神様は異世界の作り方がよく分からないようです

ちゆねり

第1話

 異世界に旅立って、冒険がしたい。

 若くして命を落とした僕は、神様にそう願った。

 願いを一つだけ叶えることを約束した全知全能の神は、しかし首を傾げる。

「異世界とはなんだ?」

 実に堂々とした態度で神様は僕に尋ねる。

「無論、言葉の意味は分かる。異なる世界、ということだろう。だが、そんなものは存在しない」

「そんな……」

 異世界が存在しないのであれば、転生なんてできるはずもない。

 あっけなく夢が崩れ去るのか……僕は一瞬そう思ったのだけど。

「つまり、異世界の創世から始めなければならないな。もっとも、全知全能の我には容易いことだ。前回は一週間程かかったが、此度は三日とかからないだろう」

 神様は事も無げに、世界の創世を告げた。

 この格好良さ、これが神様というものか……!

 神様は手にした杖を振り、虚空に向かって告げる。

「出でよ、我が眷属の象徴よ」

 小さく呟くと、まばゆい光と共に、手のひらに収まる程度の聖遺物が現れる。

 例えるなら、スマートフォンのような長方形をしていた。

 神様はそれを指先でなぞり、再び事も無げに言う。

「オッケーG○○GLE。異世界、作り方、検索」

 ピコンという電子音が無為に響き渡る。

「どうして神様がネットに頼るんですか! 全知全能じゃなかったんですか!?」

 思わず僕は声を荒げる。

「人は我が作りしもの。その人が作りし道具を我が借りたとして、何も恥じる必要はなかろう」

 平然と神様は言い切る。

 さきほどのまばゆい光も、スマホのバックライトによるものらしい。

 例えるまでもなく、ただのスマホだった。

「幸い、こうして多くの小説サイトが出てきたぞ。ここの小説を参考にして、それっぽい異世界を作ればいいのだろう?」

 ツッコミたいことは山ほどあるが、このまま会話の主導権を握られていたらどんなことになってしまうか……。

 ここは自分の意見をきちんと伝え、なんとしても異世界転生をさせてもらう必要がある。

 よし、一旦落ち着こう。

 そして僕は、最も大切なことを伝えることにした。

「なら、こっちの『カクヨム』にある作品を参考にしてください。とても面白い作品が多いので」

 露骨に媚びを売る僕の姿に、神様は初めて困惑した。


 神様が読み終えた後。

「解読完了。これより『異世界』の創世を開始する」

 神様は再び手にした杖を振り、厳かな声色でそう宣言した。

 それとともに魔法陣が浮かび上がる。

「彼の望みし異世界を。数多の困難と希望に満ちた世界を、今この場に!」

 神様の発する言葉と共に、この場所が一気に彩られていく。

 いつしか魔法陣は消え、代わりに日の光を受けて煌めく噴水へと姿を変えていた。

 その噴水を中心として大通りが四方に伸び、その左右に活気ある商店が建ち並ぶ。

 その奥には細かな文様が描かれた大理石のオベリスクが立ちそびえていた。

「こういうのですよ、こういうの!まさに僕の思い描いた異世界です」

「当然だろう。あの六十億を超える人々の住む世界を作り上げた我がこの程度、造作もない」

「これこそ僕の理想通りです!この世界で僕が冒険できるんですね!……ん?」

 神様の所業を目の当たりにして興奮していた僕だったが、一つ気になる部分が目についた。

 街並みは中世風なのに、なぜかオベリスクに日本語が書かれている。

 近づいて、目を通す。


『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』


「ああ、それは『カクヨム』のガイドラインに書かれていたものだ。これを書かないと法律で禁止されている行為が行えないらしいから、オベリスクに記載しておいた」

「全知全能の神様がなんで『初めての方へ』の内容を熟読してるんですか!」

 細かな文様もよく見ればプライバシーポリシーだったりする。

 なんでそんなもん街の中央にあるんだ。末尾に書かれていればいいだけなのに。

「とりあえず、日本語は異世界っぽくないので使わない方向で」

「好的。我是完美理解」

「僕が悪かったよ!言語設定は日本語のままでお願いします!」

 中央のオベリスクに大きな文字で「おべりすく」と書かれることになったが、僕はツッコミも何もかも諦めることにした。

