第46話 生徒会副会長が身体をくっつけてくる
郡山先生は、
――こ、こんな奴が生徒会なんかに入れるか!
と捨て台詞を放って生徒会室から逃げるようにして去った。
あれだけ言い包めたのだ。
もう、わざわざ生徒会室に乗り込むことはないだろう。
もうこれに懲りて、俺をなるべく目の敵にしないで欲しいな。
それにしても気になったのは、
「ライカさん、生徒会って」
「大丈夫。ソラくんは本気にしないでいいからね」
ライカさんが俺を生徒会に入れると言ったこと。
それは、流石に噓も方便ってやつだったのか。
郡山先生を追い払うための嘘だったらしい。
良かった。
俺が生徒会に入っても何の役に立つこともなかっただろうし。
「弟!!」
早乙女先輩が、首に腕を巻いてきてチョークスリーパーみたいになる。
接し方がちょっと面倒臭い体育会系の男の人みたいだ、この人。
「少しはスッキリしたな。あいつ、尻尾を巻いて逃げやがった」
「……烈火」
「へいへい。生徒会長様だって、少しはそう思った癖に」
「それは、そうかも知れないけど……」
恥ずかしそうに言うライカさんに、生徒会のみんなが笑いで返す。
やっと空気が弛緩した。
郡山先生は敵を作りやすい人だからな。
みんなで追い払ってやって清々したのかも知れない。
「ライカの弟。お前、やるな! 生意気に、この私に指示を出しやがって!」
「す、すいません」
スマホの件か。
でも、あれは指示じゃなくて、お願いだったんだけど。
でも、口とは裏腹に早乙女先輩はまるで気にしていないようだった。
緊急事態だったので、文面に敬語がなかったかも知れない。
先輩に対して失礼なことをしたけど、器が大きい人で助かった。
でも、あれは俺だけじゃなくて、
「生徒会の皆さんのおかげで助かりました。ありがとうございます」
「俺達は何もしてないけど、まあ、良かったよ」
「そうね」
書記と会計の人達が、うんうん、と頷き合っている。
生徒会の全員がいたから、郡山先生を退治することができたのだ。
書記や会計の人が空気を作ってくれなかったら、郡山先生の気勢を制すことはできなかっただろう。
ライカさんや、早乙女先輩の助け舟は勿論だけど、実は郡山先生への疑問コソコソ話が後押しになった気がする。
「ちょ、ちょっと、烈火。くっつき過ぎじゃない?」
「……いや、いつかのお前たちの方がよっぽどくっついていたって」
あれか。
お弁当をあーんさせて居た時か。
思い返せば、確かにあれは傍目から見たら異常に映っただろうな。
「お前らデキてるって言われても私は驚かない自信があるぞ」
「わ、私はともかく、ソラくんが困るでしょ!」
ライカさんがからかわれて、また生徒会の面々で一笑いが起きる。
この人達は本当に仲がいいのが伝わって来るな。
つい先ほど、この人達のお陰で助られたことだし、どうにかして恩返しがしたい所だ。
「さて、と。邪魔者もいなくなったし、さっさと仕事終わらせるか」
軽い口調で早乙女先輩が言うけど、ズシン、と重苦しい空気が流れる。
せっかく忘れかけていたのに、まだ仕事が残っていた。
やはり、どうにかして仕事を終わらせたい。
でも、
「そういえば、昼休みに家庭科室を使いたいので許可が欲しいって申請があったんですけど、これってどうすればいいですか?」
「曜日を確認して、家庭科の先生に使っていいかどうか訊いてみて」
「この新しい部活動申請なんですけど、どうすればいいですか?」
「先ずは内容をチェックして。使える部室のチェックと、それから申請する為の必要人数のチェック。それ以外にも必要事項があるからチェックして問題がなかった場合は、顧問の先生をチェックしてみて、その先生と話し合ってみて」
「え、えーと?」
「うん。ごめん。私が後でチェックしておくね」
「すいません! 生徒会長。お願いします!」
と、まあ、こんな風にライカさんが明らかに忙しい。
他の人の何倍も働いている。
他の生徒会のメンバーは仕事ができない訳ではない。
優秀だ。
それは手の動かし方や頭の回転の速さからも分かる。
でも、それでもライカさんには敵わない。
ついていけているのは、副会長の早乙女先輩だけだ。
そんな早乙女先輩であっても、ライカさんには一歩遅れている。
俺はただ遅いだけで、何も出来ていない。
初めて生徒会の仕事をしたので分からないこともある。
分からない事があるけど、みんな忙しそうで聞きづらい。
俺のせいで、みんなの仕事を増やすのは心苦しい。
バイトをしていても似たようなことがあったな。
ああ。
バイトをしている時に、シズクちゃんに相談したけど結局解決しなかったな。
この増え続ける仕事をどうにかして処理したい。
でも、どうすればいい?
バイトをしている時は――ん?
そうか。
人に教えてもらうだけじゃ時間が足りない。
そんなの当たり前だ。
時間は有限で、全てを教えてもらうのにも限界がある。
それでもどうにかして働く人間の作業速度を底上げする為に必要な物。
それが、ここにはない。
バイト先にあって、ここにはないもの。
考えてみれば、当たり前のことなのに、どうして俺は気が付かなかったんだろう。
やっぱり、俺はこの人達のように頭の回転は速くないようだ。
「生徒会の仕事を減らす方法を試したいんですけど」
俺が手を挙げると、みんなが作業を止める。
ゴクリ、と喉が鳴る。
生徒会の手伝いをしているだけの奴が、何を言っているんだ?
そんなことを思われていてもおかしくない。
だけど、もう引っ込みなんてつかない。
「でも、仕事を減らすために、仕事を今今以上に増やすことになります」
「言ってみな。……お前が考えたことだったら試し見る価値はありそうだ」
提案をする踏ん切りがつかなかった俺に、早乙女先輩が背中を押してくれる。
俺のせいで、またライカさんの仕事を増やすことになるだろう。
でも、これで作業効率は上がるはずだ。
さっきの生徒会のやり取りを見て、それはハッキリした。
「生徒会の仕事に『マニュアル』を作るのはどうでしょうか?」
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