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第39話 ファーストキスの味
俺は女の子を押し倒していた。
短くカットされた髪の毛は激しく乱れ、肌は日焼けをしていて健康的な肢体をしている。
膨らみかけの胸はシャツに透けていて、下着をつけていないことが視認できる。
意識が曖昧だった彼女の腕を、俺は無理やり掴んで睥睨していた。
「……はあ、はあ……」
「……はあ、はあ……」
お互いにびしょ濡れだ。
服を脱ぐ余裕なんてなくて、ポタポタと彼女に水滴が落ちるが互いにそんな些事気にしていない。
息を乱しているのは、激しい運動をしたからだけじゃない。
キスをしたからだ。
何度も、何度も。
啄むように数えきれないほどのキスを俺からした。
胸も触った。
周りに誰もいない事を確認した上で、服の上から押しつけるようにして何度も手で触れながらキスをした。
どのくらいの時間キスをしていたんだろう。
数分、いや数十分は確実にしていた。
俺はようやく息を整え終えると小さく呟く。
「ごめん……」
押し倒している彼女は泣いていた。
きっと、悲しいのだろう。
大切なものを失ったばかりだったから。
「友達を助けられなかった」
俺のせいで、彼女の友達はもう二度と会えない。
俺がもっと早く手を伸ばしていれば、彼女の友達を救えたかもしれない。
それなのに、彼女はフルフルと無言で首を振って慰めてくれた。
それどころか、
「ありがとう」
お礼を言われてしまった。
その優しさが逆に俺の心を罪悪感でひしゃげさせる。
彼女はそう言うと、また唇を歪めて、産声を上げる子のように泣き出した。
友達ともう会えないことを嘆いたのか、それとも、俺に押し倒されたのが怖くて泣いたのか。
俺が分かったのは、彼女を貪った唇の味だ。
彼女の唇は冷たくて、それにしょっぱかった。
ファーストキスは涙の味がした気がした。
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