 この辺りで僕はうっすらと気づいた。

 全知の中に「無知の知」まで含まれているというか。

 全能であるが故に「ドジっ子」「天然」「ポンコツ」といった属性まで加味されてしまっているというか。

 一言でまとめるなら、この神様は色々とアレだ。

 だがそれより、もう一つ重大な問題がある。

 神様がガイドラインを書いてしまったせいで、この世界では法律で禁止されている行為が許されるようになったということだ。

 いきなり僕が殴り殺される描写が出てくるかもしれない。

 そうならないよう早急に対策を取る必要がある。

 僕が殴り殺されないために必要なのは――異世界といえば、やっぱりこれだ。

「それより神様、もう一つお願いがあります」

「ふむ、願いは一つだけと言ったはずだが……まぁいい、言ってみるがいい」

「僕の能力値をカンストさせてくれませんか?」

「なるほどな、異世界に旅立って、俺TUEEEしたいということか」

 さすが神様、もう用語を理解している。だてにカクヨムを隅々まで読んでいない。

「話が早くて助かります」

 神様が色々アレだとはいえ、ステータスさえカンストしてもらえば、後は僕一人でどうにでもなる。

「わかった。ステータスMAXっと。これで旅立った瞬間、王女全員と王妃がお前に惚れる展開が待ってるぞ」

「好感度までカンストさせないで!あと妃入れるのマジで止めて!王様に速攻で処刑されるから!」

 街の中央の噴水前で、僕は一度は諦めたツッコミをつい大声で叫んでしまった。

 周囲の街の住人が何事かと僕を見る。

 いや、正しく言えば。

 周囲の老若男女から、色目を含んだ視線が送られる。

 さっそくカンストの効果が発揮されていた。全く必要のないこの状況で……。

 神様に何を言っても通じないことを悟った僕は、神様を抱えて全力疾走でこの場所から逃げ出した。

 今更ながら、僕は気づいた。

 この神様は、異世界の作り方がよく分からないようだ、と。


 街を離れ、僕は神様を抱えたまま、ひとまず郊外の森の中まで逃げ込んだ。

 現在、僕のステータスはほぼ全てがカンスト状態のため、本気で走ればすぐに街を離れることができる速力がある。

 当然、好感度も全フラグが立った状態だ。

 はやくこの状態を神様に解除してもらわなければならない。

 そして。

「ハァハァ、こんな森の奥深くに連れ込んで何をする気だ?わかってるよ、わかってるだろう!」

「なんで神様まで発情してるんですか!僕にそっちの気はないですから!」

「神に性別はないから問題ない!問題があるとすれば、ここに連れ込んだ君の方だ!」

「絵面が問題ですって!」

 僕はカンスト状態の腕力の赴くままに、神様を投げ飛ばした。

 木々をなぎ倒しながら吹き飛んでいく神様を横目に、とりあえず残されたスマホを手に取る。

「なんでステータス値がスマホで操作できるんだ……。まぁ、これでひとまず大丈夫かな」

 好感度のカンスト値をひとまずオフにしておく。オンオフしかないシンプルな設定だが、とりあえずこれで先程の惨事は免れるはずだ。

「いやいや酷い目にあった。神に反逆するとは中々良い度胸だな」

 なぎ倒された木々の向こうから、傷だらけの神様が現れ不満を言う。

「とまぁ、このようにステータス値の操作は慎重に行う必要がある」

「何しれっと説明始めてるんですか……」

 先程の騒動謝る気なしか。

「何を言う。これでも最低限のステータスをカンストさせただけに過ぎないのだぞ? 前回はそれで失敗したからな……」

「失敗? 前回? 何の話ですか?」

「君が元いた世界の話だ。確かアダムとか言う名前だったか。簡単に死なれては困るとステータスを上げたのだが……」

 神様は過去を振り返り、ため息を吐く。

「うっかり体重のステータスをカンストさせてしまってな。人間サイズに巨大な重力が発生し、見事ブラックホールの完成だ」

 それに比べればまだマシだろうという言い訳なのだろうか。

 僕は二の句が継げない。

「全宇宙の物質が引き寄せられ、耐えきれずに爆発を起こしたのが、君が以前住んでいた世界の成り立ちだ」

「ビッグバンの理由がそれなんですか!?」

「アダムの防御力もカンストさせていたから生きてはいたが、そのせいで人が住める惑星を用意するのに46億年ほどかかってしまった。今回はそんな失敗なく、無事に世界が構築できたようだな」

