第9話 キャミソール姿の元カノはどこにでも現れる
バイトが終わり、約束通りシズクちゃんと二人並んで帰る。
外が真っ暗だったので、帰る約束をしていて良かった。
しっかりと送り届けよう。
「……なんだかお腹空きましたねー」
「まあ、あれだけ動いていればね」
水泳はカロリー消費が激しいスポーツだ。
何時間も泳いでいれば、お腹も減るか。
「お兄さん、コンビニに寄ってもいいですか?」
「何か買う? 奢ろうか」
「嬉しいですけど、お金は自分の為に使ってください」
奢って欲しいと言っていたはずのに遠慮するのか。
あれは本当に冗談だったらしい。
なんだか愛おしくなってきたな。
こういう言い方されると逆に奢りたくなってくる。
アイとは大違いだ。
奢ると普通に言うとまた拒否されそうだな。
自分も何かを買って、買い物カゴにサッとシズクちゃんの分も入れて一緒に会計しようかな。
それだとシズクちゃんも静止する間を与えないで済む。
「奢らないにしても、俺もコンビニ行くよ。何か俺も食べたくなってきたし」
「はい!!」
夜目には眩しく感じるコンビニの光に目蓋を瞬かせていると、
「ふーん。やっぱり浮気してたんだ」
後方から暗い声がかかる。
その声に背筋が凍り付く。
「ま、さか……」
ブカブカした大きめの上着に、大胆にキャミソール姿をしている。
そんな彼女は腕組みしながら睨んできた。
「――アイ、何してるんだ?」
「そっちこそ何しているの? 私とはちゃんと話そうとしない癖に、そこの誰なのかよく分からない女と密会なんて、これ、浮気だよね? 謝っても絶対に許さないから」
「お前はストーカーか!! なんでここにいるんだよ!?」
「ち、違うって。たまたまなんだから!!」
色々とツッコミ所がある。
俺のバイト先を知っているから待ち伏せぐらいはできるだろうが、何時に終わるかどうかは知らないはずだ。
数時間ずっとここにいたわけじゃないはずだ。
たまたま近くを寄ったから、数分ぐらい待っていた。
俺がジムから出て来たので声をかけたってところか?
「……お前の許可なしに、他の人と話したら駄目なのか?」
「当たり前でしょ? 私以外の女と話したらそれは浮気なんだから」
「浮気も何も、もう俺達付き合ってないだろ?」
「復縁してあげてもいいけど? どうする? 今なら少しの罰だけで許してあげる」
「もういいって……。これ以上……お前のこと……」
嫌いになりたくないんだ。
本気で頭が痛くなってきた。
これ以上アイの顔を今日は見たくない。
「行こう、シズクちゃん」
「お兄さん、でも……」
シズクちゃんの腕を取ってコンビニへと急ぐ。
流石にアイもコンビニまではついてこないだろう。
「待って!」
無視をするつもりだったが、あまりにもアイの声が切羽詰まっていたので足が止まる。
「待ってよ。なんで? 私ここまでしてあげてるんだよ? なんで私のことを考えてくれないの? 私のこと大事に思ってくれないの? 私はあなたのことを一生懸命大事に思ってあげてるのに!!」
「……本気で俺のことを考えているなら、誰かと一緒にいる時に割り込まないでくれるか」
そう言って俺はなるべく距離を取った。
速足で去る俺を追うような足音が少し聴こえた気がしたけど、俺は無視した。
それから数秒。
角を曲がった。
どんな形相を俺はしているのだろう。
シズクちゃんは俺の機嫌を伺うように小声で話をしてくる。
「いいんですかねー? あの人ショック受けてましたけど」
「……いいんだよ。これぐらい言わないと気が付かないんだから」
「でも、本当は構って欲しいんじゃないですか? お兄さんの元彼女さんは、あまり自分の言いたい事を言えない人なんじゃ」
「……昔からそうかもな。言わなきゃいけないことは言わないのに、言ったら駄目なことを言ってしまう。そういう奴だよ、あいつは……」
一言多いどころじゃないからな、アイは。
地雷を踏む抜いたり、やってはいけないことをピンポイントでやったりする。
そのくせ、自分の気持ちを表現するのが下手だ。
そういうところを、アイの取り巻きや野次馬達は知らないだろうな。
「何か付き合うきっかけってあったんですか?」
「……ああ。あったよ。どっちから告白したか、未だにお互い議論しているけど、きっかけはあれだと思う」
コンビニの中に入って、アイを見やる。
トボトボと背中を向けて歩いて何処かへ行く姿を見て思い出す。
あの時のことを。
「あれは、中学二年? 三年? とにかく中学の時だったかな」
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