第41話 姉のおねだり
昼休み。
俺は生徒会室まで来ていた。
「……緊張するなあ」
なにせここには、三年生がいてもおかしくない。
見知らぬ人がいるだけでも緊張するのに、年上となると余計に身体が動かない。
何故、俺がここまで来たかというと。
――兄さん、これ。
――あっ。
――姉さん、お弁当忘れてる。
早朝に、ライカさんが珍しく弁当を台所に置いたままにしてあったのが原因だった。
ツユにライカさんのお弁当をお昼に届けるように言われたので、ここまで持ってきたのだ。
体育館でそれを伝えれば良かったのだが、完全に言いそびれてしまった。
それで、三年の教室に行ったのだが、
――ああ、遠藤さんなら生徒会室にいると思うよ。
と、言われたので、ここまで来たのだった。
さっさとお弁当を渡して、自分の教室に帰ろう。
俺は恐る恐る生徒会室をノックする。
「……はい」
「失礼します」
俺が部屋に入ると、一番奥の高そうな椅子に、ライカさんが座っていた。
他には誰もいなさそうでホッとする。
「あれ? ソラくん? どうしたの?」
「お弁当忘れてから」
「あっ、本当!? ごめん!! ありがとう!!」
俺はバックから弁当を取り出す。
可愛らしい風呂敷だし、サイズは小さい。
俺の弁当の二分の一ぐらいだろうか。
こんなので本当にお腹一杯になるのか疑問だ。
「良かった。お昼御飯抜きにしようと思ってたところだから」
「お昼御飯抜き? お金持ってきてないの?」
「ううん。あるけど、買いに行く方が手間だと思って」
「手間って……」
購買部に行くぐらいすぐだろうに。
そんなに仕事が溜まっているんだろうか。
いくら食べる量が少ないからといって、お昼ご飯を抜くのはやり過ぎだろう。
倒れてしまわないか心配になる。
「ありがとう、そこに置いておいて」
「う、うん」
カタカタと、パソコンをいじったままライカさんは話す。
長机の上には色んな資料の山が鎮座している。
これを全部一人で処理をしているんだろうか。
「他の人は?」
「ああ、私だけ。だから気兼ねなく椅子に座ってもいいよ」
「いや、それはいいけど……」
そこまで長居をするつもりはないけど、どうも心配になってくる。
ツユの心配はする癖に、自分のことは省みないからな、この人は。
「一人で毎日生徒会の仕事してるの?」
「……うーん。毎日じゃないけど、お昼は生徒会室にいることが多いかな。何か用事がある時はここに来ていいよ。昼休みだったら滅多にここに人が来ることなんてないから」
滅多にってことは、やっぱり一人でずっと仕事をしているってことだ。
一人で抱え込み過ぎなんじゃないのだろうか。
「仕事し過ぎじゃないかな? ちょっと休んだ方がいいって」
「……うん。キリがいい所まで行ったら」
「駄目だって。ちゃんとご飯食べないと、倒れちゃうって」
さっきから俺のことをほとんど見ない。
喋りながらパソコンをブラインドタッチできるのは凄いことだが、心配になる。
「うーん。偉い! やっぱり私の最愛の弟であるソラくんは偉いわねー。お姉ちゃんにそこまで気を遣えるなんて!」
褒め言葉が空々しく感じる。
気を遣って欲しくないようにも聴こえるのだ。
「…………」
じっと黙りこくっている俺を不審に思ったのか、ようやくライカさんは手を止める。
立ち上がってこっちに近づいて来ると、
「……そうだね。ソラくんが私にご飯を食べさせてくれるなら、ちゃんと私も食べようかな」
自分のお弁当箱に手を添える。
「え?」
「私にあーんして」
甘ったるい声を出して、ライカさんはおねだりをしてきた。
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