星を繋いで

鈴音

星空

「どんな星にも名前はあるんだ。」


 そう語った彼女の横顔を、今も忘れることは出来なかった。


 僕は幼少を田舎ですごし、今は都会で一人暮らし。都会に憧れを持ったどこにでもいる高校生だ。


 そんな普通の僕が唯一人と違うのは、星が好きだということ。週末プラネタリウムに行くとかではなく、星の起源から名前、あらゆる現象について調べ、自分の目で見て、時に研究する。オタクっぽいと嫌味を言われたこともあった。地学の先生に君の方が詳しいし教え方も上手だから天文の時は任せるねと無責任なことを言われたこともあった。


 それでも、星に対する思いと憧れは止められなかった。


 そうして星の事にかまけて、青春を捨てた高校生活は気づけばほぼ終わり、最後の夏休み。私は一つの後悔と心残りから、実家に帰っていた。無駄にだだっ広く、牛の匂いと草の匂い。それと高すぎる空が魅力的なつまらない所だ。


 私の後悔は都会で星は見えなかったこと。そして心残りは、あの時星を語ってくれた少女だ。


 帰省の数日前、久しぶりに母と話す機会があった。新しくスマホを買ったらしく、ついでだからと電話をかけてきた。たまには帰ってきなさいと。その時に、ふと思い出したのだ。そういえば、あの時の少女はどこの子だったのだろう。と。


 私の家のお隣さんは、一キロ以上離れているため、夜に出歩くことない。兄弟姉妹も多いが、それだったら顔を覚えている。


 母にこの話をすると、母も首を傾げるのである。なので、実際に帰省して当時あの子にあった場所に向かうことにした。


 実家に帰り、仕事を手伝い、迎えた夜。星を見るための道具とカメラを携え、あの日少女に出会った丘に向かう。歩いて数分。距離にして4〜500メートル程。そこには、人一人が座るに丁度いい岩が転がっていた。


 そこに腰かけ、空を見上げる。澄んだ空に、眩しいほどの星が煌めいていた。しばし、写真を撮ることもどれがどの星かを考えるのをやめて、空を眺めていた。その時。


「久しぶり。やっぱり、ここの空はいいよねぇ」


 少女の声が聞こえた。振り返ると、あの時と変わらない、可憐な少女がそこに立っていた。夜空のように深い黒の髪と、きらきら輝く星のようなドレスを纏った少女だった。


 僕は、思わず手を伸ばした。そして、岩から滑り落ちて顔面から地面にダイブする。少女は、笑いながら手を取って、抱き上げてくれた。


 この子に、聞かなければならない。貴女が何者で、どうしてここにいるか。それに対する少女の答えは。


「私は…んー、なんだろうね。わかんない。星の精霊?みたいな?とにかく、貴女が私を私をじーっと見つめるから恥ずかしくて、あのお話をしたの。まぁ、星の初恋…?かな?」


 僕は驚いた。そして、顔から火が出るほど恥ずかしくなった。だって、僕も彼女を一目見てから持っていた、ずっともやもやした気持ちが、恋だとわかってしまったからだ。


「まぁ、私はここから動けないからさ、また来年。そしてその次も、そのまた次も逢いに来てよ。これも、星座のように繋がった運命だから」


 彼女は真っ赤な顔で、くしゃっと笑った。僕も、恥ずかしかったけど、嬉しくなってその手を強く握った。


 僕は、星なんて美しくて、手の届かないものと恋をしてしまった。彦星と織姫のような、一年に一度しか会えない、禁断の恋。それでも、僕は彼女に伝えるしか無かった。僕の思いを。



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星を繋いで 鈴音 @mesolem

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