第13話 ボロ雑巾のように捨てた彼女を分からせる計画

 休日の昼下がり。


 学校がなく、バイトもない。

 帰宅部の俺に部活なんてなければ、天国のような日。


 そんな日ぐらい、家でゴロゴロしていたい。


 ゲームとか、漫画とか、趣味に没頭したい。

 そんな当たり前の幸福を求めることは罪なのだろうか。


「兄さん、デート行きましょう」


 俺はツユのその一言に固まる。


「……デ、デート?」


 その単語を聴くだけで顔が強張った。


 俺にとってデートとは、仕事みたいなもんだ。


 相手を満足させるために、心を尽くし、骨を折る。


 粉骨砕身。

 滅私奉公。


 ……なんだか意味合いが微妙に合ってない気がする。

 が、そういう四字熟語が伴う行為が、俺にとってのデートの定義だ。


 それをせっかく自由の身になれたのに、またやれだって?

 ハッキリ言って地獄だ。


 というか、そもそもこの妹、あれだけ嫌がっていたはずなのに……ノリノリである。


「……なんで? 嫌だろ? デートとか」

「嫌ですよ、私だって!」

「だよな。風呂の順番でさえ文句言うからな」

「に、兄さんの方が先に入ってくれた方がいいんですよ。な、なんか嫌じゃないですか。兄さん……私が入った後の風呂飲み干しそうですし!!」

「どんな特殊な性癖の持ち主だと思われてるの!? 風呂入った後に、お前はダシでも出てるの!?」


 仮に豚骨スープみたいなダシが取れても、飲み干すのは勘弁願いたいんだが。


「でも、デートしておかないと、あの『元』彼女さんに色々と疑われるんじゃないですか」

「そう、かもしれないけど……」


 俺的にはあの喫茶店での一件で随分とアイに効いていたから、十分だと思ったけどな。


 だが、ツユの懸念通り再び疑念を持つとも限らない。

 俺達偽物のカップルの証拠は多い方がいいだろう。


「じゃあ、何かまたアイに訊かれたら、俺達のツーショット写真を見せればいいってことか」

「いいえ。それだけじゃ不十分です。SNSに私達の写真を載せましょう」

「ええ!?」


 二人の写真を全世界に発信するってことか?


 まあ、カップル同士だったらそういうことをやっている人もいるけど、兄と妹の写真をSNSに載せるって結構シスコン、ブラコンじゃないのか。


 載せるにしても家族全員の旅行写真とか、バーベキューをやったみたいな写真じゃないのかな?

 二人きりの写真を載せるのは、あまり世間体を気にしない俺でも気になる。


「そもそも、一緒に登校するのを見られるのでさえ嫌がってたのに、なんで、そこまで?」

「か、勘違いしないで下さい。これは友達の為です」

「友達って、シズクちゃんのことか?」

「はい。彼女がいる時にまたあの元彼女さんが現れて、不快な思いをするかもしれません。だから二度と変なことをしない為にも、あの人のプライドをへし折りたいんです。自分がどれだけみすぼらしくボロ雑巾のように捨てられたのか思い知らせるためにも、映える写真をいくつも撮ってSNSに投稿したいんです!!」

「そんな仕打ちをした覚えはないんだが!?」


 我が妹ながらアイと同じぐらい、ツユも発想が怖いよ。


「周りの人間に誤解されるかも知れないけど、いいのか?」

「写真にはカップルです、みたいな文言はSNSには載せません。アイさん以外の人が観ても、仲がいい兄と妹が写真を撮っているだけに見える健全な写真を撮ろうと思います」

「まあ、俺はいいけど……」


 身体を張ってツユが協力してくれるならありがたい。

 駄目押しで彼氏彼女アピールすることは悪くないことだ。


 俺も普段はそっけない妹と写真を撮れるなんて、悪い気分じゃないしな。


「そういえば、元彼女さんはお友達っているんですか? 既に私達がカップルだって情報拡散されてますか?」

「いる、けど。そこまで親しい関係の友達はいないと思うけどな……」


 友達には2種類があると思う。


 何でも話せる友達と、種類別の友達の2種類だ。


 種類別の友達っていうのは、限定的な友達。


 例えば、サッカーの話題だけ盛り上がれる友達とか、ボウリングだけ趣味が合う友達とかだ。


 その一点だけの友達であり、それ以外では絡まない友達。

 だから、人生相談ができるほどの仲ではない。


 そういうタイプの友達ならば、アイはたくさんいるだろう。

 いつも人に囲まれているし。


 ただ、何でも話せて心を許せるような友人がいるかと訊かれたら、まずいないだろう。

 少なくとも俺は知らない。


「だったら、SNSに写真を載せても困らないじゃないですか」

「まあ、そうかもな」


 それでも家族とかぐらいには話してそうだけどな。

 でも、親世代はSNSなんて頻繁にやらないからOKか。


 仮にこれでツユと彼氏彼女騒ぎになったとしても、ほとぼりが冷めたら否定すればいいだけだし。


 あれだけやったのだ。

 アイも冷めるだろう。


 すぐに俺なんかよりもイケメンの彼氏とくっつくだろう。


 そもそも学園のアイドルレベルの美貌を持つ俺とあいつは不釣り合いだったんだ。


 まっ、新しい彼氏といちゃいやする姿を学校で観るのは勘弁願いたいが。


「というか、デートってどこへ行くの? 行きたいところとかは?」

「こういう時は男の人がデートプランを決めるものです」

「……うわあ。思い付きでデートするって言って、何も考えてないんだな」

「そういうことは言わなくていいですよ!! 失礼ですね!!」


 デート場所か。


 結構、アイと一緒に行くときは苦労したな。

 そもそもあいつ、集合時間とか守らないし。

 化粧で時間かかかったとか言いながら、一言も遅刻したことについて謝らないからな。


 毎回遅刻するから、映画とか時間が決まったものをデートプランに組むのは論外だった。


 それに、気分屋だから、数週間前から予定を立てていても、当日に気分が乗らないからといって普通にプランを崩す。


 だからデートプランを考えるのって嫌なんだよな。


 適当なところを行っても、ムードがないとか、子どもっぽいとか文句ばかり言うくせに、アイは自分の行きたい所を中々提示しない。


 提示したらこっちが全力で否定し返しやるのに。


「じゃあ、とりあえず近くの大型ショッピングモールに行くか。あそこ行けばなんかやる事あるだろ」

「……無難ですね。でも、いいですね。行きましょう」


 ツユは不承不承ながらも頷いてくれた。

 妹とか関係なしに、ちゃんと俺に合わせてくれるのが、アイにはないツユのいいところだな。

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