夢からの「目覚め」

コンッ。コンッ。ドアのノック音が聞こえる。

「起きろ。」

ごんっ!と頭をベッドの端にぶつけてしまったせいか、あたまがヒリヒリと痛む。

「ずいぶんすやすや寝ていたけど。面白い夢でも見ていたの?」

漱石にそう訊かれて思い出す。そうだった。あれは夢だ。それにしてもずいぶん現実味を帯びた夢だった。漱石も出てきていたし。でも大丈夫。私は高校生。大学生じゃない。それに今日は木曜日。金曜日でも土曜日でもなく、作文発表をする予定もない。あくまであれは夢。自分にそう言い聞かせる。昔から悪夢ばかり見てきたせいか、やはり夢は恐ろしいと感じてしまう。

「大丈夫。なぜかすごく悪い夢を見ていたような気がする。でも大丈夫。あくまで夢だから。」

他人(正確には他犬)が目の前にいるせいか、いつも以上に強がって見せる。

「どう見ても大丈夫には見えないぞ。鏡を見てみなよ。」

漱石が黒くて四角い、いたって普通の鏡を差し出してくる。ありがとう、と言って受けとると____。私の顔の右目が腫れぼったくなっていた。水ぶくれ?のような、ものもらい?のような。とにかく正常な右目とは言えない状態になっている。そして手。かっさかさに乾燥しているのか、そこら中にあかぎれがある。なぜ。まったく心当たりがない。昨日、学校から帰ったら漱石がいて。漱石にレイケンについて教えてもらって。確かその途中で意識がなくなって倒れてしまった________。というのが昨日についての私の記憶。つまり、ずっと泣いていたこともなければ、目を触ったこともなく、その上ノートで手を切ったこともなければ、家事をしたわけでもない。何もしていないのにこんなことが起きるのはおかしいと判断できる。一体何が起きているのだろうか。そんな時、

「あっ!」

と、漱石がいきなり叫んだ。どうやら何か思い当たる節があるらしい。

「レイケンの力にはちょっと厄介な問題があるって説明する前に弥生が倒れたから、説明してなかったね。レイケンの力は、霊を見ることができる代わりに、体がダメージを受けやすいんだ。だからあかぎれや目が腫れたりするんだ。それに、妖家は鎌倉時代末期ごろに幕府が集めた首を保管する役割を担ってたらしくて、その首たちがずっと怨霊となって呪ってるみたいだよ。だから多分弥生が昔から悪夢を見てきている原因はそれだと思うよ。ただ一つだけその「代償」を払わなくて済む方法があるんだ。それが、代々予知能力にたけている人間と仕事を行うっていうこと。「仕事」はなんでもいいんだ。いろんな人の相談を聞いてあげたり、小説を書いたり。なんでもいいんだ。でも条件が一つある。それはレイケンの力を必ず使うこと。神から授けられたといわれているこの力を、ちゃんと活用することに意味があるんだ。そして、その力をつかって周りを笑顔にさせること。これが重要なんだ。」

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