漱石の「帰還」
そんな時だった。漱石が帰ってきたのは。第一声が
「おなか減った!ご飯作って!」
だったことに、私は心底がっくりした。まさかの展開すぎる。いきなりあっさり帰ってくるのは想定内ではあったけれども。けれども!いきなりあんな去り方をして、なにもなかったかのようにあっさり帰ってきたのだから、こちら側としては拍子抜けしてしまうのは当たり前と言ってもいいだろう。
「漱石、すこしあんたと話したいことがある。」
私はそう言って、仕事を手伝ってほしい、と言うことにした。
「漱石、私の仕事始めようと思うんだ。レイケンの力を使って。霊たちのこの世にとどまる目的を叶えるために手伝いをするっていうのが仕事の内容。私一人だと心細いし、漱石にも手伝ってもらいたい。漱石は予知ができるんでしょう?それなら私の代償も少しは改善することができるかもしれないし、漱石が、働いてくれるということであれば、この家に住み込みで朝昼晩のご飯を食べさせてあげる。どうする?私としては漱石に仕事を手伝ってほしいんだけど・・・・・・。」
私はそう言って、早速漱石を誘った。そしたらなぜか漱石が、
「ペン、貸して。」
と言ってきた。どういう意味かは分からないけど、素直に貸してあげることにした。私がペンを漱石に差し出すと、仕事メモのメンバーの欄に、「漱石(そうせき)」と無言で記入し始めた。犬なのにきれいに文字が書けるとはいったいどういうことか気になるが、そもそも漱石が漢字が書けることに私は感動した。一応犬のはずなんだけどなぁ~。そういえば。名前を書いてくれているならば、私の仕事のパートナーということだ。改めて漱石には感謝だ。
「弥生。」
「ほぇ?」
いきなり漱石が私の名前を呼んだせいで、変な声が出てしまった。
「弥生。」
「何?名前ばっかり呼んで。」
なんでずっと弥生弥生言ってるんだろう。
「弥生、レイケンについてもう一つ仕入れたデータがある。どうやらレイケンは霊を見る、という能力だけではなく、霊を成仏させる能力もあるらしい。弥生、君のヴァイオリンを持ってきてくれ。説明はそのあとだ。」
漱石はそう淡々と私に告げる。
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