彼女の人生最後の「曲」
弥生ver
「弥生さん、私もあの夕日のように、行くべき場所へ行かなくては。最後に、雪と二人で、一緒にいつもうたった、「翼をください」を弾いてもらいたい、です。私の、最後のわがまま、聞いていただけますか?」____________
精華さんはそう言った。それぐらいお安い御用だ。精華さんの最後、私のヴァイオリンの演奏で見送らせていただこう。
「ええ。では、「翼をください」を演奏しますね。雪さん、私からのお願いです。最後、彼女の手を握りながら、歌っていただけますか?きっと精華さんも安心できると思いますから。」
そう。本当にこれが最後だ。でもきっと、この二人なら、また会うことができるだろう。
「言霊」には力があるのだから。
私はゆっくりと演奏を始める。それに続けて、雪さんが歌い出す。
すうぅっと精華さんの体が透けていく。
精華さんの姿が消える瞬間。精華さんが銀杏の葉のように、明るい笑顔を見せてくれた気がした。
________________。
精華さん、またどこかでお会いしましょう。私はそう、呟いて、周りの四人とともに、帰路へ着いた。
「あっ!合言葉忘れた!」と気づいたのはその五時間後。
あれから一週間がたった。精華さんの笑顔は今でも忘れられない。
精華さんをあの世へ見送って二日目ぐらいに、私に変化が現れた。
昔の失った記憶が、多分、まだ一部でしかないけれど、戻ってきたのだ。
そう。あの少年にかかわり深い部分が多かった。私は今回、新しく、あの世へは行かないが、私が依頼人として、自分で自分の事件を解決しようと思う。でも、もちろん、漱石と雪には手伝ってもらうけど。実はあの事件後、治は急用が入ってしまい、山へ戻った。そして、雪さんは、私たちの仕事のメンバーになりたいと願い出てきたのだ。というわけで。今現在のメンバーは、漱石と雪、私。メモには一応治の名前もある。解決した事件の項目に、「大公園の大銀杏の主の見送り」との記述が増えた。
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