 アダムさん、そんな苦労していたんだ……。

「ちなみに、当人の防御力をカンストさせると、硬質化して自らの意思では動けなくなる。二人目の……確かイブと言ったか。彼女が色々とステータスを調整してくれてどうにかなったが……」

 イブが来るまで人間に知恵がなかった理由がそれか……。

 46億年身動きできないことに比べれば、神に襲われかけただけの僕はまだマシな方かも知れない。

 というか、さすがというか。

 神様、ヤバい。


 さて、改めて僕は神様と慎重にステータスについての相談を始めた。

 この異世界は基本的に現代の物理法則が適用されており、世界観は西洋の中世が元になっている。

 この辺りは『カクヨム』の諸小説のおかげだ。

 基本となる世界観はちゃんと確立している。

 それだけに、下手にステータスをいじくると先程のような話になりかねない。

「例えば我を投げ飛ばしたことだが、普通の人間なら大気圏まで投げ飛ばされてチリと化していただろうな」

 下手をすると、自分の力で自分を滅ぼしかねない。

「とはいえ今回はMaker(ツクール)シリーズの設定も取り入れているからな。君が死んでもRPGっぽくセーブ地点からリスタートできるように設定してあるし、何かあればその都度修正いけばいい」

 神様はガイドラインだけでなく、現在行われているコンテストまで目を通しているらしい。

 そこまで読み込んでくれているのに、どうしてこうなってしまったんだろう……。

「というか、つまりは僕が死ぬこと前提ですか……?」

 相変わらず事も無げに言う神様だが、それは要するに、僕が死ぬことを繰り返してバグ修正していくと言われているような気もする。

 僕はスマホを操作し、現地点でセーブしておいた。

 僕としては念のためのつもりなんだけど、どうも僕が死ぬフラグにしか思えない。とはいえセーブせずに死ぬわけにもいかないし……。

「……」

 僕が死ぬことのない、かつ俺TUEEEな、ベターなステータス調整。

 僕は熟考し、一つの手を思いついた。

「神様。この世界には魔法がありますよね?」

「ああ、なんかよくわからん理屈で人間が使える五属性のことだな」

 よくわからん言うな。

「その魔法力だけをカンストさせることは可能でしょうか? こう、スイッチをオンオフするみたいに」

 僕の身体能力はカンストさせずに。

 しかし、絶大な魔力の持ち主。

 これなら上手くいくような気がする。

「問題ない。ではスマホを貸してみろ」

 僕は神様にスマホを返却し、魔法の力をカンストしてもらう。自分の身体に強い力が込められていくのが感じられた。そして、その一方で不調は感じない。

「確かに魔力ですかね? 身体に不思議な力がみなぎっているのを感じます!」

 試しに神様に向けて、体内に秘められた癒やしの力をほんの少しだけ放ってみる。

 その瞬間、神様の傷が全て塞がり、傷が元通りになった。

「傷を治してくれるのはありがたいが、魔法を試すのにいきなり我を対象にするのは感心しないな」

「いえいえ、今までの感謝を込めてですよ。負の感情を抱いているなら、普通に火の魔法とか放ったりしちゃってますよ」

「ははは、君が我に負の感情を抱く理由など何もないだろう」

「あははっ、その通りですね!」

 回復上限突破して爆発したりとかはしないみたいだ。

 どうやら本当に魔法の数値だけがカンストしている。

 これなら案外上手くいくんじゃないか?

