第14話 変態のスキンシップ
大型ショッピングセンターについた俺達。
まず最初に行ったのは映画館。
だが、面白そうな映画はやっていなかった。
なので、近くのゲーセンで二人プレイできるゲームとか、UFOキャッチャーとかでひとしきり遊んだ。
その後。
遊んでお腹が減ったので、フードコートへ行って二人とも思い思いのものを頼んだ。
「ショッピングセンターのいいところは自分の好きな食べ物を頼めるところだよな」
「…………」
ツユが黙りこくっている。
スマホで写真は撮ったし、ゲーセンでプリクラも撮ってちゃんと彼氏彼女アピールできるような証拠を作ったけど、ダメだったのか?
――プリクラってどうすればいいんだ?
――分からないんですか? しょうがないですね。私がデコりますから、兄さんは手出ししないで下さい。
――なあ、なんかハートの柄多くないか?
――こ、このぐらい普通です!! 私だって本当はやりたくないですけど、カップルだったらこのぐらいやって当然です!!
――そ、そうか。好きにやってくれ。
というような言い合いがあったけど、あれでヘソを曲げてしまったんだろうか。
密着しながら、カップルに見られるような恥ずかしいポーズを取ったりしたけど、俺なりに頑張ってプリクラ撮ったんだけどな。
それとも、
「やっぱり、ニンニクマシマシのラーメン頼んだのが駄目だった?」
フードコードなので、自分が好きな物注文できると思って調子に乗ったかな。
ニンニク好きだから、結構乗せてしまった。
それが口臭に繋がったかも。
ツユはドーナツ屋でドーナツを頼んでいた。
俺もツユを見習いドーナツを昼飯にすればよかったんだろうか?
だけど、ドーナツだけでお腹は膨れないからな。
よくその少量でお腹いっぱいになるもんだと感心するぐらいだ。
だが、
「なんか……女性の扱いに慣れてません?」
「なんでそうなるんだよ」
ツユの返答は全くの想定外だった。
「だって、ここに来る前も車道側に私がいかないようにしたり、飲み物は私の分まで取ってくれるし、椅子を引いてくれるし。まるでイタリア人みたいなんですけど」
「ま、まあ、男はレディーファーストであれ、とアイに口を酸っぱくして言われていたから、自然と女性優先の行動が多くなっているかもな」
意識はしていない。
アイのせいで、デートをする時の女性の扱いは魂レベルで刻まれている。
「なんか兄さんらしくなくて気持ち悪いですね」
「べ、別にいいだろ! ちゃんとやっているんだから!! ……やらないよりかはやった方がいいんじゃないのか、そういう親切っていうのは」
「まあ、そうなんですけど。兄さんが親切過ぎるのは合わないですよ。嘘っぽい感じがします」
「そんなこと言われても……身体が勝手に動くんだから仕方ないだろ」
優しくしたのに、ここまで言われるなんて。
やっぱりレディーファーストとかって、俺じゃ合わないのかね。
ああいうのは足がコンパスみたいに長くて、ファッション雑誌に載っているようなイケメンの男性がやるものだ。
「あと、やたらスキンシップ多い気がするんですけど。もしかして、変態ですか?」
「それは、なんかごめん……」
腰に手を回したり、肩に手を当てたりしてしまった。
すぐに手を離したが、流石にこれは俺が悪かった自覚がある。
ただ、肩に触ったりするのはエロい気持ちがあるからじゃないことを分かって欲しい。
単純にそっちの方が歩幅を合わせやすいからだ。
どうしても人によって歩幅の違いは出てくる。
ツユと歩いてみると分かった事があるが、やっぱり歩く速度は違うし、普段の歩幅も違う。
俺の方が歩幅は広いので、肩を抱かずに呆然と歩いていたら、俺の方が先に歩いて行ってしまう。
それを防ぐために肩に手を当ててしまうのだ。
それに、方向転換もしやすい。
右側に移動する時に、肩を抱いて移動できる。
気分的には二人三脚をやっているような気分で、邪な感情はないのだ。
「今度からは注意する」
「ま、まあ、仕方ないですね。たまにならいいです、たまになら」
「え? いいの?」
「調子に乗らないで下さい!! たまにですよ! たまには!!」
「で、ですよねー」
ツユは紙コップに入った水を一口飲むと、
「なんだか兄さんが私の知っている兄さんじゃなくなっているみたいで、気持ち悪いです」
「なんで気持ち悪いって結論に至るのかは分からないんだけど……」
自分の知らない面を知って動揺しているのかな。
そんなのいくらでもあると思うけどな。
「だけど、人が変わるのは仕方ないんじゃないかな。周りの環境とか、人間関係で人って変わるものだし。中学時代に話が合っていた友人と久しぶりに会ったら、高校デビューしてて話が全く合わないとか、そういう経験だって誰しもあるんじゃないのか?」
「そう、かも知れないですね……」
俺は中学時代そういう友人がいなかったから分からないけど、ただ中学時代陰キャだった奴がいきなり髪染めて話し方も変えた高校デビューの奴は知っている。
それで上手くいって、陽キャグループに入ってるのを見て、環境でここまで人って変わるんだなって感心したものだ。
「だから俺も、あいつと付き合って変わったかもな。それがいいことなのか、悪い事なのかは分からないけど」
「でも、私が知らないところがあるのが悔しいだけです」
「なんで?」
「それは……」
ツユは回答に一拍置くと、
「……妹だからですよ。家族だったら、家族のことを一番に知りたいって思うのは当然です」
「そんなものか……」
家族を大事に思っているのはいいことかもな。
俺は前の母親のことを大事に思えていなかったかも知れないから。
「兄さんも私のことをよく知っておいた方がいいですよ」
「結構知っていると思うけどな……」
「いいえ。もっと私の事を知って、もっと私に尽くすべきです」
「おい」
ツユの視線が中空を漂って、手遊びが増えた。
集中力が切れてきている。
どうやら御飯も食べ終わったし、どこかへ行きたいようだった。
「そろそろどこか行くか?」
「そうですね」
食べ終わったお盆やら、ゴミになった紙コップやらを処分し終えると、
「買い物行きません?」
「買い物? どこ?」
「服屋です」
「服屋って、さっきちょっと行かなかったか?」
「あれとは違うブランドの服屋です。そっちの方が安いのでそっちが本命ですね」
「……なんで、本命の服屋に最初から行かなかったんだ」
「新商品があったらどっちがいいか分からないじゃないですか。服屋は何件も回るものですよ」
「そんなものかな」
安い服屋で安売りしている服しか買わないからな、俺は。
ファッションに執着がないから、そういう感覚は分からないな。
「他の人と服が被ったら嫌じゃないですか?」
「それは、まあ、そうだけど……」
そう言われたら納得しようもあるか。
ワゴンセールの服とかネットで勝った安い服を着ていると、すれ違う人と被る時なんとなく気まずくなった記憶はある。
「これを機会にもっと私のことを知って下さい。どんな服が好きなのかぐらいは」
「はいはい。あっ――」
スマホが振動する。
メッセージが来たみたいだ。
「どうしましたか?」
俺は手にスマホを持ったまま固まる。
送信元はアイ。
メッセージの一言目にはこう書かれていた。
『助けて』
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