第10話 落語
兵衛助→若い。職なし。友人の地主の倉庫から食べ物を盗み生活。
地主はそれに気付いているが言わない。兵衛助、ある日ふと良い物が食べたくなり金を盗む。地主、見逃す。兵衛助、寿司屋で食う。寿司屋、兵衛助に才能があるとそそのかす。兵衛助、大商人の屋敷に忍び込むが捕まる。奉行所に出されたくなければタダで働け、と一生タダ働き。後日、地主と寿司屋と商人の密会。作戦は良好。
これを落語調で。
□■□■
このようなメモがあった。正直メモの内容はどうでも良い。オイラがこれを抜き出した理由は、最後の文章にある。『これを落語調で』とあるではないか。なるほど、メモの内容から察するに舞台もちょうど江戸時代辺りなのだろう。だからそれを落語に結びつけた。アイデアは良いな。落語調の小説をオイラは見たことがない。ということはそれだけ斬新だということか。あるいは先人が試したがあまり面白くなかったため広まらなかったか。試しに少し書いてみよう。
えー、本日はお足元が悪い中はるばるありがとうございます。いやぁ、梅雨ってのは嫌なもんですね。私もこの間、大雨が降っている時に家でボーッとしてたからカミさんに「あんた、暇なら買い物行ってきておくれよ」って言われたんですよ。「おいおい、こんな大雨の中外に出て、流されちゃったらどうするんだよ」って聞いたらですね、「急いで生命保険の会社に連絡する」ってね。こんな辛辣な女房が他にいるかねって話ですよ。辛辣な女房と言えばですね、時は江戸。三郎という商人がいたんですが、こいつの嫁がとんでもない鬼嫁でですね。
こんな感じだろうか? 落語には疎いのだが、なんか最初にこんな感じの導入があったはずだ。このメモの下に、落語の『死神』の内容を要約したメモがあった。きっとYouTubeかなんかで調べたのだろう。となるとわりと熱量はあったということだ。なんでボツになったのだろうか? 多分、途中でやる気が失せたのだろう。まぁオイラのことだから大体そんなもんだ。しかし今ならこのメモ、弄れる気がする。
小説に最初の語りだとか導入なんてものはない。小説の冒頭が世間話だったらそっ閉じだろう。落語調で小説を書くならこれは外せないのだが、小説とは相性が悪いように感じる。しかしオイラはこれを克服する方法を思い付いたのだ。例えば落語とミステリーを組み合わせてみよう。最初に導入。世間話から、「そういえばこんな事件があってですね」と語り部。この後は語り部の視点から書いていくのだが、最後に語り部が犯人だったというオチをつけるのだ。「これを今、獄中で書いている次第です」なんて言わせれば上手くまとまるんじゃないだろうか。連載には向かないだろうが、短編向きではある。
じゃあこのメモ使うのかい? と問われれば、多分使わない。オイラが落語に疎いのもあるが、最近は書きたいものが多すぎて正直短編に手が回せないのだ。そんな中、息抜きにこのエッセイを書いている訳だ。決してサボっている訳ではないので悪しからず。
さて、話がズレた。落語の話だ。落語『死神』のオチは何種類かあるらしい。これに習って結末がいくつか存在する小説なんてどうだろうか? 途中で読者に行動の決定権を委ねるのだ。例えば道が左右に分かれている場合、右に行くか左に行くかの選択肢を与える。作者は2つの続きを用意し、読者は好きな方の続きを読む。それによってオチも異なる、というやつだ。まぁ、無理だろうな。こうなると小説ではなくゲームブックになってしまう。そもそも、落語『死神』だって客にアンケートを取ってオチを決めている訳ではない。物語と読書は一定の線引きした方が良さそうだ。
落語と小説を絡めるのは本当に難しいようだ。だけど不可能ではない。オイラにそれをやる熱量がないだけで、やろうと思う人には出来るのだろう。このエッセイを書いていて薄々気づき始めてはいたが、やはりネタには鮮度というものがあるようだ。1日や2日置いておくだけなら熟成になるだろうが、長い間置いておくと腐ってしまう。しかし腐った物の中にも輝く物はある。今回のアイデアは残念ながら輝かなかったためにここで供養するが、もしかしたらこのアイデアを活かせる読者がいるかもしれない。いたらぜひ使ってやってほしい。アイデアもその方が喜ぶだろうし。
さて、今回の話をそろそろ締め括ろう。落語を小説に組み込むなら、語り部がとても重要になることが分かった。語り部が何らかの形でストーリーに関与していれば、それはアイデアを上手く活かせているということなんじゃないかと思う。最初の噺というか導入というか世間話というか、とにかくアレをストーリーの本筋と絡ませることが出来たなら、なお良いだろう。そういう小説があったらオイラは唸る。とはいえ、オイラにそれを書く熱量も時間もないので、このアイデアはここに投稿する。誰かの役に立つかな? 立ったら嬉しいな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます