第3話 姉のライカさんは俺達のママ

 遠藤 来夏えんどう らいかことライカさんは、姉であり、俺達の通っている学校の生徒会長でもある。


 生徒の規範となる生徒会長だけあってキッチリとした性格だ。

 ずぼらな妹と違って皺ひとつない制服のシャツに、アイロンをかけた髪の毛。


 まるで性格の違う姉妹だが、姉妹仲は悪くないようだ。


「ライカさんご飯食べる? それとも生徒会の仕事でもあるの?」

「ううん。今日はないわよ。――じゃあ、せっかくだしソラくんの愛情がこもった料理を堪能しようかな」

「えー、兄さんの愛情?」

「そんなに嫌ならたまには飯を作ってくれてもいいんだぞ」

「いただきまーす!!」

「……軽く無視したな」


 三人とも席についてご飯を食べ始める。


 美味しいとライカさんは笑顔で褒めてくれて、ツユは、


「そうだね、美味しい、美味しい」


 と、ツユは適当な言葉を並べる。


「でも、本当に料理は私が作らなくて大丈夫だったの?」

「え? だって今日の料理当番は俺だったよね?」


 ライカさんも料理を作れる。

 むしろ、料理の腕は俺より上だ。


 だから俺も作ってくれた方が嬉しいが、ライカさんは生徒会長で忙しい身だ。

 そして、母親は仕事で忙しい。

 ということで毎回料理当番を決めて、俺、母親、ライカさんが順番に料理を作っている。

 なのに、


「なんで料理を作ろうとしてくれたの?」

「だって、昨日失恋していて随分落ち込んでたから」

「ぐっ……!」

「あーあ……」


 ツユは心にクリティカルダメージを喰らった俺を見やりながら、やっちゃったな、という顔をしている。


「ご、ごめん。無神経だったかな?」

「いや、別に。全然平気だから」

「えっ? でも、昨日泣いてたよね? ソラくん」

「……ゴフッ」


 味噌汁を吐血するみたいに口から出しそうだった。


「――なんで?」


 知っているんだ。

 泣いている姿なんてみっともなさ過ぎて、誰にも見られないようにしていたのに。


「心配になって様子を見に昨日部屋に行ったら、啜り泣きしてたから。……ごめんなさい」

「す、啜り泣いてはないけど……。あー、うん。全然、うん、しょうがないよ。観ちゃったものは。むしろ心配させてごめん」


 むしろ、ライカさんとツユに自分がフラれたことを吐露した俺が悪い。


 これでライカさん的には本心で俺のことを心配してくれているんだよな。

 悪気がないのが逆に質が悪い。


「もうそれぐらいにしておいたら、ライカ姉さん。兄さんはその話題には触れられたくないんだよ」

「……そうなの?」

「はい。出来れば触れないで下さい。お願いします」

「ごめんね。それだけ彼女さんのことが好きだったんだね」

「あ、はい……」


 まあ、そうなんですけど。

 あいつのことはもう掘り返さないで欲しいな。


「本当は辛くて今日だって学校をサボりたいはずなのに、朝御飯の準備をしてくれるなんて! ソラくんはなんて偉いの! よしよし! よしよし!」

「ど、どうも……」


 ライカさんに頭を撫でられる。


 これ、どういうプレイ?

 どんな反応をすればいいんだ。


「何、デレデレしているんだか……」

「してない」

「してるって」

「してないから!」


 ぶっちゃけ鼻の下は伸びていたかも知れないけど、妹に指摘されたと素直になれる訳もない。


「もう、二人とも喧嘩しないで。朝はそんなことしている時間ないでしょ? ツユちゃんだって、ご飯食べ終わったら着替えだってしなきゃいけないんだから」

「ふぁーい」

「もう、食べながらの返事は行儀悪いでしょ」


 ライカさんはまるで俺達のお母さんみたいなもんだ。


 俺の新しい母親は仕事が忙し過ぎて、顔を合わせることすら珍しい。

 夜勤が多いせいで、生活のリズムすら違う。


 俺達が寝静まった頃に家に帰っているから、代わりにライカさんがいつも世話をしてくれているって感じだ。

 この人には俺もツユも頭が上がらない。 


「私は先に登校するけど……。二人ともちゃんと歯磨きして食器は水に浸けておいてね」

「はーい」

「分かったよ、ライカさん」


 マイペースなツユの身支度や食器洗いなどを行ったライカさんは、俺達よりも先に登校していった。



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