 僕は手をかざして、風の力を集約する。

 大気の僅かな揺らぎを感じ取り、周囲の状況を感知する。

 この魔法のおかげで、周囲の状況を100%認識できた。

 カンストしているせいで全世界の揺らぎを感知してこの世界のありとあらゆる事象を感知できていたりするけど、それはスルーすればいいだけのことだ。

 さっきの街の住人が、僕に惚れた冷めたでなんとも言えない空気になっているのもスルー。

「……神様。ここから東に向かったところで、少女がゴブリンに襲われています」

 思ったよりも距離は近い。これは自分の力を試すいい機会とも言える。

 魔法の効果で今起きている事件に気づいた僕は、東に向かって駆けだした。


 体力はそのままでカンストさせていないので、普通の青年男性の駆け足程度の速さではあるが、確実に目標に近づいている。

 走りながら、僕は神様に質問を投げかける。

「ちなみに神様。少女がゴブリンに襲われる理由って、どういう設定になっているんですか?」

「なんだ、薄い本みたいな展開を期待しているのか?」

「ち……違いますよ!ただ設定的にどうなっているのか気になっただけで!」

 嘘である。僕が間に合わなかったらどうなるのかなという、心配という名の期待をしているのは、ここだけの秘密だ。

「少女の手にしているほうれん草8束が目当てだな」

「なんか地味ですね!」

「ゴブリンにも社会があるからな。人間に発情する奴はヒトナーとして差別される」

 本当に僕が勧めたのはカクヨムだったんだろうか……。

 変にリアルというか、よくわからない設定のせいでゴブリンに対する敵意が薄れてしまったが、今この場で少女が襲われていて危険であることには変わりない。

 しばらく走ると、丁度少女が足をもつれさせ、まさに今ゴブリンに襲われる瞬間に立ち会った。

 僕は指先に魔力を込め、ゴブリンに向ける。

「では神様見ていてください。僕が颯爽と少女を救う姿を! いくぞ、ファ……」


 気がつくと、そこはセーブポイントだった。

「え……一体何が起きたんですか? 全く記憶がないんですけど?」

 最下級の火属性魔法ファイアを撃とうとして、ゴブリンを灰一つ残さず焼き尽くすというお約束のシーンが展開されるはずだったのに。

 戸惑う僕に、神様は呆れた視線を僕に向ける。

「死んだから」

「なんで?」

「カンストした状態で火の魔法を何のためらいもなく撃っただろう。そのせいで周囲の酸素を使い果たした。人は酸素のないところで呼吸をすると、瞬時に意識を失って死に至る」

「……」

「己の馬鹿さ加減に呆れているところ悪いが、早く東に向かわないと少女がゴブリンに襲われてしまうぞ?」

 この神様に馬鹿って言われた……。

 だが確かに、さっきセーブした後に魔法で周囲の状況を観察し、その後少女を助けに向かったのだった。

 今から急いで向かわないと、少女を助けることができなくなる。

 僕は全力で東に向かい、再び少女とゴブリンの前に現れる。

「じゃあ神様、見ていてください。今度こそ僕が颯爽と少女を救う姿を!」

 ゴブリンに向かって、僕は改めて指先に力を込める。

 前回は酸素が不足していた。なら風の魔法を同時に操り、酸素を供給すればいい。

 周囲の酸素を奪い尽くさないよう、火の魔法を放つと同時に風の魔法で酸素を供給する。

「いくぞ、ファ……」


「いやー、すごい大爆発だったな。森一つ消し飛んだんじゃないか?」

「……」

「酸素の供給は風属性の魔法か?いずれにせよ、カンストした状態で100%の酸素を供給すれば、炎を超えて大爆発を起こすことくらい理科の授業で学んだだろう?」

「……」

「己の馬鹿さ加減に呆れているところ悪いが、早く東に向かわないと少女がゴブリンに襲われてしまうぞ?」

 この同じ台詞の繰り返し、神様はNPCなのか?

