第45話 女子生徒へのセクハラ

 生徒会の手伝いをしながら、仕事を地道に覚えていく。

 だが、やはり効率化されていない気がする。

 むしろ、ライカさんの手間が増えていて、頭を抱えていた。


 なのに、


「な、なんだ!?」


 生徒会の扉をバァンと無駄に力強く開けたそいつが、更なる厄介事を持ってきたようだった。


「遠藤おおおお。貴様、こんな所で何をしている!! ここは生徒会以外立ち入り禁止だぞ!!」


 郡山先生は立派な青筋を立てている。


「先生、これは……」

「生徒会長。お前とて、これは庇いきれないぞ。これは問題だ! 大問題だあああ!!」


 子どもが玩具を与えてもらったみたいに、郡山先生は喜んでいる。


 指導室に呼び出しか、それか、反省文を書かせるか。


 ともかく、俺に対して異常な執着を持っているこの先生が、俺に何をしてくるのか想像できない。


「お前はやはり問題児だったなあ!! ようやく尻尾を出したわけだ!! この問題児がああああ!!」

「…………」


 ライカさんも、他の生徒会メンバーも困っている。

 最早、郡山先生は錯乱状態に陥って、例え諭してもゴリラみたいにまともな返答は期待できない。


 そして、俺が口出ししたら、また郡山先生は難癖をつけてくるだろう。


『なんて生意気な口を!! お前にはやはり教育的指導が必要なようだな!!』


 とか言われて、拳骨をされてもおかしくない。

 だからここは、相手が郡山先生であっても、この場で最も言い返すことができるだけの胆力を持つ早乙女先輩に託そうと思う。


「…………!」


 郡山先生に観られないように、机の下にスマホを忍ばせた。

 そしてスマホの画面には早乙女先輩へのお願いの文章を書いた。

 しっかりと眼を通した。

 これで、俺の文章の通りに喋ってくれるかどうかは賭けだ。


 どう出るか。

 早乙女先輩は口を開く。


「生徒会以外立ち入り禁止っていうなら、先生もここは立ち入り禁止ですよね?」


 俺のお願い通り、早乙女先輩は文章を読み上げてくれた。

 やっぱり、早乙女先輩も郡山先生のいつもの横暴な態度に対して腹に据えかねていたみたいだ。


「そ、それは……せ、先生は関係ない! 先生はどこにでも行っていいんだ!!」


 ここ最近、生徒会メンバーと行動を共にすることになって分かったことがある。

 早乙女先輩は生徒どころか、先生にも影響力が及ぶほどにしっかりと芯を持っている人だ。


 だからこそ、郡山先生であっても狼狽している。


 良かった。

 この人がいなかったら、完全に俺は詰んでいた。


「そもそも郡山先生なんでここにいるんですか? 郡山先生って生徒会の顧問でもないですよね」

「わ、私は生徒の安全を守るために学校を見回っているんだ!!」


 ライカさんの援護射撃に、書記や会計担当の人がヒソヒソ話をする。


「そういえば、おかしいよね? なんで先生いきなりここに?」

「生徒会室に入ったことないのに、なんで遠藤君がここにいるって分かったの? たまたま、それとも――」

「う、うるさい、たまたまだ! たまたま!!」


 郡山先生は割って入るが、もしかしたら図星を突きそうだったのかも知れない。

 この先生が生徒会での動向を気にしていた理由、それは――


「見回っていたんじゃなくて、俺を監視していたんじゃないですか?」


 親に車に乗せてもらっていた時に、何故か道が狭い裏路地みたいなところに、パトカーが止まっている時があった。


 その理由を親に訊いたら、


 ――ここは信号もないし、車の通りもない。だから、一時停止を守らない人が多くて、警察が張っているんじゃないか?


 と、言っていた。

 その時はいまいち父親の言っていることの意味が分からなかった。

 でも、今なら少し分かるかも知れない。


「生徒の粗探しをして、問題児を見つければ指導教員としての先生の評価が上がるんですか?」


 それとも、女子生徒の肢体をじっくり眺めていたのか。


 郡山先生は女子にだけ甘いし、露骨に視線が下がっている事が多い。

 最近、この学校に異動してきたのだって、生徒にセクハラをしたから、とかいう噂もある。


「――くっ。貴様、教師の俺になんてことを!! お前だ!! お前が全部悪いんだあああ!!」


 郡山先生が俺に掴みかかろうとすると、早乙女先輩が俺を庇うようにして前に出る。

 それだけじゃなく、


「お、お前ら……」


 他の生徒会のメンバーが冷ややかな視線を郡山先生に向ける。


「そいつは部外者だろうが! 庇っても意味なんてないんだ!!」

「いいえ。ソラくんは部外者なんかじゃないです。将来の為に、彼には生徒会の仕事を手伝ってもらいたかったんです」


 ライカさんは、全く聞き覚えのないことをつらつらと語り出す。


「今年、ソラくんは生徒会に入りますから」


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