第2話 妹のツユとは夜通し遊ぶ関係

 料理というのはいかに時間を有効活用するかだ。


 俺はいつも通り、テキパキとマルチタスクをこなす。


 フライパンでソーセージを焼きながら、作り置きの味噌汁を電子レンジで温めつつ、キャベツを千切りにする。


 父親と二人暮らしの時はずっと料理当番をしていた。

 だからキッチンタイマーで計らずとも、感覚だけで料理をすることができる。


 パキッと、ソーセージが割れる音がした。


 今だ。


 俺はソーセージの焼き具合を一応視認して、火を止める。

 既に卵が乗っている皿に乗せて、置く位置を黙考する。

 見た目も料理において重要な要素だ。


 すると、


 階段から足音が聴こえて来た。

 この気怠そうに歩く音は多分、我が家の末っ子だ。


「おはよう、兄さん」

「ああ、おはよう……」


 パジャマ姿のまま二階から降りて来たのは、遠藤 梅雨えんどう つゆ

 寝癖がついたまま欠伸を噛み殺している。


「なあ」

「なんです? 兄さん」

「その兄さん呼びは止めてくれないか?」

「いいじゃないですか。実際に兄妹なんですから」

「でも、なんか慣れないんだよなあ」

「もう二年も兄さん呼びなんですよ。そろそろ慣れてください」

「まあ、そうなんだけど……」


 親が再婚してから二年。

 俺には新しい母親と、それから一つ上の姉、一つ下の妹ができた。


 家族になった俺達はこうして一つ屋根の下で暮らすことになった。


 新しい家族との関係は良好なのだが、やはり二年経っても慣れないことは慣れない。


 たまに些細な事で意見が割れたりもする。


「それより、朝ご飯またご飯と味噌汁と卵と焼き魚ですか? たまには違うメニューがいいんですけど」

「昨日はひじきの煮物だったけど、今日は納豆だろ? ちゃんとメニュー変更しているだろ」

「……ひじきって一昨日の夕飯の残りでしたよねー? それになんだか煮物って地味じゃないですか? まるでおじいちゃんみたいですね」

「文句言うなら食わなくていい」

「あー、止めてくださいー」


 ツユからおかずの皿を取り上げる振りをする。


 料理しない奴に限って文句が多い。


 確かに作り置きの手抜きが多いけど、朝は時間がないから仕方がない。

 こうして言い合っている時間すら惜しい。


「お母さんは?」

「夜勤で寝てる。だから俺の料理で我慢してくれ」

「……まあ、兄さんの料理でもいいですけど。たまにはパンがいいですね、パンが」

「俺の家の朝ご飯はずっと和食だったんだ。朝はパンじゃなくてご飯が食べたいんだよ」


 朝にパンだとあまり食べた気にならないんだよな。


 ツユの家庭では朝がずっとパンだったから、母親が料理をする時はパンが出てくるけど違和感しかない。


「私はご飯だと朝があんまり食べれないんですよ」

「分かった、分かった。今度はパンにしてやるから」

「やった!」


 朝ご飯をパンにするだけで、小さくガッツポーズをしている。

 単純な奴だ。


「お父さんは? いないけど?」

「もう仕事行っている」

「はあー。朝早くから働いて忙しそうですねー」

「ツユも遅刻しないように、早起きしたらどうだ?」

「だってゲームが面白いんですもん」

「……また徹夜でゲームか。ほどほどにしとけよ」


 注意しながらも、俺もたまに徹夜でゲームするから人のことは言えない。


 ちなみにツユはゲームオタクだ。


 俺と同じ、いやそれ以上にゲームが好きだ。

 部屋には様々なゲーム機やソフトが置いてあって、たまに貸し借りをしている。

 中古でもたまに見かけないようなレトロなゲームも置いてあるので、レアなゲームがプレイ出来てかなり助かっている。


「それより、自分のご飯の分をよそいでくれ」

「えー、面倒くさいー。兄さんがやってください」

「山盛りにしていいならするぞ。あと、箸の準備とかもしてくれよ」

「えー」


 文句を言いつつもツユは手伝ってくれる。


「ライカさんは?」

「それは――」

「おはよう、ソラくん」

「あっ」


 話をしているとご本人が登場した。


 遠藤 来夏えんどう らいか


 俺の新しい姉だ。

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