 怒りを押し殺して僕は少女の元へ向かう。


 だが厄介なことに、これから僕は何度もこのセーブポイントに戻ることになる。

 カンストした魔力の調整があまりに難しいのだ。

 死因その3:放った炎の反射熱が強すぎて自分の身体が蒸発する。

 死因その4:放った炎により周囲が高温となり、森の全焼に巻き込まれる。

 死因その5:放った炎が地下水脈を加熱し、水蒸気爆発を引き起こす。

 その対策をしようと防御壁を張れば、炎が空気を切り裂く衝撃波が防御壁ごと僕を吹き飛ばすわ、他にも指から発火して全身に燃え移るわと、自分が死ぬパターンだけでも二桁に達した。

 失敗を繰り返すこと実に百回。

 NPCのごとく同じ台詞しか言わなくなった神様と、死んだ眼をした僕は、101回目にしてようやく少女を救い出すことに成功する。

「お嬢さん、無事ですか?」

 ゴブリンの魔の手から救い出された少女に手を差し伸べる「全裸の男」の姿がそこにあった。


「被告の発言を許可する。被告人、前へ」

「……」

 それから一週間後、裁判を受ける僕の姿があった。

「全裸の姿で少女の前に現れたのは、ゴブリンの襲撃から彼女を守るためということですが、それは本当ですか?」

 この中世風の異世界にも裁判所があることには感謝しなければならない。

 ここがなければ、きっと僕は助け出した少女の父親に裁判所送りにされることなく殴り殺されていたのだろう。

「被告人。弁明できる唯一の機会です。時間を有効に使うように。それで、なぜ全裸で少女を助けようと思ったのですか?」

 弁明したところで裁判官に理解してもらえるとは思えないが、残念ながら僕を擁護してくれる弁護士なんていない。中世だからというわけでなく、現代でも引き受けてくれる弁護士なんていないんじゃないかな……と思う。

 傍聴席もあるが、周囲から向けられる僕への「全裸の変態」を見る視線から考えるに、僕は有罪以外ありえないのだろう。

 だからせめてもの抵抗として、僕は全てを正直に話すことにした。

「……僕は神様から能力をカンストする力を与えられました。でもそれは『カンストするかしないか』の二択しかない、とても簡素なものでした」

 神様に僕が願ったこと。

『僕の能力値をカンストさせてくれませんか?』

『その魔法力だけをカンストさせることは可能でしょうか? こう、スイッチをオンオフするみたいに』

 この二つの台詞のせいで、あんなピーキーなカンスト機能になってしまった。

 結果として、基礎ステータスと、五属性の魔法力をカンストさせるかどうかしか、あのときはできなかったのだ。

 僕が死ぬたびにセーブポイントからやり直せるまでは良かった、だけど。

「セーブポイントから少女の襲撃まで、時間は5分くらいしかありません。その中で必死に『どの能力をカンストして、どの能力をカンストしないか』を組み合わせて、少女を助け出すまで、何度も死んではセーブポイントに戻ることを繰り返しました」

 火・風・氷、光、闇。これら五属性の魔法と自分の各種ステータスを組み合わせ、どうにか少女を助けるパターンがないか必死に探した。

「そしてようやく、少女を救い出せる組み合わせを見つけることができました。でも神様からもらったカンストの力は僕自身にしか発揮しないのです。『防具の耐久力』はどうあがいてもカンストさせられませんでした」

 きっと神様に頼めば、武具防具のステータスだってカンストさせられることくらい造作もないだろう。だが、セーブポイントから少女を助けるまでの時間があまりにも少なすぎた。

「だから、少女を助けるために、僕の装備は犠牲となりました。少女を助けるために僕は全裸となったのです」

 着ていた衣類は火に焼かれ、風に飛ばされ、氷漬けにされ、光にかき消され、闇に沈んだ。

 少女を助けるためには、全裸になるより他なかったのだ。


 この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではない。

 物語の表現上、どうしても僕は全裸になるしかなかった。

 だからもし神様に再び出会うことがあるのなら、あの街の中央にあるオベリスクにセルフレイティングの記載も追記してもらおう。

 監獄までの護送途中、遠のく街を見ながら僕はそんなことを考えていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

神様は異世界の作り方がよく分からないようです ちゆねり @chiyuneri

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