第6話 デラックス
星新一先生は「デラックスな金庫」というタイトルのショートショートと「デラックスな拳銃」というタイトルのショートショートを書いている。確か、星新一先生が書いた、タイトルに「デラックス」という単語が入っているショートショートはこのふたつだけだったと思う。デラックスとは、贅沢なこと、豪華なこと、高級なことという意味らしい。はたして、「デラックス」という単語は日常的に使うものだろうか。オイラは使わない。星新一先生が生きていた時代は使っていたのだろうか。だとしたら死語というやつか。死語というのはもしかしたら、最近の人にとっては新鮮に聞こえるのかもしれない。それをタイトルに取り入れたらどうだろうか。しかしここでは死語について扱うつもりはないので、話題の展開はここまでにしておく。
星新一先生のショートショートをいくらか読んだことのある人なら、多分この2作品は知っているだろう。どちらも有名で完成度の高い作品だ。星新一先生のファンなら、ひょっとしたらリスペクトの意味も込めて、自分もタイトルに「デラックス」という単語の入ったショートショートを書いてみたいと思うかもしれない。実はオイラもそうなのだ。それでアイデアとして出してみたのだが、残念ながら形にならなかった。いや、一応なったことにはなったのだが、完成度の低さに絶望して公開しなかったのだ。星新一先生の「デラックス」な作品を知っているからこそ、自分のデラックスに自信が持てないのだ。しかし、オイラはこのメモ以外にもう他の「デラックス」タイトルのショートショートを書いている。だからこのメモはもういらないのだ。なのでここで公開しようと思う。
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デラックスな俳句。
俳句が好きなエヌ氏。
とびきりの俳句を詠んでコンテストに応募しよう!
デラックスな紙にデラックスな墨で、デラックスな筆を使う。
デラックスな環境を用意する。
貯金を全て叩く。コンテスト金賞の名誉のため。
結果入賞すら叶わず。
時間や金を掛けても結果が出るとは限らない。
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エヌ氏が俳句のコンテストで金賞を取りたいと願うところから始まる。エヌ氏は貯金を使って、素晴らしい俳句を詠めるようにデラックスなものを集める。しかし入賞もできなかったというオチ。これの何が悪いか説明していくとしよう。
まず、アイデアはデラックスに重点を置いているのだが、ストーリーの構成がとても陳腐なのだ。どこかで見たような話。要は金持ちが金で名誉を得ようとするができなかったというだけなのだ。まさに陳腐。アイデアでそれをくつがえすことができればいいのだが、デラックスというだけではそれは無理だ。オチに意外性を持たせればなんとかなるだろうが、それも難しい。入賞しようが入賞できなかろうが大したインパクトにはならないし、話がそれてもいけないのだ。逆にこのメモのストーリーでショートショートとして完成させられるのであれば、それは書き手のレベルが高いという証拠に他ならない。オイラなどはまだまだ修行不足というわけだ。
このメモは他のメモと比べても異質。なぜなら先ほども書いたように、意外性だとか新鮮さだとかがないのだ。「デラックスとタイトルに付けたいがために書かれた話」と言われても反論できない。多分、このメモを書いたときはデラックスに取り憑かれていたのだろうな。デラックスにはそういう魅力があるのだ。他より優れているということは、現代において大変な効果を発揮する。デラックスという単語は、その「他より優れている」ということをたった1語で表しているのだ。「豪華な拳銃」とか「優れた拳銃」とかより「デラックスな拳銃」のほうが惹かれるはず。前述したとおり、デラックスという言葉は恐らく死語だ。そして死語は聞きなれないという点で新鮮さを持つ。他の死語なら意味も分からないなんてこともあるだろう。しかし、日曜朝にやっている戦隊ヒーローのオモチャのCMで
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デラックスという単語はいたってシンプル。つまり、次に来る言葉を修飾するのだ。ゲーム風に言えばバフだな。「拳銃」と「デラックスな拳銃」では後者のほうが凄そうに見える。つまり、デラックスという単語は他の単語があるから成り立つのであって、単体で強い効果を発揮するものではない。だからこそ、汎用性が高いのである。悪魔やロボットは混ぜるものだが、デラックスは付け足すもの。デラックスだから他とは違う。他とは違うからストーリーとして動き出す。そういうことだ。
つまり、デラックスは使いやすい。デラックスな○○というタイトルなんていくらでも作れる。しかも○○に入る言葉でストーリーが変わってくるから、アイデアが被ることもなかなかない。しかしマンネリ化はしやすい。デラックスという言葉にかまけて努力を怠ると、同じような内容の話ばかりになってしまうのだ。メリットもデメリットもあるが、全体的に見るなら、あまり初心者向けの言葉ではないと思う。オイラもたまたま「デラックス」タイトルでいい感じのやつが書けただけで、デラックスを完全に乗りこなしたわけではない。改めて星新一先生の凄さが分かる。ふたつとも展開が違うではないか。タイトル以外で同じところを見つけるほうが難しい。星新一先生に憧れるのも無理はない。それこそ、オイラにとって星新一先生は、「デラックスな小説家」なのだから。
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