第25話 妹の秘密を知る

 夜中急に目が覚めてしまった。


 何故か分からず家の廊下に出ると、


「……おいおい」


 ツユの部屋の隙間から光とゲームの音が漏れている。


 今、何時だ?

 スマホを持ってくるのを忘れたので今何時かは分からないが、深夜二時、三時くらいか?


 物音がしたから目が覚めてしまったのか。


「うーん」


 俺も深夜までゲームをするからツユのことはとやかく言えない。


 だが、少し音量が大き過ぎる。

 一言ぐらい注意しておいた方がいいか。


「おい」


 ライカさんを起こす訳にはいかないから、小さいノックと、小さい掛け声でドア越しに呼びかける。


 だが、返答がない。


「入るぞ……」


 一分は経っただろうか。

 全く返答がない。


 扉を開ける。

 カチカチと、コントローラーを押す音が聴こえる。


「流石に寝た方がいいぞ、ツ――」


 言葉が途中で止まったのは、異常な空気を察知出来たからに違いない。


 まず、見たこともない大きいモニターが二つある。

 そして、その画面にはコメント欄と、真ん中にはキャラクターがいる。


 それを観ながら、ツユがずっとゲームをしている。

 それだけならば、ただ配信者の動画を観ながらゲームをしているだけだと分かるが、横の方に『表情』『移動』などの見慣れないコマンドがある。


 配信をしているキャラクターの表情を自在に変えられるようだ。

 そのボタンが、何故かツユ側についている。

 これは?


「うわあああっ! な、なんで!?」


 ツユが椅子から転げ落ちる。

 そして、コメント欄が荒れ始める。


『男? 嘘だろ……。男の声だろ、これ?』

『終わった。もうここには来ません。探さないで下さい』

『放送事故で草』


 間違いない。

 今の状況とコメント欄がリンクしている。


 俺の声が、今、動画で世界中に流されている真っ最中のようだ。


「い、今のは、兄さん、兄さんだから。ごめん。今日の放送はこれまで」


 ツユが生放送を切って、配信を閉じるその瞬間、

『良かった。ただの家族か』

『今の言葉を信じるとかピュア過ぎwww』

『ガチ恋勢のお前ら涙目だろ。子ども部屋から卒業しろ、おっさん共』


 ブワッと洪水のようにコメントが流れたのが見えた。


 画面を切って、配信が終わったことを一通り確認すると、


「最悪……」


 ツユが膝から崩れ落ちる。


 どうやら取り返しのつかないことをしてしまったようだ。


「ご、ごめん……」

「仕方ないですよ。もう、終わった事ですから。気にしてません」


 とかいいつも、滅茶苦茶気にしている。


 どうやって慰めようかと思っていると、バッとツユは自分の力で起き上がる。


「私、配信しているんです」

「そう、みたいだな」


 それは見ればわかる。


 ずっと秘密にしてきたんだろう。

 両親やライカさんにも聴いたことがない。


 配信者をやっていたんだろう。

 それも、昨日、今日配信を始めた訳ではなさそうだった。


 動画を観に来ている人数がどれだけは分からないが、あのコメントの多さは一人、二人ではなさそうだった。

 少なくとも数十、数百はいっていたように見えた。

 つまり、ずっと、顔を隠して配信をしていたんだろう。


「私、VTuberやっているんです」


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