わたしと「ヴァイオリン」
なんで漱石は私がヴァイオリンを弾いていると知っているんだろう。ヴァイオリンを弾いていることは母にすら伝えたことがない。父の知り合いの人に教えてもらっていたから、父は知っていたけれど。また漱石についての謎が増えた。漱石の謎が増えていくたび、私は漱石との壁が厚くなっていってしまうような気がしてしまう。やはり漱石が離れて行ってしまうのが怖いのだ。私は自室のヴァイオリンを取り出し、ケースごと、漱石の待つリビングへ持っていった。私のヴァイオリンには一つ、秘密がある。それは、ヴァイオリンに犬のマークのようなものが切り込まれていることだ。最初に買った時にはなかったけれども、父がこの世を去って一週間。レイケンの力を持った時ぐらいについた印のようなものだ。漱石がこのヴァイオリンを指さしながら、はきはきと言った。
「このヴァイオリンで演奏すると、霊を安心させるとともに、あの世へ見送りをすることができるらしい。曲は自由。とにかく心を込めて演奏するのが重要らしい。せっかくだし、仕事に入れてもいいんじゃないかな。演奏も。」
確かにいいかもしれない。これまで誰の前でもヴァイオリンはほとんど弾いたことがなかったから少しわくわくする。
「いいね。少し楽しみになってきたよ。せっかくだし、仕事の名前は「メロディー屋」なんてどうかな。演奏で最後は締めくくるんだし。」
私はとにかく「メロディー屋」の仕事が楽しみだった。だからあの日。私は「世界で一番嫌いで行きたくないところ」に「世界で一番会いたくない人たち」に会いに行った__________。
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