第47話 生徒会長の撮影会

 俺達は生徒会の仕事のマニュアル作りに励むことになった。

 だが、その為には今やっている仕事の作業を行いながらの同時作業になる。

 どうしても、その分、時間がかかってしまう。

 だが、俺達は文句を言わずに、手分けしてマニュアルを作った。


 作ったマニュアルを、生徒会室の備品であるパソコンに、全て叩き込んだ。

 フォルダ別に分類し終えると、


「大体、これでできたかな?」


 ライカさんのお墨付きが出た。


「お、お疲れさまでしたー!!」


 そう言って俺が机に突っ伏すと、みんなも安堵の声を上げる。

 後はこの資料をみんなのパソコンに送信すれば終わりだ。


「こ、これで、何か分からないことがあればマニュアルを見れば一発で分かるようになったってことか?」

「そういうことになりますね……」


 疲労の色が見える早乙女先輩の独り言みたいな質問に、俺が答える。

 書記や会計の人は椅子に体重を預けていたり、机にうつ伏せになっていたりするのに、早乙女先輩は顔色が悪いだけで、しっかり背筋を伸ばして座っているのが凄い。


 この数日間、放課後残って生徒会のマニュアル作りをしていた。

 そのせいでみんな疲労困憊だ。


「でも、よく生徒会の仕事にマニュアルが必要だって分かったな」


 早乙女先輩に褒められるけど、俺は自分が生徒会のメンバーじゃなかったから気が付けたんだと思う。


「それは、多分、俺が部外者で俯瞰して観れたからだと思います」


 生徒会の仕事ぶりを観察していて、何故ライカさんの負担がデカいか。

 その一つの要因は、ライカさんにみんなが質問するからだ。

 その度に、ライカさんの手は止まっていた。

 仕事が遅くなるから、ライカさんが一人で仕事をしてしまう。


 だから、分からないことは自分で調べるマニュアルが必要だと思った。

 ライカさんに訊くのが一番早いけど、それだと仕事を覚えない。

 自分の頭で考え、自分で動くことによって仕事を覚える。

 そうして、人は一人前になるんだと思う。

 それが普通だ。


 バイトでもそうだし、生徒会の仕事も同じだ。


 でも、ライカさんは何でもできる人だ。

 だからみんな頼りきりになってしまって、仕事をライカさんに投げてしまっていた。

 そして、成長できなかったのだ。

 これで、みんな仕事の正確さや速度は上がるはずだ。


「でも、わざわざ動画は取らなくても良かったんじゃない?」

「いいじゃん。よく写ってたぜ、ライカ」


 パソコンに文章でマニュアルを保存した。

 だが、それだけだとどうしても分かりづらい部分がある。

 だから分かりやすく説明する為に動画を撮った。


 出演は主にライカさんだ。

 一番仕事を分かっているのだから当然だが、彼女は映像が残るということでかなり渋っていた。

 動画を撮る段階になったら、結構ノリノリで撮影に臨んでくれたけど、今頃になって羞恥心がぶり返したのだろうか。


「動画を撮るのに慣れてみたみたいだな、ライカの弟。もしかしてSNSを上げる為の動画で慣れてるのか?」

「い、いいえ! たまたまです」


 最近、ツユの配信を手伝うために、カメラの角度とか撮影環境について敏感になっていたせいもあるかも知れない。


 動画の撮り方が上手いということで、俺はライカさんのカメラマン係になったのだ。


 最近覚えたことで褒められるのは嬉しいな。


「また分からない箇所が出たら、マニュアルに追加すればいいよね」

「その都度、みんなに情報共有した方がいいよな。グループに流すか、それか連絡ノートでも作るか?」

「連絡ノート?」

「グループに流したら、またライカが家で仕事するかも知れないんだろ。オンオフきっちりつける為にも、生徒会に連絡ノートを作るのはどうだ?」

「もう。烈火は心配し過ぎなんだから」


 俺が何も言わずとも、どんどん作業効率化の案を増やしていく。


 マニュアルを作る時も、どんなフォーマットでマニュアルを作るか、どんな順番でマニュアルを記載するか、等々。


 この二人は積極的に案を出していて、俺はあまり口が出せなかった。


「どうしたの? ソラくん」

「え? いや」


 少しの間、呆然としていたようだ。

 ライカさんが心配そうに覗き込む。


「ただ、あんまり役に立たなかったなと思って。マニュアルを作る時は指示待ちしていただけだったし」

「そんなことは――」

「生意気だな。――弟」


 早乙女先輩が後ろから抱き着いてきて、肩に腕を乗せてくる。


「最初にマニュアルを作るって案を出しただけで、お前は有能だ。1から100を作るよりも、0から1を作り出す方が難しいことだってある。それで満足しないってことは、お前、実はかなりの自信家か?」

「そ、そんなことは……」


 そんな、俺がナルシストみたいな言い方しなくても……。


 ただ、もう少し上手く手伝いたかっただけだ。


「私は、お前には本格的に生徒会に入ってもらいたいぐらいだ」

「そうね。ソラくんだったら私も生徒会に入って欲しいな」


 他の生徒会メンバーも、うんうん、と頷いている。


 背筋がゾッとした。


 もしかしたら、このまま生徒会の仕事を永久に手伝わされそうだ。

 いや、手伝うだけならいい。

 生徒会なんて重い責任を背負って、生徒の代表になんてなりたくない。

 俺には分不相応だ。


「い、いえ。仕事が減ったみたいで、これで」


 早乙女先輩によって、肩に手を置かれて引き止められる。


「何言ってんだ? ここ数日、マニュアル作りで他の仕事が滞ってるんだ。その為に手伝いぐらいしてもらわないとな。言い出しっぺの法則って知ってるか?」


 提案した人が最初から最後まで責任を持てってことか。

 確かに、マニュアル作りのせいで、仕事が溜まっている。

 それに、マニュアルを使いこなすのだって時間が必要だろう。


 それもこれも、俺がマニュアルを作るのを提案したせいだ。


「――はあ」


 俺は覚悟を決めて生徒会の仕事を手伝うことになった。


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