにナナクサさんがいたら、きっと反論できていたかも知れない。
「でも、小説って大体そういうものじゃないのか?」
「全然違う!! 小説はもっと感動するものだから!!」
そ、そうなのか。
小説とライトノベルってそこまで違うものなのかな。
「小説さえあればその場でブラジルだって、宇宙に行ける。物語の中に入ればどんなところにだっていけるし、先人達の知恵を授かることができる。でも、ラノベは違う」
「……どこが?」
「ラノベからは何も得ることはできない。ただの時間の無駄。だから、私はラノベが嫌いなの」
「う、うーん」
「小説は私の人生の師匠で、生きがい。だからこそ、私は小説もどきが許せない」
「そうか……」
ナナクサさんも、ミゾレも、小説が好きってところは同じだ。
それに、言っていることも似ている気がする。
お互いに根っこの部分は違うのに、こだわりが強いせいで上手くいっていない。
そして、俺は小説も、ライトノベルも詳しくないからお互いの妥協点を見つけることもできない。
これは、お手上げかもしれない。
「ねえ、あれ、なに?」
不意に、女子生徒二人が通りかかる。
「痴話喧嘩とかじゃない?」
「あれって、噂の……」
「そうそう。あの学園のアイドルの人と別れた人でしょー。それでまた新しい女とか、相当遊びなれてない?」
ミゾレの声が大きかったせいで、注目を集めてしまったらしい。
それにしても、有名人のアイの影響もあって、俺のことも知られているらしいな。
別れた後だというのに、未だに他人に好奇の目で見られているのは精神的にキツイ。
「と、とりあえず、そういうことだから……」
「お、おい! ミゾレ!!」
注目されていないミゾレは、逃げるようにして背を向けてしまう。
まだ話は途中だというのに。
「……はあ」
どうやら今回の件。
俺一人の考えじゃどうにもならないらしい。
誰かの知恵を借りたいところだ。
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