第2話「抗光救済」

 何分走っただろう。運よく行き止まりを引いていないからいいもの、少しでも道を誤れば、あの光に触れてしまうことだろう。


「誰か……誰かいるなら助けて!!」


 逃げつつ叫ぶ。

 その声は誰にも届かない――。


 逃げつつ求める。

 そもそも他に誰かがいるかも分からない。


 ただ、走ってはしって走り続ける。



 それでも逃げ切ることはできなくて――このまま光に呑み込まれてしまうだろう、と少女は半ば諦念気味になっていた。

 


 しかし、諦念は希望によって覆される。



 首筋辺りまで伸びた黒髪を持った幼子ではないが子どもと言える――それでいて、大人びた雰囲気を醸し出す女の子が、突如として目の前から現れた。

 フードの着いた漆黒のローブと膝にかからない程度のスカートがふわりと舞う。可憐で美しい様であったが、女の子の切り目から見せる真剣たる感情に、少女は見惚れるよりも委縮が勝った。

 

 だが、女の子はそんなこと知る由もない。


「貴方、あの光が怖い?! 怖くない?! どっち!?」

「え、え、えっと……怖い、です」

「分かったわ。じゃあ、こっちに来なさい!!」


 光は咫尺の間まで近づいてきている。女の子は慌てて少女の手を引いて、一目散に光から逃げ始めた。


 光のない世界で光に追われる――矛盾しているが、矛盾などしていない。何とも不確かで奇妙な時間が続く。



 走っても逃げきれない。逃げても光は迫り続ける。


 「やっぱり助からないのでは」と、終わりのない逃走劇に少女が感じ始めた時、真っ直ぐな道から右に逸れる形で分かれ道があった。

 女の子は「しめた」とほくそ笑み、分かれ道に飛び込んだ後、少女を体の前に持ってきて、右手で口を塞いだ。


「静かにしてて、音さえ立てなければ大丈夫だから」


 女の子の言う通り、光は2人に見向きもせずに道を真っ直ぐへと進んでいき、すぐに視えなくなった。

 


 女の子は少女の口から手を離し、小声で言葉を繋げる。 


「あの光は音と光にしか反応しないの。だって、目とかないもの。光に反応するのは……何でなのかしら?」

「さ、さぁ……」

「まあ、いいのだけれど。――私についてきて。絶対に離れたらダメよ? 見失ったら最期だからね」

「あの……あの光は?」

「あの光は《創造》。そして、あれに吞み込まれたら、私達は現実世界に生まれてしまう。ただ、それだけの事よ」


 普通は到底理解し難い答えだったが、少女は何故かすんなりとその答えを理解し、受け入れることが出来ていた。


 ちゃんとした光がなければ5m先も見えやしない。少女は可能な限り自分を助けてくれた人物のすぐ後ろを歩き、後に続いた。

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