第49話 三つ編み眼鏡の文芸部員が噛む
文芸部室。
本棚が並んでいて、その中には本がたくさん並んでいる。
難しそうな本や、小説の書き方についての解説本もあった。
中央に置かれている長机の上には、執筆や発行で使うであろうパソコンとプリンターが置かれている。
少し埃っぽい部室だが、整理整頓はできているように見える。
そんな文芸室に、何故か俺のクラスメイトがいた。
「なんでミゾレがこんな所に?」
「……そっちこそ、なんで生徒会の人と一緒に?」
ミゾレって文芸部員だったのか。
ということは、つまり、今回ミゾレがここを占拠している奴ってことか?
無理やりここからどかすのが俺の役目であり、ミゾレは俺に取って目障りな敵ってことになる。
なんとも厄介なことになってきた。
「知り合いか?」
「クラスメイトです」
「そうか。だったら退去勧告はやりづれぇだろうな。……まっ、頑張れよ」
「そこは早乙女先輩がやってくれるわけじゃないんですね……」
ちゃんと心配りできるのに、気遣いはしないタイプの人だ、この人。
早乙女先輩が話を進めてくれないのなら、俺がどうにかするしかない。
「もしかして、文芸同好会の部長なのか? ミゾレが」
「そう、だけど。もしかして遠藤君生徒会に入ったの?」
「まあ、そんなところかな」
ただの手伝いってことは黙っておこう。
話がややこしくなる。
「とりあえず、こっちからの要求は一つ。活動していないなら部室を明け渡してくれ」
俺じゃ話が進まないとみると、早乙女先輩が横入りしてくる。
「……それはできない、です」
「部員だっていないんだろ?」
「それは……」
「他に部活動を作りたいって言っている人もいる。そっちはこの同好会よりも勿論人数が多い。ミゾレ一人にこの部室を貸し与えられないんだよ」
「そうそう。人数揃えてからまた申請すりゃいい」
心苦しいけど、決まりは決まりだ。
ミゾレが知り合いだからといって手心を加える訳にもいかない。
他にも部室を欲している人はいるのだ。
その人たちの為にも、部室を明け渡して欲しい。
「部員なら、もう一人います……」
「ああ?」
「そ、それに活動は、します……。でも、一人だけだとどうしても毎月文芸誌を発行なんて、できないです……。一応、三か月に一回は文芸誌を欠かさず出しています……」
「だけどなあ……。職員室前に配布している文芸誌をチェックしたけど、半年前から変わってないみたいだけど?」
「そ、それは……。か、変えるのを忘れてて……」
ミゾレが分かりやすく狼狽している。
ミゾレが普段、俺以外の人と話している姿を見ていない。
相手は見た目や話し方が怖い早乙女先輩だ。
普通に話すのが難しいだろうに、ミゾレもよく頑張って話していると思う。
「でも、食堂前に配布している文芸誌はちゃんと最新号に変えてます!」
「へー」
「……っ!」
どうでもよさそうな早乙女先輩の態度に、ミゾレが俯いてしまう。
「か、活動はしているみたいだし、職員室前の文芸誌を差し替えていないのは、部員が少なくて手が足りなかったからかなー?」
「…………」
「…………」
下手くそな擁護をしてしまったせいで、二人が黙り込んでしまった。
……もう帰りたい。
なんで、俺は今ここにいるんだろう。
「ほ、他に部員が一人いるなら、部室は明け渡さなくてもいいんじゃないですか?」
「……ああ。それならいい。うちの学校で同好会が維持できるのは、最低2人はいる場合だけだからな」
「良かったな、ミゾレ」
「う、うーん」
お互いの妥協点を見つけて万事解決となった。
そのはずなのに、ミゾレは浮かない顔をしている。
何故、と思っていると、
「いたっ!!」
後ろから勢いよく扉を開けられたせいで、頭を強打する。
頭を押さえながら振り向くと、
「す、すみましぇん! まさかドアの前に人がいるなんて思わなくて!」
言葉を噛んでしまった女子生徒がペコペコと頭を下げるたびに、三つ編みしている髪が揺れる。
この学校の生徒にしては珍しく、先生がいないと場所でもスカートをちゃんと膝下まで下げている。
真面目そうだけど鈍くさそうな彼女がズレてしまった眼鏡を上に上げていると、
「はあ……」
ミゾレが疲れたような眼をしている。
深い溜息から察するに、どうやら彼女のことで困っていることがありそうだ。
「あれ? もしかして新入部員の方ですか? う、嬉しいです!! 私にも後輩ができたんですね!」
ミゾレの視線に気がついていない彼女は、そんなズレた挨拶を俺達敵である生徒会にしてくれた。
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