転生者としての「記憶」

漱石side

一体何が悲しくて、僕が別荘で!タヌキと?二人で?暮らさなければいけないのさ!

あいつは、知り合いといっても、昔は「親友」、いや、「家族」のように仲のいいやつだった。

その関係が変わったのはちょうど六年前の、あの、「さくらまつり」の日_____________。

~~~~~~六年前の○×町で行われていた「さくらまつり」にて、漱石の回想~~~~~~

はて。「まつり」とは。「まつり」とは、楽しく食べたり踊ったりするものではないのか?

それなのになぜ、僕は「花見の席とり」という名の雑用を、早朝六時、「コケッコッコー!!」の声とともに行わなければいけないのだ。それに僕は「柴犬」だ。「犬」だ。「お犬様」だ。

それなのに、なぜ!一体なぜ!何が悲しくてこんな雑用を私に押し付けるのだ!祟る、祟るぞ、雑用押し付け係の皆さん。

そして、まつりとは。

「ガサゴソ、ガサゴソ。」僕の首に巻いてある風呂敷の中に、たしか、あれがあったはず・・・・・・!

「あった!!!!!!」

そう、僕が僕のために買った、僕だけの辞典。

そこには、こう書かれていた。


② まつること。祭祀。祭礼。俳諧では特に夏祭をいう。〈[季]夏〉

②特に、京都賀茂神社の祭の称。葵祭(あおいまつり)。蜻蛉日記上「このごろは四月、―見にいでたれば」

③ 近世、江戸の二大祭。日吉山王神社の祭と神田明神の祭。

④ 記念・祝賀・宣伝などのために催す集団的行事。祭典。「梅―」「港―」

                                出典「広辞苑」

・・・・・・・・・・。

ヤハリ。やはり、まつり=雑用 ではないな。そう思って、辞典を閉じたときだった。

パッ!と体が青い光に包まれた。空色、水色、藍色、紺色、群青色。それに、浅葱色、瑠璃色、シアン、コバルトブルー。どんな青とも表現できない、そんな色だ。

その瞬間に。僕の頭の中に大量なる思い出?の記録がよみがえった。例えば、この記憶のかけら。このかけらは、僕が「人間。年齢二十八。フランス革命時代の、イギリスの貴族」の時のもの。次にこのかけら。このかけらは、「人間。年齢百二十五。江戸時代のスーパー長生き。職は・・・・・・。不明。」の時。そのほかにも、「うさぎ。年齢三。(うさぎの年に換算すると三十六歳)。うさぎによる、うさぎのための、うさぎの展覧会では、金賞にノミネートされた。「ミミ」だけが黒く、「胴体」や、「足」は、まるで雪のような、カルピスのような真っ白という珍しいうさぎ。」や、「ライオン。年齢、不明。黄色いたてがみの長さは、1mほどと、ギネス世界記録保持ライオン。アフリカ生まれのアフリカ育ち。」_______________。

記憶のかけらが増えるたび。僕は一つの「可能性」でしかなかったものが、「事実」に変化しつつあることに、恐ろしさを感じていた。その、「可能性」とは。きっと、僕は、「転生者」であること。そして、もともと、僕は人間だった。ということだ。

「人間だったとは、一体どういうことだ」と思う人もいるだろう。ただ単に転生する前が人間だったんじゃないか・・・・・・。とか。でも違う。僕が最後に転生した後の姿は人間だった。つまり_______________。

「君は、修行をするつもりはないかね?」

いきなり、話しかけられたものだから、すごくびっくりした口調でこう、答えてしまった。

「ぜひやらせてくれ。」

僕はいきなり目の前に「転生者」だった、とか。それにもとは人間の姿で、今の犬の姿は、転生したからではないと。そんな事実だけが目の前にあって、とにかく気持ちを整理したかった。だからきっと、「やりたい」だなんて言ってしまったのだろう。

そう。そしてこの時に声をかけてくれたタヌキ。それが治だ。そう、これが僕と治との出会い。

それからは、もう、思い出したくもないほど、過酷で最悪な修行だった。例えば、

山にこもってひたすら滝に打たれる、とか。一日中、山を登ったり下ったりとか。

僕を飼っていた飼い主などいなかったし、花見は周りの野生動物とともに天城山へ見に行っていただけだったから、修行していても全然ダイジョウブ!な環境が僕の周りにはあった。そのせいなのか、もちろん修行はひたすらつらい!苦しい!でも、僕の心はとても安心していたし、心の整理もすることができた。でも、治は一言も何も言わない。ご飯を食べるときには「いただきます。」と「ごちそうさま。」だけだし、使用最低限度の言葉しか発しない。でもそれが一番心地よい、楽な関係だった。

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