RE:fused BORn Nightmare

江川無名

第1話「暗闇」

「ここは……何処?」



 栗色の長い髪を揺らしながら、少女は周囲を見渡す。

 しかし、周囲は闇よりも暗く、何も視ることはできない。左側に壁のようなものがあるにはあるが、それ以外は何も分からない。


 不安、恐怖、畏怖。空間と呼べるかも怪しいこの場所に揺蕩う負の情調。

 彼女は不安を隠すことなく、恐る恐る後ろへと振り返る。


「何? あれ?」



 振り返った先には、白い光があった――。



 眩い光で目を瞑ってしまいたくなる程痛い光。

 かといって、壁が照らされるわけではない。光があるのに。不思議であり、不気味であり――なにより、不完全だった。


「まっすぐはいけなさそうだけど、とりあえず、光に近づいてみよう」


 他に何かあるわけでもない。それに暗闇にあり光は安心感を与えてくれる。近くに行けば、不安感も取り除かれるだろう。


 少女は、壁に手を当てて、慎重に光へと近づいていく。

 ジグザグで行き止まりもある――。まるで迷路のような空間を数分歩き続け、漸く近づいたと実感できる距離にまで辿り着く。

 


 更に数分。果て、数十分。

 光との距離が僅かに迫った時――。


「何かいる」


 そこには何かがいた。光があっても近づかなければ姿を確認できない。少女は「何か」に恐る恐る近づいていく。

 近づくと、「何か」は人間の姿を成していない事がわかる。なんらかの生物であるかも疑わしい奇妙な形で、色は灰色。身長は100cmと言った所だろうか。


「@<>@I@+=@/@&X@<>@&I¥――」

「?? なんて言ってるの?」


 何を言っているかは分からないが、同じ抑揚で同じ発音の羅列を繰り返している。訴えたい事があるのかもしれないが、生憎、少女には訴えを聞き届ける能力を持たない。


 少女は言葉を理解するのを諦めて、さらに光へと近づいていく。



 近づくたびに、安心感が溢れてくる。

 近づくたびに、救済されたような気分になっていく。


「触れられるのかな?」


 より深い安心感を得ようと、少女は縋る思いで光に手を伸ばそうとした。

 しかし――。



 ――――――――――。

 ――――――――――。



 触れるよりも前に無機質な音が鳴り響いた。

 その音は空間を木霊するが故に、発生源をしばしの間、誰にも理解させることはなかった。

 数秒の時を経て、少女は漸く理解する。



「この光が、発した音……なの?」



 不安を煽るような野太く低い音が、何度も何度も鳴り響く。

 目を逸らしたい。なのに、目を逸らせない。

 


 ただ、さっきの安心感とは打って変わって、自分の頭を渦巻くのは「恐怖」だった。



 ――――――――――!!



 また、光が不安を煽る音を鳴らす。さっきよりも不安を煽り、さっきよりも響音で、さっきよりも絶望の音を。

 

 そして、音が響くと同時に、小さな白い光が少女の目の前に落ちてきた。いや、落ちてきただけでは適切ではないかもしれない。

 より適切な言葉、それは――。


 

 ――産み落とされた。



「こ、怖い……!!」


 産み落とされた光は、一寸たりとも動かない。動いていないにも関わらず、周囲を見渡していると彼女は頭の何処かで感じていた。


 ゆっくりと、じっくりと、ねっとりと周囲を見渡し、光はついに少女を見つける。

 微笑するかの如く、一瞬かつ極僅かに光は輝きを増した


 そして、それは合図だった。


 光は少女の方へと、呆気にとられる程の速度で近づいてくる。



「と、とにかく逃げないと……!!」



 触れたら間違いなく、良からぬ事が起きる。


 そう確信した少女は、踵を返し、一心不乱で暗闇を殺す光から逃げ始めた。

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