わたしたちの「合言葉」

最後に、ベルを部屋のドアにつける。これをつけると、お客さんが来たとき、すぐあいさつができる。ここは家が小さくなった、といった感じの部屋で、うち(妖家本家の家)の離れとなっているらしい。(住人不在)。もともと、結核にかかった私のひいおばあちゃんがずっと生活していた場所だったようで、おしゃれ好きのひいおばあちゃんの部屋はとてもかわいらしい内装になっている。飾りだらけではない、飾りを、ものの品格を生かすための工夫のように使っているこのデザインがとてもかわいい。派手過ぎず、地味すぎず。絶妙な色加減や物の使い方の工夫一つ一つが、私にとって一番心惹かれる部分だった。

「漱石、お客さんの依頼を受けるときの呪文みたいなの考えない?」

よくお店とかで使われている合言葉のようなもの。あれに私は少しあこがれを抱いている。だからなんでも良いから言ってみたかった。

「そうだな~。Are you ready?なんてどうだ?私たちは今からその依頼を受けますよ~、完璧に作戦を遂行する準備はいいですか?みたいなイメージで。」

「たしかにいいかも。そんな合言葉だったら、やる気も出そうだし。面白ければまあいい感じになると思うよ。」

「合言葉」。私はこれが自分の仕事のモチベーションに繋がると、そう思った。どんな人でもモチベーションを上げるために何らかの「工夫」はしていると思う。だから。だから「合言葉」は、私のモチベーションアップに必要となるものなのだ。と思う。(たぶん)

それに、「Are you ready?」という単語。なんだか、これから「目的」を叶えられるんだ!、と依頼人(依頼霊?)に感じてもらえると思う。私が言うのも何だけど、正直、いきなり、

「あなたのこの世に留まる目的を叶えてあげますよ。」なんていきなり信じられないと思う。だって依頼人は、これまでとどまっている年数分、何らかの調査をしているはずだ。なのに、いきなり、名前も顔も知らないような新参者に「叶えてあげますよ!」なんて信じるわけがない。だから、ここに来る人は、もう諦めきっていて、「藁にもすがる」ような感覚できっとここへ来るんだろう。だから少しでも安心してもらいたい。だからちょうどいいはずだ。

「弥生、いきなりだが、いくつか修行をしてもらう。一応指導者もしっかりしているやつらだから、大丈夫だと思う。頑張ってくれたまえ。」

まるで、エベレストの上から言っているように、上から目線で、偉そうに漱石が言い放つ。それにしても・・・・・・・・・・。漱石の言った言葉の「一応」と「・・・・・・・・・・だと思う」に不安要素しか感じられない。そう。これは。「漱石」だからである。なんだかとても嫌な予感がする。

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