第16話 妹の身体を揉む

 自宅のソファでツユがくつろいでいる。


 俺はツユの為に必死になって手を動かしているというのに、こいつはスマホゲーをしながら映画を垂れ流している。


「……そろそろ終わっていいか?」


 数十分は肩を揉んでいる。


 肩もみは、やっている人が肩がこるから徒労感が凄い。


「まだ足がこってます」

「足がこるってなんだよ。肩がこるなら分かるけど……」


 これは俺にとっての罪と罰だ。


 ツユを置いてアイを追いかけた。

 そのせいで一人になったツユはむくれてしまった。

 

 何とか機嫌を直してもらう為の代償がマッサージだ。


 そしてまた俺のシャツと、そして俺の短パンを着ている。

 嫌がらせのためにわざと俺の服を着ているんじゃないんだろうか。


「はい、どうぞ」


 ソファの腕置きに両足を乗せる。

 ブラブラとさせて、足を揉むように促してきた。


 俺は短くため息をつきながら、膝をつく。

 マッサージをすること自体には拒否権がないからしょうがないけど、


「なんか、これ、俺が下僕みたいじゃないか?」

「気のせいですよ、気のせい」


 嬉しそうに笑っているツユの機嫌が直っているので、俺は妹の足をモミモミする。


 気分は下僕か、執事だ。

 ツユは完全にお姫様気分だ。


「ちょ、くすぐったいですよ!」

「力加減が分からないんだよ」


 肩だったら強めに揉んでも大丈夫だけど、ふくらはぎをそうはいかない。

 だから弱めに軽く抓む感じでマッサージをしたのだがどうやら我が家の御姫様はお気に召さなかったらしい。


 もっとパンの生地を伸ばすみたいに手の甲の力を込めながら揉むと、ツユは何も言わなくなる。

 どうやらこの揉み方でいいらしい。


「昨日はごめん……」

「……別に。置いてかれてちょっと傷ついただけですけど」


 スマホの画面を見たまま答える。

 やっぱりまだ怒りは収まっていないようだ。


「それで? 今日はお詫びに何をしてくれるんですか?」

「マッサージで終わりじゃないんですかね」

「まだ足りないですね」

「……高い物は買えないぞ」


 ここまで奉仕してやっているのに、まだ望むものがあるってことは、きっと精神的なものじゃない、もっと物質的なものだと俺は確信した。


「じゃあ、今からゲーム一緒にしてくれませんか?」

「……それだけでいいのか?」


 そんなの、普段からやっている事だと思うんだけど。


「だったらゲームの新作買ってくれますか? 7000円ぐらいしますけど?」

「ゲームをご一緒させてもらいます」


 ゲームを一緒にやるぐらいだったら無料だからな。

 選択の余地はない。


 でも、意外だな。


「ゲームでいいのか……」

「……最近、私とゲームで遊んでくれないからです」

「そうか? 結構遊んでいると思うけど」

「彼女ができてからあんまり家にいないじゃないですか」

「それは、まあ……」


 そりゃあ、休日はアイにデートを強要されるから、家にはいれない。

 それに、バイトのシフトもギッチリだし、家に帰ったら宿題もしなきゃいけない。


 ウチの高校は他行に比べて、宿題が多いので有名だからな。

 ともかく家に帰ってから時間がないのだ。


 だから、昔に比べたら確かにツユとのゲーム時間は減ったか。

 だったらたまには思い切りやろうか。


 バイト先にはバイトのシフト減らしてくれないか交渉しているところだ。

 これからはもっとツユと一緒の時間が増えるかもしれない。

 その景気づけに今日は思い切り遊ぼう。


「何のゲームするんだ? 二人でやるっていったら対戦ゲームか」

「それでもいいだすけど、ゲームなら私の方が勝っちゃうんじゃないですか?」

「うっ」


 確かにツユってゲーム強いんだよな。

 格闘ゲームとか、レースゲームとか。


 ともかく、どんなジャンルだろうと、高次元の腕前をみせる。


 だから、ツユにゲームで勝てた試しがない。

 どんな対戦ゲームをプレイしようとも、蹂躙されるのは目に見えている。


「私がRPGをやっているのを観ているだけでもいいですよ」

「それはそれで好きだけど……」


 他人のゲームプレイを眺めているだけってのも面白い。


 これを他人に話すと理解されない時もあるけど、自分がゲームの腕前がイマイチだと、他人のスーパープレイや、ホラーゲーム等のオーバーリアクションやらを観ていると面白いのだ。


 俺は配信者の実況動画を観るのが一つの趣味だったりするし。


「せっかくだし、協力プレイできるRPGでもやろうか」


 そういえば、ツユの持っているゲームに、二人で協力プレイができるRPGがあるのを思い出す。

 あれだったら、対戦ゲームのように虚しい思いをしなくて済む。


「いいですね。足を引っ張らないでくださいよ」

「勿論」


 これでもゲームは人並みにはする方だ。

 普段触れていない人よりかはいい動きをするはずだ。


「……ふふっ」


 好きなゲームができるとあって随分と機嫌がよくなった。


「あっ、ごめん。スマホが……。ちょっと待っててくれるか?」

「ん」


 スマホがバイブレーションしたのでスワイプすると、


『助けて』


 アイから昨日と同じ文面のメッセージが送られているのが見えた。

 思わず沈黙してしまう。


「……どうしたんですか?」

「……いや、何でもない」


 同じことをして、どういうつもりなんだろう。

 怒らせるのが目的なんだろうか。

 だとしたら、成功している。

 完全にだ。


 俺はこれ以上メッセージが来ても無視するために、即座にスマホの電源を落とした。

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